16-32破滅の妖精
女神エルハイミにより正気を取り戻したエルフの双子姉妹リルとルラ。
秘密結社ジュメルの野望に操られ加担していたが、女神によりその正気を取り戻す。
そして自分の犯した罪に後悔しながらも前に進もうとするリルとルラ。
果たして彼女らはどうなるのか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
何とかエルハイミさんの説得にも成功をした。
そして私のスキルをいつ使うかについて話をしていた。
「まずはこの事をナディアに伝えてあげよう。もしうまくいったとしても禍根を残さずにおいた方がいいだろう?」
「ですね。例え今までの事が分からなくなっても」
アインさんは私に向かってそう言う。
確かに今この場で「消し去る」でナディアさんが覚醒した事を無かった事にしてしまえば、今までの時間全ても消えてナディアさんが覚醒する前までに時間が戻る事になる。
そして私たち人類にその変化があったかどうか確認する術はない。
それが出来るのは女神を超越した「あのお方」だけだ。
「それじゃぁ、ナディアにこの事を伝えてからリルにスキルを使ってもらうと言う事で良いわね? エルハイミ、自分でも決めた事なんだからそんな端っこでうじうじしない!」
シェルさんはそう言っていつの間にか部屋に隅っこで体育座りで壁に向かってぶつぶつ言っているエルハイミさんに言う。
「分かっていますわよ! でもしばらくはこうしていても良いじゃないのですの!!」
「はぁ~、全くもう。分かった分かった、最後に生まれた赤ちゃん見に行きましょう? どうせスキルを使うと忘れることになるけど、せっかく生まれた新たな命を見ておくのは悪く無いわ」
「ティアナに会えるのですのっ!?」
「余計な事はしないって約束よ?」
シェルさんがそう言うとエルハイミさんは顔を明るくしてこちらに振り返る。
まあ、たとえ忘れるとしても生まれた赤ちゃんを見てみたいってのはあるだろう。
私がそう思っているとシェルさんは立ち上がり言う。
「それじゃぁ、みんなで行こうかしら?」
その言葉に私たちはまたナディアさんの家に向かう事になるのだった。
* * *
私たちはナディアさんの家に向かっている。
だけど、アインさんだけは一足先に向かった。
流石にこの人数でしかもエルアイミさんも一緒となるといきなり行くわけにはいかない。
一足先にアインさんが行って準備をしてもらう方がいい。
そんな事を思いながら道を行くと、人々が道のわきで私たちを見ている。
「なんか、見世物みたいになっちゃいましたね……」
「まあ、エルハイミがナディアを説得に行っていた頃なんてこんなモノじゃなかったけどね。あれでよく死人が出なかったものよ」
一体どんな説得っ!?
死人が出そうな説得って聞いた事が無いわよ!?
「着きましたね。おや、バックではないですか?」
「むっ! 怨敵ですわね!! でもまあ、今回は許してあげますわ。ふんっ! 次のティアナは必ず私のものですからね! ゼぇ~ったいにあなたになんかあげませんからねですわ!!」
ナディアさんの家に着くと扉が開いていてその入り口にバックさんが跪いていた。
「この度は女神様の寛大なるご処置に心より感謝申し上げます」
バックさんはそう言って土下座する。
しかしエルハイミさんはつんっとそっぽを向いて言う。
「やめなさいですわ。あなたはナディアの夫として今世はしっかりとナディアと子供たちを守るのですわ。それが私からあなたに対しての最低限の要求ですわ」
「ははっ! この命に変えましてでもっ!!」
バックさんは床に頭がのめり込むのではないかと言う程額をこすりつける。
そんなバックさんにシェルさんは肩に手を当て言う。
「バック、もういいわ。それより生まれた子供を見せて」
「はいっ、シェル様!」
バックさんはそう言って起き上がり、「むさくるしい所ですが」とか言いながら私たちを奥の寝室へ連れて行ってくれる。
そこにはまだベッドに座ったままのナディアさんが愛おしそうに赤ちゃんを抱きていた。
そしてその隣には小さな男の子がすやすやと眠っている。
「エルハイミ…… ごめんなさい」
「ティアナ…… ふう、もういいですわ。今世の貴女はあきらめる事にしましたわよ。でも、私以外の子供を二人も産むだなんて……全く。そんな浮気ばかりしていると私もシェルやコクに手を出してしまいますわよ?」
ちょっと寂しそうにため息を吐いてからエルハイミさんは冗談半分にそう言う。
が、それが悪かった。
「エルハイミ! それ本当!?」
「何と、お母様! それではすぐに子作りを致しましょう!!」
「あー、シェル様、コク様。子供たちが寝ているのでお静かに」
興奮しそうなシェルさんやコクさんに先にアインさんが釘をさす。
流石にシェルさんもコクさんも言われて慌てて自分の口を手でふさぐ。
「それより、ナディアの赤ちゃんを見せてもらえますの?」
「エルハイミ…… ええぇ、どうぞ」
ナディアさんはそう言って抱いている赤ちゃんをエルハイミさんに見せる。
まだ生まれたばかりの赤ちゃんはそれはそれは小さく、そして安らかに眠っている。
「赤髪はティアナゆずりですわね…… この子の未来に幸あらんことを」
エルハイミさんはそう言って手をかかげ光を放つ。
それは柔らかい光で、赤ちゃんを一瞬包みそしてその光を消す。
「エルハイミ?」
「心配しないで、ナディアですわ。この子の健康状態を調べただけですわ。全く問題無い、健康な状態ですわ」
エルハイミさんはそう言ってにこりと笑う。
それを見たナディアさんはふっと笑顔になる。
「そう、ありがとうエルハイミ…… 次の人生は必ずあなたにあげるわ、約束よ」
「良いのですわ、ちゃんと次の人生は私の子供を産んでもらいますからねですわ」
エルハイミさんはそう言って私を見る。
「これで思い残す事は無くなりましたわ。リル、お願いしますわ」
エルハイミさんにそう言われ、私は頷く。
これで全てが振出しに戻る。
変わるのはナディアさんがティアナ姫として覚醒しなくなる未来。
まるで走馬灯のように私の頭を今までの事が駆け巡る。
旅の間お世話になった人や、学園での生活、ヤリスやアイシス様と過ごした楽し時間。
全て無くなってしまってその未来がまた同じになる事は無い。
多分私とルラは変わる事無くエルフの村で静かに暮らしているだろう。
「それでは行きます、ナディアさんが覚醒したと言う事を『消し去る』!」
私は両手を広げ、チートスキル「消え去る」を発動させる。
そして全てはあの時にまで戻るはずだった。
「……何も、変わりませんわね?」
「……みたいね?」
「ふむ、流石に人の身でこれほどの事をするのは無理がありましたか?」
「うまく、いかなかったのか??」
エルハイミさんもシェルさんもコクさんもアインさんまでそう言いながら私を見る。
しかしおかしい。
私がスキルを使う前に実行するかどうかの確認が頭の中であった。
つまり、ナディアさんが覚醒すること自体を無かった事に、「消し去る」事をしているはずだ。
『ふむ、何やら不穏な動きがあったようだが我が力を使うには少々無理があったようだな。今汝らの世界はその事実を【消し去る】為に崩壊を始めた。世界そのものが消え去ることなってしまった。世界の壁が崩壊し始め、全てが消え去る事となってしまった』
その声は私のすぐ後ろから聞こえた。
驚き振り返ると、瞳の色を金色に変えたルラが感情の無い表情でそんな事を言っている。
「これは、『あのお方』ですわ! 一体どう言う事ですの!?」
『なに、その娘の力は【消し去る】力でそれは我が力の一端、故にその事実を消し去ることは出来るが、それはこの世界の時間軸に影響を及ぼした。あの時の対象は確かに消え去った。しかし途切れた未来であるこの世界自体も【消し去る】事となったのだ。残念だ、せっかく面白い見世物だったのだがこの世界は世界の壁が崩壊してやがて【消え去る】であろう。そして汝らの過去の世界は別世界として未来を紡ぐであろう。分け与えた我が力、最後にこの様に使うとはな。しかしそれも汝らが選んだ選択、致し方あるまい。今まで楽しませてもらった、礼を言おう』
そう言ってふっとルラの瞳の色がまた深い緑色に戻る。
そしてハッとしてルラはきょろきょろと周りを見渡す。
「あ、あれ? あたし何してたんだっけ??」
「い、いやちょっと待ってくださいよ! ちょと、駄女神ぃっ!!」
思わずルラの両手を掴み、揺さぶりながらそう言うけど、もうあの駄女神事「あのお方」の反応はない。
私は油が切れた人形のようにぎぎぎぎぎぃっと首を後ろに回す。
そこには目を前髪で暗くして縦線を引いた皆さんがいた。
「リル、つまりはあの時を基軸とする未来であるこの世界を終わりをしてしまったと言う事ね?」
「ふむ、ナディアの覚醒したこと自体を『消し去る』には道ずれで未来であるこの世界そのものも『消し去る』と言う事になるのですね」
「大変ですわぁっ! 世界の壁が消え始めてますわぁっ! このままでは本当にこの世界が滅びてしまいますわぁっ!」
エルハイミさんも大慌てって事は、本当に世界の破滅が始まったってことぉっ!?
「あなた!」
「ナディアっ!」
それを聞いてナディアさんとバックさんが抱き合う。
バックさんは隣に寝ているジークハルト君も抱き寄せる。
「ごめんなさい、まさかこんな事になるだなんて。ごめんなさい」
「いいんだ、ナディア。知らぬこととは言え俺はお前と一緒になった事を後悔していない。愛しているぞ、ナディア!」
「私も、あなたぁっ!」
「ほぎゃーほぎゃーっ!」
未来であるこの世界の終りが始まってナディアさんとバックさんは家族で抱き合って、そして最後の口づけをかわす。
「あぁーっですわぁっ!! くぅ、でも今はこの現状を何とかしなければですわぁ、エムハイミ、エスハイミ、協力してくださいですわ!!」
エルハイミさんはそう言って三人に分かれる。
そしてエムハイミさんもエスハイミさんも熱い口づけをかわすナディアさんとバックさんを見て衝撃を受ける。
「せっかくまたエルハイミから出てきたのに、いきなり浮気の現場ですわぁっ!」
「一応、本体と一緒だったから今までの事は分かっていますが、やっぱり浮気ですわっ!!」
「二人とも、そんな事より天界と迷宮に戻って世界の状態を監視してくださいですわ! 私は世界の壁の修復に向かいますわ! なにがなんでもこの世界を維持して転生する来世のティアナの初めてをもらうのですわぁっ!!」
エルハイミさんはとんでもない事を叫びながら体をか輝かせて大人の姿になる。
そして神々しいほどの光を放ちながら言う。
「私は『世界の壁』の修復に向かいますわ。破損を始めた『世界の壁』を一旦破壊してすぐに創造の力で作り直しますわ。でも、ひびの入った『世界の壁』からはイレギュラーがこの世界に入り込む恐れがありますわ! だからみんなはそのイレギュラーがこの世界で暴れまわって影響が出ないように協力して欲しいですわ!! エムハイミとエスハイミには最低限の女神の力しか残せませんが、それでも異界の者たちの侵入を何とか排除して欲しいですわ!!」
それだけ言うと、女神エルハイミはこの場でその姿消した。
多分その「世界の壁」とか言うのを修復に向かったのだろう。
「くぅ、力のほとんどを本体に持っていかれましたわぁ! でも急がないとですわ! コク、行きますわよ!!」
そう言ってエスハイミさんらしきエルハイミさんはコクさんの手を握って目の前に広げた暗闇の空間を開いてその中に消えて行ってしまった。
それを見て、残ったエムハイミさんはもう一度ナディアさんを見る。
「もう、ティアナのばかぁですわ! こんな時にまだバックとキスしているだなんてですわぁっ! ほんとうに私はシェルと一緒になってしまっていいのですわね!?」
涙目でナディアさんたちの熱い口づけを見てたエムハイミさんだったけど、ナディアさんは口づけを終えて言う。
「ごめん……エルハイミ…… 今のあたしはどうしても今の家族を…… だけど、あなたの事は本当に愛してる。だから次の人生は絶対にあなたにあげるから、添い遂げるから! ごめん!!」
「ティアナのばかぁっですわぁああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
エムハイミさんはそう言ってシェルさんの腕と取ってコクさんと同じく暗い空間を開いて行ってしまった。
「女神様が動き出したか。多分、女神様なら何とかしてくれるだろうが……」
アインさんがそう言っていると、外が騒がしくなってきた。
そしてエルムちゃんとラーシアさんが慌てて家の中に入って来る。
「大変です先生! 空に異空間が開いて異形の者たちがやって来てます!」
「まさか、もう『世界の壁』が崩壊したか!? だとすると、その震源地であるここが一番早く影響が出るか…… ラーシア、エルム、女神様の命令だ! 異形の者たちを排除する! 長老たちにも伝令、ひとつ残らず叩き潰すぞ!!」
「「はいっ!」」
ラーシアさんとエルムちゃんはそう言って飛びだしていった。
アインさんは私たちに振り向き言う。
「異界の者たちが相手だ、リルとルラにも手を貸して欲しい」
「私のせいで……わかりました、私に出来ることは何でもします!」
「あたしも!」
私とルラはそう言ってアインさんについて家の外へと駆け出すのだった。
面白かったらブックマークや評価、ご意見ご感想をよろしくお願い致します。
誤字脱字等ございましたらご指摘いただけますようお願い致します。
*すみませんが、今後当分の間は土、日曜日の更新は停止させていただきます。
うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
ご理解の程、どうぞよろしくお願い致します。




