4-20黒龍
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
この迷宮での今までのあたしたちの苦労って一体……(カリナ談)
人類未踏とまで言われた世界最大の大迷宮の最下層で今、私たちはお茶を飲んでいる……
「しかしそうなるとますますお母様が何をしに行ったのかが気になりますね?」
コクさんはそう言いながら顎に指を当て考えこむ。
もう用は無くなったのだからおいとましたいのだけどそんな事が言い出せる雰囲気じゃない。
仕方なく、せっかくなので入れてもらったお茶を私も飲んでみる。
「うわっ! なにこれ美味しい!!」
多分紅茶の部類だろうけど今まで飲んだことが無いような良い香りと、すっきりとした味わい、そしてその香りの良さがずっと口から鼻へと残っている。
「当然でいやがります。ジマの国最高の茶葉でいやがります。これは黒龍様のお気に入りの一品。本来ならお前ら如きに飲ませるものではないのでいやがります」
「これクロエ、黒龍様がお招きした客人だぞ? その物言いはあまりに無礼であるぞ?」
クロエさんはツンとしながら腕を組んで私を見下ろす。
そんなクロエさんをクロさんは嗜めるけど、本当にこのお茶は凄い。
うーん、紅茶は美味しいし、お菓子も美味しい。
コクさんって実はすごい美食家とか!?
「ほんとあんたら姉妹には驚かさせられるわよ。よくこんな状況でお茶が飲めるわね……」
なんかカリナさんは胃のあたりを押さえながらそう言う。
なんでだろう?
「ははは、このような状況下でもお茶の味を楽しめるとはリルとルラは大物になるのでしょうね。私などはカリナ同様に胃が痛くなってきましたよ」
不思議に思っているとネッドさんは小声でそう言う。
思わず私もルラも瞳をぱちくりしてしまう。
確かにコクさんもクロエさんも多分クロさんも凄い人なんだろうけど、せっかくのおもてなしなのだもの、美味しく頂かなければ逆に失礼なのでは?
サクサクと美味しいビスケットを食べながらそう思ってしまう。
「そう言えばあなたたちはエルフのネットワークを使い情報交換が出来ましたね? シェルを呼び出し状況を聞く事は出来ますか?」
サクサクとビスケットを食べていたらコクさんがおもむろに私たちにそう質問をして来た。
私とルラは思わずカリナさんを見る。
「うっ、す、すみません。エルフのネットワークは風の精霊がいる地上でないと使えません。それにまとめ役のファイナス長老に一旦情報が集まり、要約してまた私たち渡りのエルフに情報が流されるので私のレベルでは直接シェルと連絡できるという訳でもないのです……」
カリナさんが私たちを代表してそう言うとコクさんはカップをお皿に戻し残念そうに言う。
「そうですか、それでは仕方ありません。後は…… そうですね、ジマの国に行って風のメッセンジャーを使わせてもらいましょう。一体ジルの村で何が起こっているのか確認をしなければなりません」
そう言ってティーカップを置きナプキンで口元を拭く。
「すぐにでもジマの国に向かいます。支度をしなさい!」
「御意」
「はっ!」
コクさんがそう言うとクロさんとクロエさんは深く頭を下げながら答えるのだった。
* * * * *
「えーと、つまりコクさんが一気に地上に行く方法としてジマの国に転移魔法で移動すると言う事ですね?」
「そうですね。私が使えるゲートは直接地上に行くにはジマの国だけとなってしまいます。後は迷宮の各階を移動する方法ですが、あれは時間がかかり過ぎます」
そう言いながらコクさんについて行き転移魔法の魔法陣がある部屋まで行く。
私やルラは勿論カリナさんたちだってずっとここにいる訳にもいかないし自力で地上にいくなんて出来ない。
だからコクさんに付いて行って地上に行くのだけど、行ける場所がいきなりジマの国になってしまう。
「まさか様子を見に来てジマの国にまで行く羽目になるとはねぇ。カーネルも心配してるわね……」
「仕方ないさ、ジマの国にだって冒険者ギルドはある。そこでユエバのギルドに連絡をしてもらうしかないさ」
カリナさんやトーイさんはため息をつきながらそんな事を話している。
確かにユエバの町に魔物たちが押し寄せる原因と万が一の脱出ルートを探しに来たのにまさかの大迷宮の最下層に来るとは誰だって思わないだろう。
そしてこれから行くのがお隣の国、ジマの国となれば誰だってため息の一つもつきたくなる。
「とにかく今は黒龍様に付いて行って地上に出ましょう。話はそれからね」
カリナさんのその言葉に私たちは無言で頷くのだった。
* * *
そこは山岳地帯に囲まれた盆地で、お城はその険しい山の上に有った。
「ここがジマの国ですか……」
転移した先が何とお城の裏に有る祠だった。
かなり古い祠であったけど手入れが行き届いており奇麗にされていた。
お供え物だろうか、お花や果物なんかも置かれている。
「ふん、ちゃんと祠の手入れはしているでいやがりますね?」
「当然であろう。黒龍様がおいでになるゲートだ。ここをおろそかにすることはジマの国では有り得んであろう」
何故かクロエさんとクロさんは祠の様子を厳しく確認している。
「クロ、クロエ。今はそのような事はどうでもよい。すぐに大臣と国王を呼びジルの村へと連絡を取るのです。今あそこで何が起こっているのかを」
「「はっ!」」
しかしコクさんがそう言うとクロエさんとクロさんはすぐに頭を下げて城の中に入って行った。
まあ、あちらはあちらでやってもらうと言う事で私たちは早い所ジマの国の冒険者ギルドへ向かった方が良いだろう。
「え、えーと黒龍様。いろいろとお世話になりました。私たちは冒険者ギルドへ行って今までの事をユエバの町の冒険者ギルドに伝えなければなりませんのでここでおいとまさせていただきます」
「おや? もう行くのですか?? 分かりました、それでは城の者に伝えてギルドまで送らせましょう」
「いえいえっ! そのような黒龍様のお手を煩わせるような事など!!」
カリナさんがコクさんにそろそろおいとまする事を言うとコクさんが城の者に冒険者ギルドまで送らせるとか言い出す。
勿論カリナさんは慌ててそれを遠慮するのだけど、コクさんってお城の人間にまで影響力有るんだ。
黒龍様って言われるのだから当たり前かな?
「黒龍様!!」
そう私が思っているとお城から大臣さんぽい人たちと頭に王冠を乗せたおじさんがやって来た。
クロエさんとクロさんも一緒だからあれが大臣さんたちと国王様か。
「黒龍様、お助け下さい! ジマの国が襲われております!!」
「はいっ!?」
王様らしき人が言った言葉に私は大いに驚かされるのだった。
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