16-20教育方針
女神エルハイミにより正気を取り戻したエルフの双子姉妹リルとルラ。
秘密結社ジュメルの野望に操られ加担していたが、女神によりその正気を取り戻す。
そして自分の犯した罪に後悔しながらも前に進もうとするリルとルラ。
果たして彼女らはどうなるのか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
「取りあえずこちらに来てくれ。こんな場所じゃ茶も出せんからな」
アインさんはそう言って上着を手に取って着込みながら私たちを家の方へ呼ぶ。
私たちは素直にアインさんの後ろについて行く。
家はやはり石造り。
入ってすぐに居間になっていて、ラディンさんの家同様にテーブルにいくつかの椅子があった。
アインさんは椅子に座るように勧め、お茶を入れてくれる。
そのお茶を私たちの前に差し出しながら自分も対面に座ってから話始める。
「さて、リルの友人という人物はおおよそ女神様に敵対か何かしていたのか?」
「え? よくわかりますね。彼女はついぞ先日までジュメルに所属して活動してました。最後には悪魔召喚に自身の魂と血肉を代価にしてしまいましたが、エルハイミさんにその悪魔は倒され彼女の魂は今エルハイミさんの中で保護されてます……」
私は正直に静香の事を話す。
アインさんはそれを黙って聞いていて、お茶を一口飲んでから軽くため息を吐く。
「それで、その親友は転生者か何かか? 少なくともジュメルで女神様に盾突くとなればそれなりに力があるはずだが?」
「はい、ジュメル七大使徒の一人をしていました。そして私たちと同様に別世界からの転生者です」
私がそう言うとアインさんはまた、ため息をついて言う。
「リルとルラもあちらの世界からの転生者か…… 俺もそうだった。なるほどな、あのお方が気に掛けるわけだ。あちらの世界からの転生者はこちらの世界では何らかのギフトを持つ者が多い。それにこちらの世界で死んでも魂に内包する魔素が多く、器もしっかりしているから転生をする。それがジュメルに関わっているとなれば相当に根性がひね曲がった性格になりそうだな」
いや、人の友人を根性ひね曲がったとか……
でも、確かに静香は私の知っている静香とはちょっと違っていた。
全てを恨み、それを全部女神であるエルハイミさんのせいにして……
「私はエルハイミさんに聞かれました。彼女をこの村に転生させるかどうか。もしそうでなければどこに転生するか分からなくなり、いくらエルフでもその転生者を見つけることは難しくなると…… 私はもう一度静香に会いたい。あの頃の静香に……」
私がそう言うとアインさんは静かに頷く。
「そうだな、そう言う事なら余計にこの村に転生させた方がいいだろう。正直そう言った連中も多い。そしてこの村は女神様に関わったものが多い。その魂はここで生まれかわり、そして前世を思い出すがそれまでに俺が教育的指導を行っている。女神様も望む温和で平穏な日常の日々が送れるようにな」
アインさんはそう言って優しく笑う。
それは自分がして来た事がまるで天命になっているかのように、そして指導してきた人々が望む姿になっていくのを何度も見たかのような優しい笑顔。
「それで、一体どんな風に指導をしているんですか?」
「ん? 普通に指導だが」
私が一番聞きたい事を聞いてみるとアインさんはお茶を飲みながらそう言う。
いや、普通にって言ったってどんな風に?
「うーん、口で言い現わすのは難しいか。俺はもともと口下手だしな。そうだ、リルもルラも明日の授業を見てみてはどうだろうか? 口で言い表すより見てもらった方が速いだろう」
そう言うアインさんは楽しそうだった。
まあ、確かに見た方が速いのかもしれない。
なので、その話を受け入れることにする。
「分かりました、では明日どんな授業をしているか見学させてください」
「何なら一緒に授業を受けてみるか?」
アインさんのその提案にちょっと考えたけど、ルラが先に答える。
「面白そう! あたしやってみたい!!」
「ほう、ルラは元気があるな。明日はちょうど稽古もやる日だから体も動かせるぞ?」
「うん、あたし体動かすの好き!!」
「あ…… まあ、良いか。ではお願いします」
勝手に授業に参加する事になっちゃったけど、まあどんなことするか見ているより体験した方が速い。
なので私も授業を受けることにするのだった。
* * * * *
「えへへへへ~、明日お授業楽しみだね~」
「ルラは勉強とか嫌いじゃなかったの?」
「だって稽古もあるんでしょ? あの先生とは手合わせしてみたいもん!」
それが目的だったか……
ルラはこの世界に来てチートスキル「最強」を持っている。
なのでどちらかというと力比べと言うか、こう言った事が好きだ。
まあ、あっちの世界では正義の味方に憧れている所があったからなぁ。
駄女神にもらったチートスキルも「最強」が良い言ってたしなぁ。
……冷静に考えると、私の「消し去る」も凄いけど、もう少し使い勝手のいいまともなスキルもらった方が良かったかも。
「はいはい、夕ご飯が出来ましたよ、リルさんもルラさんもこちらにおいで下さいな」
ラディンさんのお家でしばらく御厄介になると言う事で、泊めてもらったりご飯をいただいたりしている。
お婆さんはロマーさんと言って、前世も魔法使いだったそうな。
勿論今も魔法使いとしてかなりなもので、無詠唱は勿論見た事も聞いた事も無いような魔法を知っている。
「すみません、ご飯まで御厄介になりまして」
「いえいえ、せっかくの客人だし、ご飯は大勢で食べた方が美味しいからね」
そう言ってシチューや鳥の香草焼き、キノコの炒めたモノや他にもいろいろとお料理を出してくれる。
「おお、今日はご馳走じゃな。ささ、リル様もルラ様も遠慮なく召し上がってくだされ」
ラディンさんにそう言われ私たちは早速お料理をいただく。
「いただきま~す!」
「いただきます。はむっ! むぅぅっ!」
まずはシチューを口に運ぶと、これすっごく美味しい!
濃厚なチーズのような味わいに、これは多分トウモロコシを入れたのだろう、深みのある旨味にゴロゴロの野菜がたくさん入っている。
まるでチーズクリームシチューにコーンポタージュを混ぜ合わせたような味わいは前世の世界でも味わった事が無いほどおいしい。
「お姉ちゃん、これすごく美味しい!!」
ルラは大好きなお肉に先に手を出していた。
鳥の香草焼きを切り分けてそれにかじりついているが私もさっきから気にはなっている。
だって、凄く香りがいいんだもん。
私は次に鳥の香草焼きに手をつける。
見た目はしっかりとローストされていて皮がパリパリになっている。
しかしそこから漂う香りはハーブが効いていてもの凄く食欲をそそる。
この香り、レモンハーブとかも使っているのかな?
わずかにレモンのようなさっぱりとした香りもしておいしそう。
「はむっ! もごもご……ごくん! なにこれ!? もの凄くスパイスが効いていて美味しい!! シンプルな塩味が香草と相まってとっても素朴なのにパリパリの皮からにじみ出た脂が丁度良く、じわっと旨味が広がっていく!!」
驚いた。
シンプルイズベスト!
そう言いたくなるような味わい。
香草はあくまで鳥の味を引き出す為のスパイスに徹していて、鳥肉自体の味がしっかりと出ている。
「はむはむ、おいひぃ~」
「うん、どれもこれもおいしい!!」
私とルラはロマーさんの手料理に舌鼓をするのだった。
* * * * *
「はぁ~、美味しかったねぇお姉ちゃん」
「うん、なんか久々に美味しいものを沢山食べたような気がするね…… それに各家に温泉が流れているだなんてこのジルの村って一体どうなっているのよ?」
食後にお風呂があるから入るように言われる。
そして驚かされるのがここのお風呂は温泉だと言う事。
ジルの村は鉱山があって、そこから温泉が湧いて出たそうな。
湯量も多く、各家庭に配管をしたり、魔法でお湯を送ったりとしていて、どの家でも温泉に入れるらしい。
そう言えば料理の中に温泉卵もあったけど、これが原因だったんだ。
「凄い場所なのに凄い人、凄い料理、ホントこの村ってどうなっているのよ??」
源泉かけ流しのお湯でパシャっと顔を洗ってから私はそう言う。
正直に言えば村の規模としては普通、せいぜい住人も五百人くらいしかいないのに凄い人ばかり。
「はぁ~気持ちいいねぇ~明日の授業も楽しみだし、ここって良い村だよねぇ~」
「うん…… エルハイミさんがここに力ある魂の人たちを集めてるって聞いた時はそれはエルハイミさんの我が儘だと思った。でも村の人たちは全然そんな感じじゃないし、前世の記憶が戻っても穏やかにここで過ごしているみたい……」
力ある魂は普通の人として生活が出来ない。
そう、エルハミさんは言っていた。
私は最初それはエルハイミさんの我が儘を通す詭弁だと思った。
でも今日少しの時間だったけどこの村の人に触れてそうではないと気付かされた。
みんなエルハミさんを尊敬している。
そして感謝していた。
だからこの村に閉じ込められているわけではない。
ラディンさんにも聞いたけど、必要があれば村長たちの許可をもらって外の世界にも自由に行ける。
勿論、その前に色々と注意点を教えられるそうだけど、ロマーさんみたいに無詠唱魔法の使い手がゴロゴロと世の中に出たら大騒ぎになるだろうから。
「思い込みは良く無いか……」
私はそう言ってもう一をお湯で顔を洗うのだった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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