4-3キャラバン飯
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
うわ、まっず!(ルラ談)
「よーし、今日はここまでとする。野営の準備をしろ!」
隊長さんが日が傾き空が茜色になる前にキャラバンの進行を止めた。
一応街道はあるけど安全なものではない。
暗くなり始めて無理をして進行するのは危険なのでちゃんと休憩を入れながらの進行となる。
商隊の人たちはすぐに野営の出来そうな広場を探してそこへ馬車を引っ張ってゆく。
円形に荷車を配置して中に馬を引き入れる。
荷馬車の外側に四つの焚火が出来る場所を作りそこへ護衛の人たちを四分割して配置する。
商隊の人たちは私たちを含め荷車の内側に休める場所を作る。
「配置が終わったら食事の準備をしろ!」
隊長さんの号令に商隊の人たちが四か所の焚火の場所で鍋を準備して食事を作り始める。
「お姉ちゃん、何食べられるのかな? 移動中は携帯食だったからあたし楽しみ~」
「そうだね、ちゃんとした食事って初めてだもんね」
ルラは商隊の人たちが調理を始めているのを覗きたくてうずうずしている。
まあ、ここまでずっと荷車に座って食事もまずい携帯食だった。
街や村の外は相変わらず魔物や魔獣が多いから危ない場所。
移動を優先するのは分かるけどトイレとかの休憩ですらほとんど無いのは女の子の身としてはちょっときつい。
「……お姉ちゃん、なんかあのご飯って」
私がそんな事を思っていたらルラがげんなりして指さす。
エルフなので遠くにあるモノのよく見えるので商隊の人たちが作っている料理を盗み見ていたのだろう。
ルラに言われ私もそちらを見る。
「皮ごとジャガイモを切って入れている? あ、人参も??」
そこそこ人数いるからその位は仕方ないとは思うけど、赤竜亭で仕込みしていた身としてはあまりにも手抜きに感じる。
そして乾燥肉を切って入れている様だけど、最初に戻しておかないと煮込んでもなかなか柔らかくはならないはず……
「どうしたのかね?」
「ああ、ネコルさん。なんか商隊の人たちが作っているご飯がその、手抜きっぽいと言うか何と言うか……」
野営で自分の寝床とかを準備し終わったネコルさんが私たちに声をかけて来た。
そして首をかしげる。
「飯が手抜き? ああ、キャラバンのまずい飯は有名だからね、仕方ないよ」
「有名なんですか!?」
思わずネコルさんの顔を見直してしまう私。
いや、確かに赤竜亭のおかみさんもそんなような事を言っていたような気がする。
でも流石に自分たちだって食べる食事なんだから少しは……
「キャラバンでは腹に入りさえすれば好いという考えが昔からあるからね、味より栄養バランスと量を優先されるんだよ、結果キャラバンの飯はまずいってのが定番なんだよ」
言われて向こうを見るとどうやら食事の準備が出来た様だ。
すると商隊の人たちは食事が出来た旨を伝えて来て各人で取りに来るよう言う。
私とルラ、ネコルさんも近くの配給場所へ行ってみる。
そしてお椀にポトフと黒い保存の効く硬いパンを一つ手渡される。
「お姉ちゃん、これって……」
「うん、限りなくただ煮込んだだけって感じ…… パンもナイフで削り取るタイプの保存用……」
ポトフ類に入るのだろうけど、多分塩くらいしか入っていないように感じるほど透明なスープ。
そして冒険者が携帯食として持ち歩くかじっても噛み切れない程硬い黒パン。
この黒パンって本当にナイフなんかで削って少しずつ食べるかポトフに入れてふやかすかしないと食べられない。
「ふむ、いつも通りの食事だね。さて、さっさと食べて寝てしまおうか」
ネコルさんはそう言いながら最初から黒パンをポトフに放り込む。
そしてスプーンでそれをスープに浸して潰すように崩し始めた。
「あ、あの、何をしているんですか?」
「ん? ああ、黒パンが固いんでね、こうして最初からスープに浸して柔らかくしてあとはかき込めば味を感じる前にお腹がふくれるからね」
そう言ってまた黒パンをぐちぐちと潰す。
もうほとんど残飯のようになっている。
「お姉ちゃん、このポトフ塩の味しかしない……」
ルラもお椀に口を少しつけて味見をしている。
私もお椀の中を見るけど具に火が通たばかりでスープに味が染み出てはいなそうだ。
浮いている乾燥肉もどう見てもまだ堅そうだし……
それでも仕方なしにネコルさんの近くに私たちも腰を下ろし食事を始めるのだけど、スープを一口飲んで絶句する。
「ま、まずい…… 塩の味しかしない……」
「うーん今日は特にはずれなのかなぁ~」
久々にまずい食事に二人して驚いているとネコルさんが不思議そうな顔をして言う。
「キャラバンの飯は毎日これだよ? 毎日代わり映えしないこれしか出ないよ?」
「「え”っ!?」」
ネコルさんは潰し終わった黒パン入りの残飯の様なポトフを食べ終わりそう言う。
そして自分の荷物からお酒とつまみを出してちびちびと飲み始める。
「お姉ちゃん、毎日これって……」
「う、うん。ちょっと想定外だった。毎日これが食事だなんて……」
確かに食べて食べられない訳では無いけど、口にしてその味を確かめるとジャガイモも人参もやっと火が通ったくらい。
乾燥肉も全然柔らかくなっていないのでスルメイカでも食べているかのよう。
そして黒パン。
特にこの黒パンは乾燥が行き届いていてほとんど石。
ルラなんかさっきからかじっているけどまるで歯が立たない。
「お姉ちゃぁ~んッ!!」
「うーん、これは流石に……」
私は自分の手元のそれを見て唸ってしまうのだった。
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