15-18ボヘーミャに帰還
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
「リル、ルラ! 良かった、何も無くて」
そう言ってマーヤ母さんは私たちを抱きしめる。
エルフにしては珍しい巨乳のマーヤ母さん。
悔しいけど、こういう時にその大きな胸に抱きしめられると柔らかくてとても安心する。
「ただいま戻りましたマーヤ。不在中に何か有りましたか?」
「ユカ、連合が例の魔物に歯が立たなかった話本当? 今それでガレント王国の連合軍駐屯地では大騒ぎよ」
マーヤ母さんから離れて安堵しているとユカ父さんがマーヤ母さんに聞いてくる。
マーヤ母さんはユカ父さんが不在中に何があったか、かいつまんで説明をしていた。
「議会では秘密結社ジュメルの暗躍が表立ったと言う事で各国も緊張をしているわ。そして頼みの綱の『鋼鉄の鎧騎士』が歯が立たなかったって言うのも衝撃を与えているわ。この件に関しては近々ユカにも召集がかかり詳細を説明して欲しいって言ってきてるわ。それと……」
マーヤ母さんは私とルラを見ながら悲しそうに言う。
「参考人としてリルとルラにも来て欲しいって……」
「そう、ですか……」
しかしユカ父さんはそれだけ言うとマントを脱ぎ始める。
やっと家に帰って来たのだ、まずは落ち着きたいのが本音だろう。
それを見たマーヤ母さんは慌ててユカ父さんのマントや刀を受け取り、「お疲れさまでした」とねぎらいの言葉をかける。
ユカ父さんは頷くだけで私とルラに声を掛ける。
「リル、ルラ一緒にお風呂でもどうですか?」
「はい? ユカ父さんと??」
「あ~、ユカ父さんとはお風呂初めてだよね~。あたしいいよ~」
何ともまあ珍しい事だ。
ユカ父さんが一緒にお風呂に入ろうと言ってくるのは。
「マーヤ風呂の準備は?」
「ちゃんとできてますよ。その後はご飯ですよね?」
「ええ、お願いします。リル、ルラどうします?」
ユカ父さんは仮面を外しながらそう言う。
その表情はやはりあまり良く無い。
私は頷いてユカ父さんと一緒にお風呂に入る事にしたのだった。
* * *
かぽーん
うちのお風呂はヒノキ造りの由緒正しい和風のお風呂。
桶も腰かけも全部木製。
マーヤ母さんが準備してくれていたので湯気の立ちこむお風呂場は温かかった。
「えへへへ~、ユカ父さん背中流してあげるね~」
「ええ、お願いします。しかしルラ、湯船に入る前にちゃんとかけ湯しないとダメですよ?」
そう言いながらユカ父さんは湯船から手桶でお湯をすくい、自分にかける。
ざざぁ~
日本人特有の黒髪を結い上げ、白い肌にお湯が流れる。
見た目も二十歳前の姿で、傷一つない肌は柔らかそう。
私たちに比べれば揺れるくらいの胸もあり、うらやましい限りだ。
「どうしたのですかリル?」
「あ、いえ、その、ユカ父さんに見とれちゃって///////」
「リル、もしやあなたもこちらに目覚めてしまったのですか? しかし残念ながら私にはマーヤという妻がいます。そしてあなたたちは私の大切な娘です。流石に親子でそう言う関係は……」
「そうぢゃないですってばっ! 日本人の女性を見るのが久しぶりなんで見入っちゃったんですってば! 私にそんな趣味は有りませんって!!」
駄目だ。
ユカ父さんも恋愛対象が同性だから変な方向へと考えが行ってしまう。
私は至って健全だし、今までだってユカ父さんをそういう目で見た事が無かった。
ただ、転生者と召喚者ではやはり違うのだと実感するとともにこの世界では珍しい黒髪の女性の湯あみだったから思わず見とれてしまっただけだ。
「そうですか、そう言えばこの世界に召喚された者の中にはもう日本人女性はいませんね」
「昔はいたんですか?」
「遠い昔になりますが」
ユカ父さんはそう言って湯船に入る。
私やルラもかけ湯をしてから一緒に湯船につかる。
「ふう、やはり風呂はいい。疲れが流されていくようです」
「こっちの世界でもヒノキ風呂に入れるとは思いませんでしたよ。あっちの世界じゃ旅館か何かに行かなければ入れませんでしたしね」
「あたしンちもユニットバスだったよ~」
三人で湯船につかりながらそんなたわいない話をする。
しかしユカ父さんはパシャっとお湯で顔を洗ってから言う。
「リル、ルラあなたたちは議会に行かなくてよいです。連合の議会は私が対処しましょう」
「え? ユカ父さん??」
ユカ父さんはそう言って上を見ながら続ける。
「連合は今次の大敗を機に更に強力な戦力を欲するでしょう。そして既に情報は流れている。あなたやルラのそのスキルをどうにかして上手く使えないか考える事でしょう。しかしそれは女神に匹敵する力を意味する。連合も一筋縄ではいきません。ロディマス将軍は出来た御仁ではあっても軍の人間です。上からの命令には忠実に動くでしょう。私の権限もあくまで指南役。長く生きているから、過去の栄光があるからそのような立ち位置ですが連合軍を動かすのはあくまでも議会。あなたたちを連れて行けば軍への参加を強要され、ファイナス市長への圧力もかかるでしょう」
そう言いながらユカ父さんは目を閉じる。
そして大きなため息をつく。
「自分がふがいないです……」
「そんな、ユカ父さんは凄いです!」
思わず私はそう言う。
今回の貿易都市サフェリナの件だって結果的にユカ父さんが賢者の石を奪い、アリーリヤやイリカたちを退けた。
あのまま戦っていたら被害はあの程度では済まないだろう。
現にサフェリナの街は復興するのに時間がかかりそうだ。
メリヤさんなんかあの場で休学をお願いしてサフェリナの復興に自分が習った魔術を活用したいとか言い出したほどだ。
「とは言え、あなたたちを巻き込んでしまった時点で保護者として失格です。出来ればあなたたちにはこんな世界には足を踏み入れさせたくなかった……」
そう言ってユカ父さんは立ち上がる。
ざばぁ~
「長湯するとのぼせます。ルラ、背中を流してもらえますか?」
「うん、分かった!」
そう言いながらユカ父さんとルラは洗い場へ行く。
私も湯船からあがってその淵に腰を下ろす。
「ジュメルのせいで……」
私がそうつぶやく中、ルラはユカ父さんの背中を流し始めるのだった。
* * * * *
「ほらほら、たくさん作っておいたからしっかり食べなさいね」
お風呂から上がると居間にはご飯が準備されていた。
マーヤ母さんの手料理。
エルフなのに和食主体の美味しいご飯が並べられている。
マーヤ母さんはユカ父さんの為にイチロウ・ホンダさんに弟子入りして和食を習ったんだとか。
「ユカも、今日は冷酒も用意してあるからね」
「そうですか。ではいただきましょう」
マーヤ母さんのお酌でユカ父さんはお猪口でお酒を飲んでいる。
私たちも手を合わせてからご飯を食べ始める。
船の上とは比べ物にならない美味しい料理。
「えへへへ~この鳥の肉団子美味しいね~」
「うん、隠し味でごぼうとか入ってるわね、これ」
マーヤ母さんのご飯は本当に美味しい。
私はそれを食べながらあれやこれやと考えるのであった。
* * * * *
「ねえルラ、もう寝ちゃった?」
「ん~? まだ寝てないよぉ~」
ご飯も食べ、歯も磨き、今日は早めに休みなさいと言われ自室に戻った。
部屋にはマーヤ母さんがお布団を既に敷いていてくれて、お布団に入ってみると日向の香りがした。
私たちが戻ってくる前に布団を干してくれていたんだ。
「ねえルラ、アリーリヤやイリカってまた襲ってくると思う?」
「ん~、分かんない」
天井を見ながらルラにそう聞いてみる。
しかしルラは生返事でそう答えて来る。
そっとルラを見るとあくびをしていた。
「だよね……」
「……うん」
また天所を見てそう言うと、眠そうな声のルラが相づちを打ってくれた。
「でも、きっとあいつらはまた来る。私やルラがここにいる限り……」
ジュメルは私やルラのこのチートスキルを狙っている。
それは女神に対抗する為、この世界を破壊する為。
「エルハイミさんは一体何しているよの……」
大概な事は放っておいても大丈夫だろうけど、一つの街を破壊するほどの力が動いている。
そんなのを放っておいたらやがて世界は滅んでしまう。
「女神様の責任ってのがあるのに!」
なんかだんだんとムカついて来た。
こっちの世界に来る時に会った「あのお方」である駄女神の姿がエルハイミさんそっくりだったのも相まって余計にイライラしてくる。
「ちゃんと女神様として何とかしてくれなきゃいけないよね? ねえルラ??」
「すーすー」
愚痴を言い放ちながらルラに同意を求めようとしたらもう寝ていた。
それを横目に私は大きなため息を吐きながら言う。
「この世界は矛盾している……、か……」
アリーリヤのあの言葉を口にしてみながら私も目を閉じるのであった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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