3-26別れ
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
さよならレッドゲイル、さよならトランさん……(リル談)
私たちが赤竜亭を出て行く話はすぐにエシアさんたちにも知れ渡った。
最初は反対されたけど亭主さんが冒険者ギルドや商業ギルドに掛け合ってドドス行きのキャラバンを見つけ、それに同席させてもらうと言う事で何とか納得してもらった。
そしてその後も精霊都市ユグリアまで行く当てをあっせんしてくれるよう冒険者ギルドや商業ギルドにも紹介状を書いてもらっていた。
いろいろしてもらって感謝しかない。
お店の常連客やMTR親衛隊の皆さんも凄く残念がっていたけど、事情を知っているだけに皆さんそれ以上は何も言わなかった。
そんな赤竜亭は最後の日まで沢山のお客さんが来てくれてみんな私たちに気をつけてエルフの村に帰るよう声をかけてくれた。
そして私たちは今日赤竜亭の部屋を引き払いこの街を出て行く。
部屋を見渡すとシンプルな部屋である事に気付く。
なんだかんだ言ってここには半年近くいた。
そんな思い出もあるこの部屋もこれが見納めだった。
私とルラは部屋の扉をそっとしてめて下の階に行き部屋の鍵を亭主さんに返す。
「リルちゃん、ルラちゃん気をつけてね」
「うん、アスタリアちゃんも元気でね」
アスタリアちゃんとルラはそう言ってガシッと抱き着き別れを惜しむ。
私は亭主さんとおかみさんに頭を下げてお礼を言う。
「今までお世話になりました。正直楽しかったです……」
「リル、お前さんのお陰でうちは商売繁盛になったよ。これはお礼さね、持っておいき」
そう言っておかみさんは大きな袋を渡してくれる。
私はそれを受け取り中を見ると様々な食材や調味料が入っていた。
「おかみさん、これは……」
「キャラバンの飯はまずいってのが定評だからね、リルならおいしいものを自分で作れるだろ? それには食材が必要さね、それと香辛料もね」
ニカっと笑い最後に私を引き寄せて抱きしめる。
「いくらエルフとは言え、お前さんはまだ生まれてたったの十五年しか生きていない。この先色々あるだろうよ、でもお前さんならきっと上手くやれる。このあたしの目に狂いは無いんだからね」
「おかみさん……」
おかみさんに抱きしめられるのなんて初めてだった。
でも何だろう、もの凄く温かい。
私は思う、本当にここ「赤竜亭」に来てよかった。
トランさんたちがずっと使っていた宿屋。
その理由も分かる気がする。
だってここはとても暖かい場所だから……
ひとしきりおかみさんに抱きしめられてからその温もりから離れる。
「それじゃぁ行きますね。皆さんお元気で」
「バイバーイ! みんな元気でねぇ~」
手を振り別れを惜しみながら私たちは赤竜亭を後にする。
アスタリアちゃんはずっと手を振っていてくれている。
亭主さんもおかみさんもレナさんも見えなくなるまでずっと見送っていてくれている。
私たちも何度も振り向き手を振りながら付き添いのエシアさんたちと商業ギルドへ向かうのだった。
* * * * *
商業ギルドが編成する商隊であるキャラバンがもうじきこの街を出発して隣のドドス共和国へ向かう。
このイージム大陸にはいくつかの国があるけど、商業ギルドが編成する商隊は各国を行商として行き来できる。
そこに便乗して同行させてもらう事により安全に隣国に行けるという話だった。
私たち以外にも数人の同行者がいた。
そのほとんどが一般の人で、キャラバンにお金を払うと目的の場所まで一緒に連れて行ってもらえる。
右も左も分からない私たちにとって確かにそれは助かる。
「赤竜亭の亭主が昔の知り合いのつてで商業ギルドのキャラバンに同行させてもらえるから安全だとは思う。リル、ルラ本当にいいんだな?」
「はい、お世話になりましたエシアさん、ホボスさん、テルさん」
私がそう言って頭を下げるとエシアさんたちは苦笑いしてから頷きながら言う。
「トランたちの仇は俺たちが必ず取る、だから……」
「分かっています、でも無理はしないでください。トランさんもエシアさんたちに何か有る事は望まないでしょうから」
私はそう言ってキャラバンの荷車に乗せてもらう。
「じゃ、みんな元気でね!」
ルラもそう言いながら荷車に乗る。
私たちはエシアさんたちに手を振りながらこの街を後にする。
「もうトランさんの仇は取ったよ…… エシアさん、トランさんの分まで生きてね……」
私は去り際にエシアさんたちには聞こえない小さな声でそう言う。
それは私の本心でもあり、この街を去る為の最後の言葉でもあった。
キャラバンの馬車が動き出しこの街を出て行く。
このイージム大陸は人が住むには過酷な場所だ。
土地は痩せ作物はあまり良く取れない。
更に街の外には魔獣や魔物が沢山いて気をつけなければ簡単に命を落とすような場所だ。
だから街や村などにはどこもかしこも立派な城壁がある。
私たちを乗せたキャラバンの荷車はそんな城壁をまもなくくぐる。
付き添いで来てくれていたエシアさんたちは私たちが見えなくなるまでずっと見送ってくれていたようだった。
私はこの街の風景を見る。
「お姉ちゃん、レッドゲイルって良い所だったね……」
「うん、忘れられない所だった、多分ずっとね……」
ルラにそう答えながら私は言葉に出さず心の中でだけ言う。
―― さよならトランさん、さよならレッドゲイルの街 ――
長いエルフの人生だからもしかしたらまたここへ来るかもしれない。
でもその頃には知り合いは誰一人といなくなっているだろう。
私たちエルフは時の流れに取り残されたかのような種族。
永遠に近い生命を持っている。
だから同族以外に再び会う事が出来る人は限られている。
私とルラは最後にもう一度レッドゲイルの街を目に焼き付けるのだった。
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