16-5うしろめたさ
心を捕らわれ悪の色の染められた双子のエルフ、リルとルラ。
世界を破滅に導く秘密結社ジュメルに操られ、協力する二人は世界を滅ぼす事が出来るチートスキルを持つ。
この世界の行方は?
二人はこのまま悪の色に染まってしまうのか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
気がついた。
私は知らない天所を見上げ、ベッドに寝ていた。
「お姉ちゃん! 良かった、気がついたんだね」
声のする方を見ればルラが心配そうに私を見ていた。
私は起き上がろうとして頭痛を感じる。
「つぅ……」
「お姉ちゃん大丈夫?」
起き上がろうとして額に手を当て呻くとルラが心配そうに手を貸してくれる。
何とかベッドに起き上がり痛みに耐えていると声がする。
「無理はしなくていいわ。あなたに今倒れられたら計画が上手くいかないからね」
その声にそちらを見ればアリーリヤが扉の近くで腕を組んでたたずんでいた。
私は思わずアリーリヤに謝ってしまった。
「……ごめん」
「もういいわ。リルの方が大切なんだから」
その言葉に私は思わずアリーリヤを見る。
しかしその表情には苛立ちが見て取れた。
そりゃぁそうだ。
せっかく世界を変える為の第一歩だったのに私はガレント城を消し去ることが出来なかった。
あの後の事はどうなったか分からないけど、ここで私が目覚めたと言う事は計画が失敗してしまったのだろう。
私は、何故か私はガレント城が消し去れなかった。
「お姉ちゃん、無理矢理大きなものを消し去り過ぎたの? 連続で無理なら計画を変えてもらった方が……」
ルラは心配そうに私にそう言う。
しかしこれは違う。
以前のように使い慣れていないスキルの時と違って今は魔力消費も何もほとんど無い。
あの頃はスキルを使うって時に気張ってしまい、結果大量の魔力消費までしてしまった。
私たちのチートスキルは「あのお方」である駄女神からもらったモノ。
そう意識して使えば何度だって、どんなに大きくたってスキルは使える。
そう、私の心次第で……
「とにかく計画は変更よ。ガレント王国も今回の件で保有する『鋼鉄の鎧騎士』はほぼ全滅。国家としての面子もつぶれていい気味よ。でも、だからこそ民衆の気持ちを変えさせるために今度は聖地ユーベルトを襲撃するわ! 民衆の心のよりどころである女神に喧嘩を売ってやるのよ! そしてユーベルトの女神神殿が崩壊すれば人々は女神に対して疑問を持ち始める。学園都市ボヘーミャの強襲、ガレント王国首都ガルザイルの強襲、そして聖地ユーベルトの強襲。ここまでして女神が出てこないのならば民衆の女神に対する信仰は揺らぐはずよ!」
アリーリヤはそう言って扉のとま口から向こうへ行く。
「とにかくそれまでにリルは体調を整えてね。今度は昔の事を気に病んで気を失うなんて失態はしないで欲しいわ」
「……ごめん、アリーリヤ」
アリーリヤには私がなぜ気を失ったかが分かっていたようだ。
そう、私はヤリスやアニシス様、アイシス様たちと過ごしたあの楽しい思い出に心が拒絶反応を起こし、ガレント城を消し去ることが出来なかった。
アリーリヤにはそれが分かっていたんだ。
もの凄くすまない気持ちでいっぱいになる。
「お姉ちゃんだ、大丈夫だよ! 今度はその聖地ってところで神殿を壊しちゃえばいいんだから! あたしも頑張るから、一緒に聖地ってところを壊しちゃおうよ!」
ルラは赤と黒の瞳をらんらんと輝かせてそう言う。
なんかとても楽しそうね……
でも、聖地ユーベルトとか行った事無いし今度は私も大丈夫だろう。
そう、躊躇する要因が無いのだから。
私はそう思いルラの手をぎゅっと握るのだった。
* * *
「そうですか、先にユーベルト侵攻をなさりますか」
「ええ、ガレント王国は事実上戦力が無くなったわ。連合もヤツメウナギ女が『鋼鉄の鎧騎士』を葬り去った。とりあえずは目前の邪魔になりそうなものの戦力はそぎ落としたから、いよいよ女神の聖地であるユーベルトを襲うわよ。そしてユーベルトが瓦解すればジュメルとして大々的に宣言できるわ。我らジュメルが再び世界の表舞台に立つのよ! そして女神が出て来た時こそリルとルラの力で女神を倒すのよ!!」
アリーリヤはアプトムさんにそう饒舌に言い放つ。
当初の計画から少しづつ私のせいで狂ってしまったけど、一番の目的であるエルハイミさんをおびき出しその力をそぐ。
ルラがエルハイミさんより少し強くなって相手している間に私がエルハミさんの力を消し去る。
それがアリーリヤの考えた計画だった。
私の力、「消し去る」は本当に何でも消し去る事が出来る。
それは多分女神の力だって出来るだろう。
だって私の力の源は「あのお方」である駄女神からのモノ。
エルハイミさんも「あのお方」のこの世界での末端だと言われているけど、その力自体を切り去ってしまえば……
「しかしそうなると少々面倒ですな。ここにある転移魔法の魔石はユーベルトまでは飛べず、ユーベルトには馬車で行くしかありませんな」
「あら、そうなの? 以前はユーベルトへの中継点があったって聞いたけど?」
アプトムさんは困り顔でそう言うとアリーリヤは不機嫌な顔をした。
「申し訳ございません、連合軍のジュメル狩りにその拠点は潰されてしまいました。現状では拠点を再構築するのは難しく、ユーベルトまでは距離があり過ぎて転移魔法では……」
アプトムさんがそう言うとアリーリヤはため息を吐いてから言う。
「仕方ないわね。馬車の用意をして」
「かしこまりました。すぐに手配を致します」
アプトムさんはそう言って部屋から出て行ってしまった。
「なかなか思うようにはいきませんねぇ~」
「でも着実に世界の矛盾を取り除きつつあるわ。これでユーベルトも潰せれば流石に女神も出て来るでしょう。その時がチャンスよ。リル、ルラ期待してるわよ?」
イリカのその言葉にアリーリヤはニヤリと笑いながら言う。
そう、エルハイミさんを引っ張り出せれば矛盾の根源を潰せる。
もうこれ以上関係の無い人たちが巻き込まれる事はなくなるはず。
私はうしろめたさを拭い去るようにそう思うのだった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
ご理解の程、どうぞよろしくお願い致します。




