4-4味変
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
お料理の基本はさしすせそ~♪(リル談)
「お姉ちゃん何とかならないのこれ?」
「うーん、確かにこれじゃぁねえ……」
ルラと一緒にお椀の中身を見ながら私は悩む。
確かにこれでは食べた気がしない。
私はため息をつく。
そしてお椀をルラに持ってもらいながらポーチに手を突っ込みおかみさんにもらった袋を取りだす。
「せめて味付けだけでも変えられれば……」
そう言いながら袋を開けて中身を見ると香辛料の類が有った。
乾燥させたパセリやバジル、オレガノにシナモンなんかも入っていた。
それと貴重な胡椒が入っている。
「おかみさん、胡椒まで入れてくれていたんだ……」
レッドゲイルではなかなか手に入らない胡椒。
シーナ商会でも入荷するとすぐに売り切れてしまい、今の時期は栽培に適していないので在庫が少ないと言われていた。
私は玉ねぎと香辛料の胡椒を二つぶ、乾燥したパセリにバジルを準備する。
そして鍋とチーズを出して焚火を見る。
明かりと暖を取る為に数人が集まって荷車の内側でも焚火をしている。
なのでそこを少し間借りしてお椀のポトフをお鍋に戻し、玉ねぎを刻んで乾燥パセリ、バジルと石で擦りつぶした胡椒を入れて火にかけさせてもらう。
「後はこれだけど、こうしてっと」
硬い黒パンをナイフで半分に切って棒に差し火であぶる。
硬い保存用のパンでもこうしてあぶっていくと意外と柔らかくなる。
あぶっていると程よく焦げ目がつき始め小麦の香りがしてくる。
でもぱさぱさなので先ほどのチーズをあぶり終わったそこへ挟んで出来上がり。
ポトフも煮えて来て具材が少し崩れ、スープに味も出てややとろみが出始める。
くるくるとお鍋を掻き回し様子を見る。
もういい様だ。
香りもバジルとパセリ、胡椒を入れたのでふわっといい香りがしてくる。
私はそれを元のお椀に戻しパンと一緒にルラに手渡す。
「さあ、できた。味変よ、パンは温かいうちならだいぶ柔らかくなっているから嚙み切れると思うよ」
「わーい、いただきまーす!!」
ルラはさっそくそのパンを手に取りかじりつく。
さくっ!
もしゃもしゃとそれを咀嚼して飲み込む。
フランスパンくらいの硬さに戻った黒パンは間に挟んでとろけ出したチーズのお陰で意外と美味しい。
そしてポトフも煮込んだおかげでスープに味が出て来て全体の調和がとれていた。
玉ねぎの甘みとコクが合わさり煮物の基本であるジャガイモ、人参、玉ねぎの黄金配合が完成する事によりより味わい深くなる。
更に貴重な胡椒が良い味を出していて、乾燥パセリやバジルの独特な風味と香りが味気なかったポトフに彩を加える。
それに乾燥肉も煮込んだおかげでだいぶ柔らかく出汁も出ているので味もぐっと良くなっていた。
「うん、これなら食べられる~」
「まあ、せめてこれくらいのは食べたいわよね?」
言いながらもしゃもしゃとご飯を食べているとなぜか皆さんがこちらを見ている。
勿論ネコルさんも。
私はそれに気づいて食事の手を止めて周りの皆さんを見る。
「あれ?」
ごくり。
何故か皆さんこちらを見ながらつばを飲み込んだりもの欲しそうな顔をしている人もいる。
「ぷはぁ~! 美味しかった!! ごちそう様~」
しかしそんな皆さんの状態を無視してルラは食事を終える。
満足そうにお腹を擦っている。
私も残りを皆さんに見られながらも食べ終わるとネコルさんがこちらに来て聞いてくる。
「リルちゃんだっけ? 君は料理が出来るのかね?」
「え、ああ、はい、そうですけど?」
私がそう答えるとネコルさんは懐から銅貨を一枚差し出し私に言う。
「明日から儂もリルちゃんが再加工したそれを食べさせてもらえんかな?」
「はい? えっと、いいですけど……」
ネコルさんの分を追加で加工するのは鍋の大きさから問題は無いだろう。
そう私が思っていたら近くの人たちも一斉に寄って来た。
「エルフの嬢ちゃん、俺のも頼めないか?」
「儂も頼む!」
「金は出す、俺の分も頼めないか!?」
キャラバンに同行している一般の人以外にも護衛の人や商隊の人なんかも混じっている。
なんかみんな真剣な表情だった。
その気迫が凄い。
なにこれ、どう言う事!?
「騒がしいな、どうした?」
「ああ、隊長! このエルフの嬢ちゃんが料理できるって言うんですよ!!」
人が集まり騒ぎになっている中、やって来た隊長さんに商隊の人がそう言うと隊長さんは大いに驚く。
「なんだと!? 料理が出来る人間がいるのか!?」
キラーンっ!!
「えっ? ええぇっ!?」
瞳を輝かせ、隊長さんは私の前まで来るとぐっと近づいて来た。
そして力強く私に問いかけて来る。
「あんた、料理が出来るのか?」
「は、はい、で、出来ますけど」
なんなのよ一体?
あまりの迫力にそう答えると隊長さんは私に満面の笑みを浮かべて言う。
「そうかそうか! なあ、あんたに頼みがある。金は出すから旅の間に俺たちに飯を作ってはくれないか? 俺たちのキャラバンには飯をまともに作れる人間がいないんだよ!」
「はいっ!?」
驚く私に後ろでルラは「あ~」とか言っている。
周りには商隊の人や護衛の人も私をじっと見てうんうんと頷いている。
「え、ええぇとぉ……」
皆さんに囲まれ思わず尻込みしてしまう私だったのだ。
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