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腹ぺこエルフの美食道~リルとルラの大冒険~  作者: さいとう みさき
第三章:新しい生活
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3-25赤竜亭

エルフのマズ飯は鉄板!

ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。

そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……

エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。


リルちゃん、ルラちゃん!!(アスタリア談)


 私たちが戻って来たのは何だかんだ言って内緒で出て行ってから一週間が経っていた。




「リルちゃん、ルラちゃん!!」



 アスタリアちゃんがバツが悪そうにしている私たちを見つけて慌てて抱き着いてくる。



「何処に行っちゃってたの!? いきなり二人ともいなくなっちゃって心配したんだよ!!」



 一週間もお風呂にも入らず迷宮で動き回っていて汚く成っていると言うのにアスタリアちゃんは構わず頬ずりまでしてくれる。


 一応置手紙と来月の部屋代は置いておいたから戻ってくる気がある事は分かってもらえていたと思うけど、まさかこんなに心配されていたとは……


「リルちゃん、ルラちゃん。トランさんやロナンさんの事は残念だと思うけど自暴自棄になっちゃだめよ? いったい今までどこに行ってたの??」


 レナさんもそう言ってそっと私たちを抱きしめる。



「リルにルラ、話がある」



 しばし黙ってアスタリアちゃんやレナさんに抱きしめられていたけど亭主さんが私たちを呼ぶ。

 私とルラはアスタリアちゃんやレナさんから離れ亭主さんの前に行く。



「その汚れ方、靴の泥の様子…… お前たち、迷宮に行ったな?」


「……はい」



 亭主さんにそう言われ私は素直に答えた。

 すると亭主さんは大きくため息を吐いて言う。



「気持ちはわからんでもないが、素人が無茶するもんじゃない。その様子だと途中で引き返してきたか? いいかリル、ルラ、仇を討とうなんて馬鹿な考えはするんじゃない。トランたちの仇はエシアたちに任せておけ。あいつらならきっと仇を取ってくれる」



「それはっ!」


「ルラっ!」



 亭主さんにそう言われルラは声を上げるけど私はルラを止める。

 そして頷いて亭主さんに言う。


「そう……ですね…… 私たちの力じゃどうしようもありませんよね……」


「多少精霊魔法が使えるからと言ってもこう言った事はプロに任せておくんだ…… お前たちの事はトランからも頼まれている。迎えが来るまでここで大人しくしているんだ。いいな?」


 亭主さんはそう言って私とルラの頭にトランさんと同じく手を乗せて優しく撫でてくれる。

 それは何処と無くトランさんが私たちを撫でてくれるのに似ていた。



「すみません…… 部屋に戻ります……」


「お姉ちゃん……」



 私はそう言いルラと共に部屋に戻るのだった。



 * * *



「お姉ちゃん良いの?」



 シャワーを浴びながら体の汚れを落としてゆく。

 それと同時に何か憑き物が取れたかのように心にぽっかりと穴が開いたような気分だった。


「何が?」


「いや、何がって、亭主さんにあたしたちで仇を取った事を伝えなくて良いの?」


 ルラは髪の毛を洗い終わり髪の毛を横にして水分を絞っている。


「わざわざ私たちの秘密の力を言う必要も無いよ…… トランさんの仇が取れたんだもの、後はどうでも良いよ……」


 そう言いながら頭から体を伝い、足元へ流れていく雫を見ている。



「それに……」



 そう、それにもう他の誰も隠し扉は見つける事は無い。

 私はあの後隠し扉から先の場所を「消し去る」事にした。

 もともとあの迷宮には隠し扉は無かったかのように今は静かになっているはずだ。


「そう…… お姉ちゃんがそれで良いならもう何も言わないね……」


 ルラはそう言ってバスタオルを引っ張って体に巻き付ける。

 私もシャワーの蛇口を閉めて滴る雫を振ってバスタオルに手を伸ばす。


 もうあの迷宮には悪夢の隠し扉もトランさんの命を奪った銀の鎧もいない。

 最初から無かったように。


 私はお風呂から出て部屋に戻り、テーブルの上にハンカチを置いてその上にあの髪留めをそっと置く。

 そしてポーチからトランさんの髪の毛を引っ張り出しその横に置く。



「トランさん、仇は取ったよ……」



 それだけ言ってからベッドに倒れ込み枕に顔をうずめる。

 自然と涙が出てくる。

 でも声は上げない。


 そんな私をルラは黙ってそっと抱きしめてくれるのだった。



 ◇ ◇ ◇


 

「え? ここを出るって一体どう言う事?」



 私とルラは赤竜亭の皆さんを前にここを出て行くことを伝える。

 するとアスタリアちゃんが驚き私とルラの手をぎゅっと握る。



「リル、ルラ何故ここを出て行くんだ?」


 亭主さんは腕を組んだまま静かに私たちに聞いて来た。

 私は髪留めに指を触れながら言う。


「エルフの村に帰ろうと思います」


「それは迎えが来るのではなかったのか?」


 亭主さんは静かに私に聞く。

 しかし私は首を横に振り言う。


「エルフは時間の感覚が人族のそれと違います。すぐにと言って二年も三年も待たされることだってあります。それに……」


 触れていた髪留めから指を離し私は言う。


「ここにいるのは辛いんです……」


 それは私の我が儘だった。

 どうしてもここにいるとトランさんとの楽しい思い出で心が折れそうになってしまう。

 だからルラと相談して自分たちでエルフの村に戻ろうと言う事にした。

 私たちにはチートスキルがある。

 だから二人でいれば何も怖くはない。

 それに村に戻るまでにこの世界をもっとよく知る事が出来るだろう。


 私は亭主さんをじっと見つめる。

 亭主さんも私の瞳をじっと見てからため息をついて言う。


「トランも同じだった。どうしてエルフってのは言い出したら人の話を聞かないモノなのかな? 分かった。冒険者ギルドでつてを探そう」


「いえ大丈夫です。二人で戻れますよ」


 私がそう言うと亭主さんはずいっと前に出て言う。



「駄目だ。そこは流石に譲れん。お前たちだけでエルフの村に戻れるとは到底思えない。キャラバンか何かを紹介してもらうからそれについて行くんだ。良いな?」



 心配してくれての事だろう。

 流石にそれは断り切れず承諾するしか無かった。


 するとアスタリアちゃんが抱き着いてくる。



「リルちゃん、ルラちゃん本当に出てっちゃうの?」


「ごめんねアスタリアちゃん。私たちやっぱりエルフの村に戻らなきゃいけないの……」


「ごめんね。あたし、アスタリアちゃんの事忘れないよ」



 言いながら私たちもアスタリアちゃんをぎゅっと抱きしめる。

 するとそれを更にふわっとレナさんが優しく抱きしめる。



「仕方ないよね。でも、もしまたこっちに来たら必ず寄ってね?」


「レナさん…… はい、必ず!」


「約束するよ!」



 レナさんにはちょっと普通じゃない趣味があったけど今はそれでも優しく抱き着かれているのが心地よい。


 


 私たちはしばしこの二人に抱き着かれながらうれしくも悲しいお別れをするのだった。

 

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