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腹ぺこエルフの美食道~リルとルラの大冒険~  作者: さいとう みさき
第十六章:破滅の妖精たち
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16-31説得

女神エルハイミにより正気を取り戻したエルフの双子姉妹リルとルラ。

秘密結社ジュメルの野望に操られ加担していたが、女神によりその正気を取り戻す。

そして自分の犯した罪に後悔しながらも前に進もうとするリルとルラ。

果たして彼女らはどうなるのか?


そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。


「ナディア、いや、ティアナ姫の転生者の事を今世ではあきらめて欲しいのだ」 




 アインさんのその言葉にこの場の空気は凍り付いた。

 みんなつばを飲み込みながらエルハイミさんの様子に注視する。



「ティアナを…… あきらめろと言うのですの?」


 

 ごくり



 物静かにそう言うエルハイミさんにみんなピリピリと緊張感が高まる。

 そして……



「またまた、ご冗談をですわぁ~。私とティアナは一心同体、魂でつながった永遠の伴侶ですわ。ティアナが覚醒していないならまだしも、今はちゃんと覚醒していますわぁ」



 そうにこやかな表情で言うも、もの凄いプレッシャーを感じる。

 そのプレッシャーだけで吐き気さえもよおしそうだ。



「女神様、俺は真面目に話をしている。今次生まれた子供が誰かの転生者である可能性はある。そしてジークハルトも。彼らが覚醒して独り立ちできるまでは母親も父親も必要だ。そしてそれは村の発展の助けになる。俺と女神様の望む温和で優しい世界を作る為には必要な事だと思うが?」


「でもっ! やっとティアナが覚醒したのですわ!! 私はティアナさえいれば、いえ、ティアナの為にこの世界を維持しているのですわ!! 覚醒前ならいざ知らず、覚醒したティアナを目の前にあきらめろと言うのですの!?」



 目に涙をためてエルハイミさんはそう言う。

 しかしアインさんはハッキリと言う。



「それでもだ。女神様だって人の子だったからわかるだろう? 母親を失う子供の気持ちを」


「う”っ。 そ、それはですわ……」



 アインさんはエルハイミさんにしっかりと目を合わせ動かずにそう言う。

 流石にそう言われるとまだ良識を保っているエルハイミさんも言葉に詰まる。


 自分の欲望の為に母子を引き離すような羽目になる。

 夫婦とは違い、母子の関係は同じ女性であれば痛いほどわかるだろう。


 女は子供を産むと強くなる。


 それは自分の子供を守る為には何でもするからだ。

 自然の摂理であり、母性本能なのだろう。


 だから、例え女神であるエルハイミさんでさえアインさんのそれに言葉詰まらせる。



「でも、ティアナが……」


「女神様には悪いが、ナディアは『次の人生は必ずエルハイミにあげる』と言っていた。女神様には悠久の時がある。人である俺たちのように寿命がある訳ではないだろう? 長き時のほんのわずかな間を辛抱をしてもらいたい。勿論、その悲しみを和らげる手だても用意してきた。リル、良いか?」


 アインさんはそう言ってエルハイミさんを説得する。

 そして私に話を振って来た。


 いきなり話をふられてちょっと驚いたけど、私もエルハイミさんのその我が儘は良く無いと思うから、説明を始める。



「エルハイミさん、私のスキル『消し去る』はエルハイミさんに対してはもう使えなくなりました。でも、それ以外ではまだ使えます。私が提案するのはナディアさんがティアナ姫として覚醒する事を無かった事にする、『覚醒した事』を『消し去る』ことです」



 私がここまで言うと、エルハイミさんはハッとなり私の顔を見る。

 そして少ししてからゆっくりと確認するように話始める。


「それは、その、つまりティアナが覚醒すること自体を『消し去る』、つまりその時間自体を『消し去る』と言う事ですわね?」


 エルハイミさんのその言葉に私は静かに頷く。


「しかしそれは時間を操るに等しいですわ。私でも時間と言う概念に対しては手が出せない領域ですわ…… リル、あなたは本当にそんな事が出来ますの?」


「まだ、確証はもてません。試したところでそれを確認する事は出来ないからです。でも、『あのお方』は時間さえも操る事が出来るのですよね? だったら『あのお方』から授かったこのスキルでも時間を『消し去る』事が出来るのじゃないかと思っています」


 私がそう言うとエルハイミさんはしばし考えこむ。

 いくらこの世界の女神と言っても、「あのお方」を超える事は出来ない。

 この世界では絶対的な力を持ってはいるが、万能ではない。

 それが時間の操作である事はエルハイミさんもさっき認めた。


 エルハイミさんは「破壊と創造」の力を持っている。

 話しでは歴代の女神様の中でも最強らしい。



「ねぇ、エルハイミ悪い話じゃないと思うわ。あなたは不満が残るかもしれないけど、無かった事になれば単に今世のティアナが覚醒しなかっただけになるわ。再転生した時に最初から目をつけ、そして覚醒を待って接触すればいい事じゃない? あなたの好きな処女のティアナとまた楽しく過ごせるのよ?」


「そうですね、お母様は毎回赤お母様を女にすることに喜びさえ感じていましたからね。いい加減このコクも女にして欲しいものです」


「な、なら私だって! もう千年も一緒にいるのにまったく傷物にしてくれる気配がないのだから!! さんざんボディータッチとかしてくれるようにはなったけど、これじゃあ蛇の生殺しよ!」



 いや、いきなりシェルさんもコクさんもなに凄い事言ってるのぉっ///////!?

 

 思わず赤面してしまう私。

 そう言えば、エルハイミさんって付いてるって……



「お姉ちゃん、シェルさんもコクさんも女だよね? なんでエルハイミさんに女にしてもらうの?? 最初から女なのに??」


「ルラにはまだ早い///////! い、いいからその事は忘れなさいッ///////!!」 


 

 駄目だ、やっぱりこの人たちといると教育上良く無い。

 私は慌ててルラの耳を塞ぐ。




「と、まあ、リルの協力があればすべては無かった事に出来そうなんだ。当然女神様のお気持ちも今次覚醒出来なかったと言う事で、穏便に済むと思うのだがな?」


 アインさんはそう言ってエルハイミさんをもう一度見つめる。

 エルハイミさんは顎に手を当て何やらぶつぶつ言っている。



「確かにそうなればナディアが覚醒しなかったと言う事で今世のティアナは手の出しようがなくなりますわ。それにあの浮気者、事もあろうか男なんてのと一緒になるだなんてですわ! 百歩譲って女性同士でも…… いえ、セラとミアムの事もあるしですわ…… ぶつぶつ」



 なんかものすごく悩んでいる。

 そんなエルハイミさんにシェルさんとコクさんも更に言う。



「とにかく、これ以上今のナディアにちょっかい出したら子供の育成やら何やらで忙しいから逆切れされて嫌われちゃうわよ? それにちょっと我慢すれば次は初物よ?」


「龍族と違い、弱き人族であれば母親の加護は必要になります。たとえお母様の熱き思いをぶつけても母親として赤お母様は譲らないと思います。 少々待ってコブ付きではない赤お母様を娶ればよろしいかと。ああ、勿論その間お寂しいのであればこのコクが誠心誠意お慰めいたします、この体を使って!!」



 いや、説得してくれるのは嬉しいけど言い方ぁっ!

 シェルさんもコクさんも瞳にハートを宿し必死にエルハイミさんを説得している。

 動機がもの凄く不純だけど!



「どうだろう、女神様?」


 そして最後にアインさんにそう言われエルハイミさんは大きくため息を吐く。



「分かりましたわ…… 正直もの凄く口惜しいですが、確かにティアナの子供たちの事を考えると私も少々我が儘が過ぎましたわ。今世のティアナが覚醒しなければ私としてもあきらめがつきますわ。その条件、飲みますわ」



 エルハイミさんは最後にとうとうそう言う。

 すぐにこの場の空気が緩み、みんなに明るい笑顔が戻る。



 これで上手くいけば今まであった事はすべてなくなる。

 イージム大陸に飛ばされた事も、トランさんを失た悲しみも。




 私はちょっと寂しくもそれが最善だと自分にも言い聞かせるのだった。 



面白かったらブックマークや評価、ご意見ご感想をよろしくお願い致します。

誤字脱字等ございましたらご指摘いただけますようお願い致します。


*すみませんが、今後当分の間は土、日曜日の更新は停止させていただきます。

うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。

ご理解の程、どうぞよろしくお願い致します。

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