16-2アリーリヤの身の上話
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
ガレント王国の首都ガルザイル。
ウェージム大陸最大の国で、世界でも一、二を争う大国だ。
この国も魔法王ガーベルによって建国されたと言われていて、魔法王が君臨した街らしい。
街の中央には高い壁で囲まれた場所があって、古代魔法王国時代に「落ちてきた都市」という、空に浮いていた街が落ちてきた場所がある。
今の王家は魔王法ガーベルの直系らしいが、「落ちてきた都市」の魔法生物や魔物が壁から出てこない様に管理しているらしい。
「だからリルにはまずこの壁を『消し去る』して欲しいの。そしてルラにはこの国の守りの要、『鋼鉄の鎧騎士』を黙らせてもらって、その間にヤツメウナギ及びオーガとサイクロプスの軍団で街を破壊するのよ」
アリーリヤのその計画に私は首をかしげる。
「何故壁を『消し去る』必要があるんですか?」
「この国の象徴だからよ。城自体もこの壁と一体化していて、街で一番高い建物になっているでしょう? 国家として、大国としてその威厳を失えばこの秩序を容易に崩せるわ。そしてガルザイルに何か有った時に動くだろう七つある衛星都市の中で一番の象徴、聖地ユーベルトを破壊しつくせばガレント王国は完全に叩き潰せるわ。威厳も何も無くなり、世界でも一、二を争う大国が消えされば人々の考えも変わるわ」
アリーリヤはそう言って窓の外から街並みを見る。
「この国の人間は、この街の住人は安穏とした平和に甘んじているわ。そして『世界の穀物庫』という優位な立場に胡坐をかいている。ふふふふふ、その平穏な顔が恐怖に歪むのが今から待ち遠しいわ」
「アリーリヤ、でも罪のない人々を犠牲にするのは……」
アリーリヤがやろうとしている事は理解はできる。
でもやっぱり関係の無い人たちを巻き込むのは気が引ける。
「言ったでしょう? これは必要悪よ。この国の人々は与えられている偽りの平和に甘んじて努力をする事をしない。能力があろうがなかろうが家柄や生まれた場所でその地位を確保している。そんな世界、努力した人間が報われない世界なんて私はまっぴらごめんよ!」
アリーリヤはそう言って私のそばまで来て言う。
「リル、あなたには世界を変えられる力がある。どんなに私が頑張っても、何度転生してジュメルの幹部になってもあなたほどの力は手に入れられない。分かる? これは私たちの聖戦なのよ? 愛結葉、私は、私はっ!」
そう言ってアリーリヤは私に抱き着いて来た。
「ア、アリーリヤ? 今私の事、愛結葉って呼んだ……」
「そうよ! こんな奇跡、こんな残酷な運命、私たち二人で変えてやろうよ!! そしてこの世界で今度こそ幸せになるの!!」
私は真剣にそう言うアリーリヤの顔をまじまじと見る。
それは西欧系の白人の女の子。
緑色の髪の毛をして、深い藍色の瞳をした少女。
彼女はハッキリと何度も転生をしたと言った。
そして私の前世の名前、「愛結葉」を知っている。
「……アリーリヤあなた一体何者なの? 異世界からの転生者って聞いたけど、何度も転生しているって言うなら私の知っている人物であるはずがない。どう考えても私の知っている人物だなんて考えられない……」
「リル……、いえ愛結葉。私は…… 静香よ。あなたの親友の静香なのよ!」
「!?」
アリーリヤのその言葉に私は思わず硬直してしまった。
私の前世での親友、稲垣静香。
中学時代に実家が事業に失敗し、突然いなくなってしまった私の親友。
実家が破産したという噂と共に彼女は全く連絡がつかなかった。
携帯も通じなくなって、彼女の実家は夜逃げしたらしく私たちはその後全く連絡が取れなかった。
「静香……なの? ほんとうに静香なの!?」
「ええ、ええ!! 私よ、静香よ、愛結葉!!」
それは信じられない事だった。
何故アリーリヤが必要に私を欲していたか。
それは私のチートスキルだけの問題では無かった。
「どう言う事? ねえ教えて静香!」
「愛結葉…… あっちの世界は私にとっての生き地獄だったの……」
そして彼女は少しずつ話始めるのだった。
* * *
静香の話は驚きの連続だった。
まず彼女のがあちらの世界で夜逃げした後どうなったかというと、一家心中してしまったらしい。
勿論、バラバラに生きていく術もあったが、借金の肩代わりに身体を売る仕事に誘われていた静香に彼女の親は一緒に死ぬことを持ちかけた。
逃げ回る事に疲れていた彼女は、それを受け入れ一家みんなで山中の車中で練炭による一家心中を行ってしまった。
私が高校に入るちょっと前の話だったらしい。
そして彼女はあの駄女神に会ったらしい。
どうやら母親が何かの神様にお祈りしていたのがたまたま聞こえて来てみたら静香たちが死んでいたとか。
親や姉弟は既にその魂が霧散して無くなってしまったらしいが、世の中を恨みながら死んでいった静香だけはその魂がまだ残っていたらしい。
そこへあの駄女神が手を差し伸べ、こちらの世界に転生をさせたとか。
最初は喜んだらしい。
しかし、どんなに頑張ってもどんなに努力してもこの世界の制度自体は変わる事無く、その都度こちらの世界でも理不尽な死を迎えたらしい。
駄女神に言われたエルハミさんに近づこうとしても上手くいかず、死してもまたどこかに転生する人生を何度も繰り返していたらしい。
そしてある時気付く。
今の女神の我が儘を。
そしてそれが世界の根幹であると言う事をジュメルで知り、努力をして、またそこで何度か転生もして今の地位を得たらしい。
「ちょっと待ってよ、そうすると静香はこの世界でもう何百年も転生を繰り返したって事?」
「そうなるわね。もう何度転生したか忘れちゃったけど、輪廻転生システムが存在するこの世界では、人は魂の力が大きければ転生が出来るのよ。どこに転生するかは選べないけどね」
いやいやいや、それでもつじつまが合わない。
静香はもう何百年も前にこの世界に来ている?
私やルラがこの世界に来たのは十七年前だとしても時間軸が合わない。
「ふふふふふ、どうやらおかしいと思ってるのね? この世界に転生させるのは『あのお方』と呼ばれる存在の力。そして『あのお方』は時間さえも操っているのよ」
「時間を? あの駄女神が??」
思わず聞き返してしまった。
しかし静香は首を振って言う。
「私は多分四百年前くらいにこちらに来たわ。そしてあなたに触れて驚いた。まさか愛結葉だなんて思ってもみなかった。でも『従属の首輪』で【幻夢魔法】をかけた事によってあなたの素性が分かったの。その時の私の喜びと言ったらこの世界に来て最高のモノだったわ!」
静香はそう言って私の手を取る。
「お願い、協力して。もうあなたにあの薬は飲ませたくないの…… あれは麻薬と同じ。心地よく成るけどだんだんと心と体をむしばむ。愛結葉が私に協力さえしてくれれば今度こそ私たちはこの世界で幸せになれるのよ?」
「静香……」
ぐっと力を込めて手を握る。
そう、私には静香を、アリーリヤを手助けする理由がある。
「エルハイミさんの我が儘を止める…… それがこの世界の矛盾を無くす方法なのでしょう?」
「愛結葉! そう、分かってくれるのね? 大好きよ愛結葉。今度こそ二人で幸せになろうね! 永遠に!!」
そう歓喜する深い藍色の瞳に灯る炎に私はまだ気付かなかったのだった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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