17-9親友
異界の者を撃退して、世界の崩壊の危機は免れた。
しかしリルとルラのやってしまった事は皆に迷惑をかけ、それを気に病むリル。
そんなリルの背中を押すようにジルの村の長老の妻は言う。
「迷惑をかけたと思う人がいれば、みんなに同じようにリルさんが誠意を込めてご飯を作ってあげなさい。きっとみんなそれで許してくれるわよ」
その言葉にリルはまた動き出すのだった。
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
重い気分の中、私たちはとうとうボヘーミャの学園に着いた。
久しぶりに見る学園は既にがれきの処理も終り、修復が済んでいる建物がほとんどだった。
なんだかんだ言ってここも凄い魔法が使える人はいる。
ジルの村同様にゴーレムがレンガを積み上げたり重い荷物を持ち上げたりしているのが見えた。
「校舎と宿舎、だいぶ直ってるね」
「うん…… 改めて私たちってこんな事してしまったんだね……」
窓の外にはまだ修復している校舎があった。
そして馬車は止まる。
「リル殿、ルラ殿つきました」
「あ、はい。今までどうもありがとうございました」
馭者の人はそう言って扉を開けてくれる。
そして私とルラを降ろしてくれて、ヤリスに荷物を届けるので、これでと言って行ってしまった。
私は校舎を見る。
「リル、ルラっ!!」
声がして、マーヤ母さんが私たちを見つけて飛びついてくる。
ばっ!
抱きっ!!
「うわっ、マーヤ母さん苦しいよ~」
「マーヤ母さん……」
大きな胸に二人して顔をうずめられ抱きしめられる。
「良かった、ちゃんと戻って来てくれたのね! お母さん、心配で心配で!!」
いつものマーヤ母さんだった。
そしてそれがもの凄く私の心を締め付ける。
「マーヤ母さん、その、ごめんなさい!」
マーヤ母さんの腕から抜けだし、私は一歩下がって思い切り頭を下げる。
それを見て、ルラも同じく私の隣に来て頭を下げる。
「ごめんなさい!」
謝って済む事じゃない。
でも今は謝りたかった。
「もう、リルもルラも良いのよ。幸い死人は出なかったし、学園もなんだかんだ言ってもう少しで修復できるしね」
「でもっ!」
そう優しく言うマーヤ母さんに私は思わず顔を上げて言う。
「私たち、おかしくなっちゃってたけどちゃんとの自分押した酷い事覚えてる! 私やルラがした酷い事!!」
涙がにじんできた。
いくら正気では無かったとはいえ、自分がやった事だ。
そして何をしたかちゃんと覚えている。
しかしマーヤ母さんはそっと私をまた抱きしめて言う。
「もう、子供のした悪い事はちゃんと親の私たちが責任をとったわ。リルとルラにはちゃんとお仕置きするから覚悟しなさい。そしてもう二度とああいう事をしないように導くのも親の仕事よ?」
「でも、でも……」
涙がぼろぼろ出て来る。
優しい言葉は今の私には余計に響く。
いっそ大声で怒られる方が気が楽だ。
「そう思うのならもっと精進をしなさい」
それは後ろから聞こえて来た。
振り向けばいつも通りのユカ父さんがそこにいた。
「ユカ父さん! ごめんなさい、私、私たち!!」
「ごめんなさい、ユカ父さん!」
「ぐっ、ユカ母さんでも良いのですよ…… まあ、いいでしょう。二人ともよく戻って来てくれました。詳細はエルハイミから聞いてます」
エルハイミさん?
その名前に私は思わず頭を上げた。
「あの、エルハイミさんって……」
「シェルと一緒に来ていた分体ですが、女神としての最低限の力が残っていました。だからもう良いのですよ、二人とも」
そう言って目元を覆う仮面を取り、黒い瞳の美しい顔を見せる。
にこりと笑うそれはとてもやさしい笑顔だった。
ユカ父さんはそのまま私とルラのもとまで来てそっと抱きしめてくれる。
「子供を持つという事はここまで心揺さぶられるとは思いもしませんでした。私もやはり人の子でしたね。無事に帰って来てくれてありがとう、そしてお帰りなさい」
そう言ってくれるユカ父さんに私は思わず顔を上げる。
にっこりと笑うそれはそれはとてもとてもやさしいものだった。
「……ただいま」
私はそう言うとユカ父さんはゆっくりと私とルラを放して、また仮面をつける。
そして振り返りその名を呼ぶ。
「ヤリス、アニシス、ソルミナもこちらへ」
ヤリス!
その名に私の心臓の鼓動が早まった。
ゆっくりとそちらを見るとヤリスとアニシス様、そしてソルミナ教授が立っていた。
三人はゆっくりとこちらに歩いてくる。
私はヤリスを前に、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。
「リル、ルラ……」
ヤリスが口を開き、私たちの名を言う。
ドクンと、更に心臓が高鳴る。
「ヤリス、ごめんなさい!! アニシス様も、ソルミナ教授もごめんなさい!!」
私はその場で頭を下げながら謝る。
が、いきなりヤリスに抱き着かれた。
「よかった! リルたちが無事に戻って来てくれて!!」
「え?」
ヤリスはいつも通りだった。
思わず顔を上げてヤリスを見るとニコニコ顔だった。
「あ、あの、私、ヤリスに酷い事して、それで女神様の力も……」
「ああ、それなら」
ヤリスはそう言って青い髪の毛のこめかみの上にぴょこんと三つずつトゲのような癖っ毛を生やす。
そして薄っすらと体を輝かせる。
「それなら女神様にまた力を授けられたから大丈夫よ♡ ああぁ、直接女神様にお力を分け与えられるなんてなんて幸せなの!」
そう言ってうっとりとする。
思わずアニシス様やソルミナ教授も見る。
すると二人ともニコニコしながら言う。
「お帰りなさいですわ、リルにルラ。帰って来てくれて嬉しいですわ」
「シェルとエルハイミさんに色々聞いたし、いろいろ直してもらったりしたわよ。まあ、若木のあたなたちが無事戻って来てくれてほっとしてるわ」
アニシス様もソルミナ教授もそう言って笑っている。
私は思わずきょとんとして周りを見る。
そして気付く。
誰も暗い顔などしていない。
誰も怒ってもいない。
ただ、そこには大切な人たちの笑顔があった。
「リル、ルラ。あなたたちはエルフではありますがまだまだ若木。ここで学ぶことは沢山有ります。そしてそんなあなたたちを待っている人たちもいます。今まで講義で遅れた分、しっかりと学んでもらいますよ」
ユカ父さんがそう言うとみんなしてうまずく。
私はエルフのリル。
色々あったけど、まだまだ未熟者。
この学園で更にいろいろ学ぶ必要がある。
だから私も涙を拭いて笑顔になる。
「うん、みんな、ただいま。またよろしくね」
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