16-3:作戦開始前に
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
アリーリヤが静香だったというのは驚きだった。
「それじゃぁ、愛結葉…… いえ、こちらではリルって言った方がいいわね」
「どっちでもいいけど、確かに今の姿の静香を見るとちょっとね。今まで通りアリーリヤって呼ぶね」
「そう、ね。それで早速作戦を開始しようと思うの。ただこのザビード家はまだまだ当分拠点として使いたいからここへの影響を最小限にする必要はあるわ。だからここから壁の反対側の王城付近から攻撃を開始するわ。リルがまずは王城の付近の壁を消し去り、イリカたちがあのヤツメウナギたちを使って付近の破壊を始めるわ。そうすればおのずと『鋼鉄の鎧騎士』たちが出て来る。そこをヤツメウナギ女とルラで殲滅するのよ。そうすればあいつらの残った兵力は通常の軍隊だけ。そいつらの相手はサイクロプスとオーガの軍団んで十分だわ」
静香…… アリーリヤはそう言って一枚の紙を引っ張り出す。
それはこの王都、ガルザイルの見取り図だった。
「この後アプトムやイリカも呼んでこの作戦の概要説明をするわ」
「でも問題はお城と壁を同時には消せないわよ?」
「え? そうなの??」
アリーリヤは私を見ながら驚く。
私は苦笑しながら説明を始める。
「私のチートスキル『消し去る』の欠点でもあるわ。対象を選んで頭の中に最終確認があって、それを承認してから力のある言葉を発するとスキルが発動をするの。但しそこで出来るのは一つだけの対象に対してよ。だから二つのモノを同時に『消し去る』事は出来ないの。それをするには二回同じ工程が必要よ」
私がそう言うとアリーリヤは少し考えてから言う。
「じゃあ、まずは壁を消し去ってもらう方がいいわね。これでまずは混乱が引きおこる。騒ぎになったところで城も消し去ればさらに混乱が起こるでしょうね」
「それじゃぁその手順で行きましょう。そろそろルラたちを呼ばないと……」
私がそう言ってるとアリーリヤは備え付けのベルを鳴らすとメイドがやって来た。
フォーマルな普通のメイド服の彼女は見た目もう四十を過ぎた方のようだ。
「アプトムとイリカたちを呼んで来て」
「かしこまりました少々お待ちください」
アリーリヤのその命令にメイドのおばさんは深々と頭を下げてから部屋を出て行くのだった。
* * *
「お姉ちゃん、あたしお腹すいた!」
「あら、ルラさんはお腹が空いたのですか?」
イリカとルラ、そしてアプトムさんがやって来た。
しかしルラは開口一番そう言ってお腹を押さえている。
「これはこれは失礼しました。すぐに何か食べられる物を用意させましょう」
「う~ん、あたし久々にお姉ちゃんの作ったものが食べたいな~」
「そういえばリルさんの料理はどれもこれも美味しかったですね~。私もまた食べたいですねぇ」
アプトムさんが食べ物の準備をするというとルラが我が儘を言う。
そしてイリカまでも私の作った食べ物が食べたいとか。
「へぇ、リルってお料理で来たんだ?」
「まあね、あちらの世界でも家庭科の料理実習は得意だったでしょ?」
「そう言えば、そうだったわね……」
アリーリヤ事静香はその昔を思い出すかのように上目遣いで顎に指を当て考えこむ。
彼女にしてみればもう何百年も前の話なので忘れてしまったのかもしれない。
あの時は一緒にクッキー焼いたりもしたんだけどなぁ。
「お姉ちゃん、あたしハンバーグ食べたい!」
「はんばーぐ? 何ですかそれは??」
「ハンバーグね、確かにそんな食べ物もあったわね。こちらの世界ではミンチ肉自体がなかなか手に入らないし、牛とブタを同時にってかなり難しいものね」
ルラの要望にイリカは首を傾げ、アリーリヤはこの世界の実情について語る。
確かに二種類のお肉を同時に手に入れるのは難しいかもしれない。
相当に流通のいい街にでも二種類を同時に手に入れるのは確かに難しい。
しかし、私の持つこのポーチにはいくつかの種類のお肉がある。
しかもエルフのこのポーチに入れておけばどんなに時間が経っても入れて時と同じ新鮮な状態で保てる。
「それじゃぁ、ハンバーグ作ってあげようか。アプトムさん、お台所借りますね?」
「はははは、これは楽しみですな。エルフの方の手料理が食べれるとなれば期待もしますな」
アプトムさんはそう笑いながら先ほどのメイドに命じて私を厨房へと連れて行くのだった。
* * *
「さてと、それじゃぁまずは材料を取り出して……」
そう言いながら私は動きを止める。
そしてしばし考えこんでからお肉を引っ張り出す。
コカトリスのお肉と、熊の肉。
大麦の潰したものに、毒蛇の卵、岩塩に山椒、後確かターメリックだっけ?
長ネギを取り出しながらしばし考えこむ。
「あれ? ハンバーグって確か食材これで良かったんだよね??」
片栗粉を取り出しながらそうつぶやいてみても、思い出すのはなんかこんな材料だったような……
「まあ、多少間違っていても大丈夫でしょう。さてとまずはお肉とミンチにするには……」
コカトリスも熊の肉も固い。
普通に包丁で切っていては時間がかかるので小さくサイの目にカットする為にスキルを使って結合部をわずかに「消し去る」。
するとお肉は小さいブロックのように簡単にバラバラになる。
それを包丁でたたいてミンチ肉にする。
「多少はごつごつしたお肉が残るけど、歯ごたえがあっても大丈夫よね?」
言いながら長ネギを細かく切って入れて、そこへ毒蛇の卵を入れてから細かく砕いた岩塩、山椒を放り込んで行く。
少し掻き回してから片栗粉と粉末のターメリック、大麦の乾燥したものを放り込み、更にねって行く。
「えーと、なんか違うよな気もするけど記憶の中ではこれで良かったような……」
お料理ってしばらく作っていないと入れる材料を忘れたりすることがある。
でもハンバーグはもともと余り肉をミンチにしてそこへ香辛料や他の食材を混ぜて作るのが基本なので、多分多少違っても大丈夫だろう。
「なんか毒蛇の卵のせいか少し生臭いような…… そうだ、匂い消しにハーブでも入れれば良いかな? えーと、香りの強いパクチー! うん、これ入れてみよう!!」
まあ何とかなるだろうと思い更にいろいろ入れてこねくり回す。
そしてそれを適度な大きさにして両手の間をぺたんぺたんと軽く叩きつけるよにして空気抜きをする。
これしておかないと焼いたときに中の空気が膨らんで最悪割れてしまったりするからなぁ。
フライパンに油を軽く引いてハンバーグを並べて焼き始める。
最初に表面を軽く焦げ目がつくくらい焼き締めして、中の肉汁が出てこないようにする。
両面をこんがり焼いたら火を落し、弱火にしてからふたを閉めてじっくりと焼いて行く。
こうするとしっかりと中まで火が通って、更に肉汁が閉じ込められ、水蒸気が蓋を閉めた事でお肉を柔らかくしてくれる。
時折焼き具合を見て裏返して出来上がり。
「……あれ? ハンバーグってこんな香りだっけ?? ま、まあいいか」
ちょっと焼き上がりの匂いが不思議な香りになっているけど、まあ大丈夫でしょう。
私はフライパンに残った肉汁を見ながら、ソースを作る為に材料を取り出してゆく。
「えっと、確か赤いのは唐辛子の塩漬けで、茶色のがチョコレート、お酒……いや、ワインビネガーだったよなぁ~。あ、甘みが欲しいから練乳あたりも入れてみようかな?」
残った肉汁をベースにデミグラソースみたいのを作るんだけど、何だろう?
出した食材に違和感を感じる。
でも記憶では確かこれで良かったはずなので、フライパンに残った肉汁を温め直してワインビネガーを入れて馴染ませてから、唐辛子の塩漬け、チョコレート、そして練乳を入れて掻き回す。
ふつふつと泡だって火が通れば出来あがり。
「……なんかすごい臭いだけど、これで良かったんだっけ??」
気になって味見しようとすると何故か体が拒否反応を示し、すくい上げたスプーンの中のソースを口に運ぶことを拒む。
「ううぅ、何故だろう? 味見を体が拒む?? ま、まあでも大丈夫でしょうからこのままハンバーグにかけてっと」
出来あがったソースをハンバーグにかけて行く。
そして別で作っておいた人参やジャガイモのソテー、ブロッコリーの塩茹でもお皿の横に並べて見栄えをよくする。
「出来ました! ハンバーグです!!」
私はにこにこ顔で出来あがったハンバーグをメイドさんと一緒に運び出すのだった。
* * *
「ほう、これがエルフの手料理ですか? なかなか独創的な香りがしますな」
アプトムさんはそう言ってテーブルに出されたハンバーグを見ている。
「お姉ちゃん、なんかいつものと違うような匂いだね?」
「ハンバーグってこんなのだったかしら? こちらの世界に来てだいぶ経つから忘れてしまったわ」
「まぁまぁ、以前リルさんのお料理食べましたけどどれもこれも美味しかったですよ~。きっとこれも美味しいんでしょうね~。さあいただきましょう」
テーブルにみんなついて腹ごしらえをしようと私の作ったハンバーグを前にナイフとフォークを構えている。
私もなんか引っかかるものの、同じくナイフとフォークを持ち上げて早速食べ始める。
「取りあえずいただきます。は~っむっ!」
ぱくっ!
他の人たちも同じくハンバーグを切ってから口に運ぶ。
すると途端に悲鳴が上がる。
「むがぁッ!!」
「ごぼっ!」
「ぐっ!!」
「んひぃっ!?」
当然私も目を白黒させる。
まずは口の中に入れて漂ってくる青臭いパクチーの味と香り!
入れた途端にその青臭い香りが充満してそこへ追い打ちをかけるように熊の臭みと赤唐辛子の塩漬けソースにチョコレートの風味が襲ってくる。
勢いで口に入れた部分は咀嚼を始めてしまうと結構固い肉質に山椒の辛味が襲ってきてとんでもない味わいになっている。
「お姉ちゃん! これハンバーグ違う!!」
「げほげほ、た、確かにハンバーグって遠い過去の記憶でもここまで強烈なモノじゃ無かったわよね?」
ルラは思わず吐き出し、無理やり飲み込んだアリーリヤも近くにあった水に手を出し口の中をゆすいでいる。
イリカやアプトムさんは真っ白になって口を開いたまま固まっている。
私もこの凶悪な食べ物を無理やり飲み込んで、置いてあった水を飲み込んでから言う。
「な、何この食べ物!? おかしいちゃんと作ったはずなのに!」
自分でも驚いている。
なにこれ?
もう既に食べ物じゃない。
まだ口の中が山椒のせいでピリピリしているし、パクチーの青臭い香りが鼻に残っている。
「ねえリル、これって毒にならないかしら……」
「いや、流石に毒にはならないと思いますけど……」
「おいしくなぁ~いぃ!!」
アリーリヤに言われて流石に毒にはならないけど、二口目は絶対に食べられない代物だった。
喚くルラを見ながらメイドさんが持って来てくれたシチューを代わりに食べる私たちであった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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