16-7聖地ユーベルト
心を捕らわれ悪の色の染められた双子のエルフ、リルとルラ。
世界を破滅に導く秘密結社ジュメルに操られ、協力する二人は世界を滅ぼす事が出来るチートスキルを持つ。
この世界の行方は?
二人はこのまま悪の色に染まってしまうのか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
衛星都市ユーベルト。
もともとは首都ガルザイルの「落ちてきた都市」に何か有ってガルザイルに問題が発生した時に王家の血に繋がる七つの衛星都市が首都奪還、もし王家が絶えてもどこかの領主が王になるとするのが目的で出来た衛星都市。
その中の一つ、ハミルトン家が代々治める場所がユーベルトとなる。
ここはエルハイミさんのせいでいろいろなものが作られ、今では衛星都市の中で一番力を持っているとまで言われている。
「確かに王都に引けを取らない街並みね」
「アリーリヤはここは初めて?」
馬車の中から街の様子をうかがう。
話しではここユーベルトにもジュメルのアジトはあるそうだ。
「そうね……ここへ来るのは何世代前の私だったか。あの頃は本気で頑張れば女神に会えると思っていたわ」
アリーリヤはそうつまらなさそうに言う。
まるで自分の過去を思い出すかのように。
「お姉ちゃんあれが神殿かな? なんかものすごく強そうな気配がするね、まるで黒龍のコクさんみたい」
「あら、ルラには分かる? あそこには女神の僕、女神殺しの赤竜がいるわ。普通の竜では無い、太古の竜よ」
私はそれを聞いて驚く。
黒龍のコクさんと同じく太古の女神殺しの竜がいるですって?
「アリーリヤ、あそこにはそんな凄いのがいるの?」
「まあ、あなたたちには敵わないでしょうに。いくら女神殺しとは言え今は女性の姿をしているって言うからね。本当かどうかも分からないわ」
「あら、そうするとヤツメウナギ女じゃ対抗できないかしら? でも私たちにはルラさんがいますからねぇ~、ルラさん頑張ってくださいね? 上手に出来たらまた気持ちいい事してあげますよ~」
「ほんとイリカ!? あたし頑張るね!!」
そう言ってルラは赤黒い瞳をらんらんとしてイリカに抱き着く。
まさかルラって本当にイリカと……
「期待しているわよ。さて、まずはアジトに行ってからね」
アリーリヤはそう言いながら女神神殿を睨みつけるのだった。
* * *
ジュメルのアジトは街の外れにある普通の民家だった。
しかしその地下にはそこそこ大きな施設もあった。
「ねえイリカ、あれってもしかして将棋?」
「あらルラさんは将棋を知っているのですね? ここユーベルトは遊戯の発祥の地とも言われてるのですよ~」
ルラは入り口でここの職員が遊んでいた将棋に気付いたらしい。
そう言えば私はスルーしていたけど、暇そうな職員はカードやリバーシとかしていたような。
「あの女神がこの世界に広めたと言われてるわ。全く滑稽な話よね? 私たちにしにしてみればあんなのはあっちの世界では普通に出回っていたというのに」
「それもエルハイミさんが?」
「そうよ、そうしてこのユーベルトはその生産地としてかなりもうけているって話ね。勿論それ以外にも過去にはマシンドールのパーツを作ったり、ここでしか生産されないチョコレートの施設も有るとか聞くわ。全てあちらの世界の知識だけどね」
アリーリヤはそう言って鼻を鳴らして笑う。
確かにこれらの遊びやチョコレートってあっちの世界の知識や技術だ。
チョコレートなんてカカオ豆を炒って粉末にしてからが大変だというのに。
カカオパウダーだけではチョコレートのあの甘くて風味のある味にはならない。
今までの経験でこちらの世界ではそこまで複雑な料理は発展しないだろう。
だからチョコレートがシーナ商会でも高級な嗜好品として売られているのも合点がいく。
「ユーベルト、でもそう言う意味ではこの世界に発展をもたらしているのかな?」
「リルそれは違うわ。あの女神がこちらの世界で自分が欲しいものを再現しただけよ。そんな余裕のある生活を出来る者なんて一握り、まさしく驕りの賜物よ!!」
アリーリヤはそう言って近くにあったチョコレートを手に取る。
「こんな嗜好品は貧民になんてお目にさえかかれないわ。勿論食べることだって。これ一粒で一体どれだけのパンが買えると思う?」
「いや、私はあまり詳しくないから……」
「そのパンで救えた命だってたくさんあったのよ。この世界の不平等はそれ程なのよ……」
アリーリヤはそう言ってそのチョコレートを元の場所へ戻す。
その姿には悲しみと怒りが入り混じった様子が見とれる。
「だから絶対に女神を許しちゃいけないの」
そう言ってアリーリヤは奥へと行くのだった。
* * *
このアジトは聖地ユーベルトの状況を監視する役目があった。
おかげでここ数年のこのユーベルトの状況は手に取るように分かった。
「こんな衛星都市も『鋼鉄の鎧騎士』の配備が進んでいるとはね…… いや、ガレント王国だからかしら?」
ユーベルトの防衛は想定以上に強固だった。
そして一見誰でも簡単に訪れられそうな女神神殿でさえその実警備はかなり充実していた。
「はぁ~、何ですかこのガレント城以上の防御結界や警備の配置はぁ? これ、ジュメルの一個師団でも持ってこないと全然歯が立たないレベルじゃないですかぁ~」
「想定以上ね。しかも多重結界がされているとは。それに何、この時空のゆがみって?」
資料を見ているアリーリヤはそれを放り投げイリカに渡す。
イリカはその資料に目を通し、ため息をつく。
「なるほどですねぇ~。どうやらその異空間との歪みにあの赤竜でも捕らえているのではないですか? 時空のひずみに引っ掛けるようにいればいくら太古の竜とは言え力ずくで抜け出す事は難しいでしょうね~」
そうするとあの神殿にいると言う赤竜はエルハイミさんに捕まっていて自由を奪われている?
やっぱりエルハイミさんの我が儘じゃない!!
「それに旧型とは言えうちの魔怪人たちより性能が上の双備型魔晶石核搭載のマシンドールがうじゃうじゃいるじゃない? 今はほとんどいなくなったはずなのになんでユーベルトにはまだこんなにたくさんいるのよ?」
「まあ、防衛の要が『鋼鉄の鎧騎士』にとって代わりましたからねぇ~。対人用ではまだ使えますが大戦とかではやはり『鋼鉄の鎧騎士』の方が有用ですからね。せいぜい城とかの警備に使ってるのが関の山でしょうね~。それに新しい魔晶石核とか作るにしてもコストとその寿命が合いませんからねぇ~」
アリーリヤとイリカはそんな事を言いながら準備を整えて行く。
「どちらにせよ、神殿の強襲するからには派手にしないと我々ジュメルの宣伝にはならないわ。自分の生家であるユーベルトを我々ジュメルに襲われても女神が出てこなければその名に傷がつくでしょうからね。そして出てきたが最後、私のリルが女神の力を消し去れば……」
「世界はもう私たちの自由に出来ちゃいますねぇ~。とりあえず全部壊して後は私たちの好きにさせてもらいましょうね~♪」
そう言ってアリーリヤとイリカは静かに笑う。
「リル頼んだわよ?」
「ええ、分かっているアリーリヤ……」
私はアリーリヤにそう答える。
「ところで、ここにはチョコレートが安く手に入るのよね?」
「ん? まあ産地だしね、どうしたのリル?」
「あ、うん、せっかくチョコレートが安く手に入るならチョコレートを使ったお菓子でも作ろうかと思ってぇ……」
「「「それはやめて!」」」
私が作戦前に英気を養おうと提案するとアリーリヤもイリカも、そしてルラまでもがそう言ってくる。
なんで?
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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