15-17お墓
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
「これで良しっと」
私やルラだけでは埋葬できないので、アイザックさんはコルネル長老を弔うのを手伝ってくれた。
貿易都市サフェリナ。
その郊外にある東の丘の近くにコルネル長老のお墓を作った。
「オーガに知り合いがいたとはね…… オーガって意思が通じるものなんだ……」
「コルネル長老はずっと人として村にいたんです。ドドスの街からアスラックの港町に向かう山間の森に囲まれた静かな村で。自分たちがまさかオーガで、人の姿に封印されていただなんて知らなかったのでしょうけどオーガの姿になってからも変わらず私たちには親切にしてくれていたんです……」
ヤリスはアイザックさんがお墓を作り終わると、どこかで手に入れて来たお花を私に渡してくれた。
私とルラはそれを受け取りコルネル長老のお墓にお花を添える。
「ごめんなさい、コルネル長老…… デルバの村に連れていけなくて……」
「コルネル長老、絶対に悪の組織はあたしが倒すよ」
二人してお墓にお花を供えてそう祈りを捧げる。
この世界には女神様が実在する。
そして魂の輪廻も実在する。
願わくばコルネル長老も平和な所へ生まれ変わってもらいたい。
そんな私たちを見てヤリスやアイザックさん、アニシス様やサ・コーンさん、ウ・コーンさんも手を合わせお祈りしてくれる。
「皆さん、ありがとうございました。私たちの我が儘を聞いてくれて」
「まあ、リルの知り合いなら弔ってあげない訳にも行かないじゃない、たとえ魔物でもね」
ヤリスはそう言いながら立ち上がり私を見る。
なんだかんだ言ってヤリスは優しい。
「お姉ちゃん、これ」
そんな私にルラはドーナッツを引っ張り出してきた。
そう言えばコルネル長老はドーナッツが好きだったな。
いや、オーガの皆さん全員がそうだった。
私はルラから受け取ったドーナッツをコルネル長老のお墓にお供えする。
「さて、それでは行きましょうですわ。まさか改修型があんなに簡単にやられるとはですわ……」
アニシス様はそう言ってアイザックさんを見る。
アイザックさんは悔しそうにしているけど、アニシス様はアイザックさんの手を取って言う。
「今度は負けない機体を作りますわ。アイザック様にはまた私の作った『鋼鉄の鎧騎士』に乗って欲しいのですわ」
「アニシス様…… すみません。しかし次こそは必ず!!」
落ちこむアイザックさんにアニシス様はにこりと微笑むのだった。
* * *
「あ~、戻って来た。おーい、みんなぁ~」
メリヤさんが私たちが戻って来たのに気がついて手を振っている。
丘の上の別荘ではサフェリナの解放に手を貸してくれた人たちが集まって傷の手当てや食事をしていた。
そんな中、ぼろぼろの「鋼鉄の鎧騎士」が何体も置かれていた。
「戻りましたか。ちゃんと弔ってあげたのですね?」
「はい、ユカ父さん。それで、ユカ父さんは大丈夫なんですか?」
あの時、ユカ父さんがギフト持ちでどれほどよかったか感謝したものだ。
目の前で大切な人が剣で串刺しにされる光景なんて二度と見たくはない。
「知っての通り、片方の私が生きていればもう片方が死んでも大丈夫です。あの時は注意を反らす必要がありましたからね」
そう言ってユカ父さんは「鋼鉄の鎧騎士」を見上げる。
「太古のヤツメウナギ女ですか…… しかも『女神戦争』の生き残りで女神の血を吸った事がある魔物、更に強奪した連結型魔晶石核まで体内に持つ事からルラのスキル攻撃にも耐えた。そしてこの『賢者の石』により自在に操られていたとは……」
ユカ父さんはそう言って手のひらにあの「賢者の石」がついた指輪を見つめる。
「イリカの『賢者の石』ですよね、それ」
「ええ、何とか右腕を切り落とせましたがもう一人のアリーリヤに邪魔をされ打ち漏らしてしまった」
とは言え、イリカには大ダメージを与えたし「賢者の石」も奪えた。
いくらジュメルとは言え「賢者の石」をそうそう大量には生産できないだろう。
だとすると残りはアリーリヤの持つ「賢者の石」のみ。
「何とかアリーリヤたちを捕まえないとまた被害が出ちゃいます。この後どうしたらいいんですかユカ父さん?」
「……アリーリヤは確実にリルとルラを狙ってきます。今回の件でルラの強さは女神の血を吸って連結型魔晶石核をも持つあのヤツメウナギ女の魔物を凌駕していました。必ずあなたたちをまた襲いに来るでしょう」
ユカ父さんのその言葉に私は黙り込んでしまった。
確かにそうだ。
アリーリヤは最後まで私たちを自分たちに引き込もうとしていた。
いや、私たちのチートスキルをだ。
イリカあたりは私たちを魔物同様に操って世界を破壊させようとか言っていた。
しかしアリーリヤは私たちを執拗に呼び込もうとしている。
―― 世界は矛盾している ――
何故か彼女のその声が頭から離れない。
確かにこの世界は女神であるエルハイミさんが仕切っている。
力ある者、英雄と言われる者でエルハイミさんに関係する人は全てジルの村に転生をするようになっている。
でもそれが悪い事とは私は思わない。
まだこの世界に来て十七年くらいの私には計り知れない長い時を安定させているエルハイミさん。
もともとあちらの世界の住人で、この世界に来てティアナ姫の為に千年もの間安定させていた。
確かに元居た世界なんか私の知る限り二百年ちょっとの間を江戸時代から一気に近代化してそして戦争した後の復興から信じられない程発展をしたと習った。
その恩恵は当時女子高生の私だって理解は出来た。
でも代償として自分の知らない国では争い事が絶えず、あの世界だってしょっちゅう戦争をしていたってはテレビなどで見ていた。
大なり小なりの争い事はあってもこの世界は安定している。
それは良い事ではないのだろうか?
なまじ文明が発展してその結果争い事で戦争ばかりしているよりはよほど好いと私は思うのだけど……
「そんな世界をジュメルは、アリーリヤは壊そうとしている……」
私はそうぽつりとつぶやいていた。
「お姉ちゃん?」
ルラが心配そうに私を覗き込む。
それに気付き、にこりと笑って言う。
「何でもないわよ。それよりユカ父さん、アリーリヤたちがまた私たちを襲いに来るなら私たちはボヘーミャに戻ってはまずいんじゃないですか?」
「それを言い始めたらあの封印のひょうたんとやらのマジックアイテムがある限り何処へ行っても彼女らはリルとルラを襲いに来れるでしょう。問題は今回あれほどの騒ぎを起こし、あのヤツメウナギ女を使ってでもあなたたちを取り押さえるのが困難だと理解した事でしょうね。次は別の手段で襲ってくるかもしれません。であればボヘーミャに戻る方が対処の仕方があり得策でしょう」
ユカ父さんはそう言いながらもう一度壊れた「鋼鉄の鎧騎士」たちを見上げる。
「今のジュメルはそれだけの力を持っていながらあなたたち二人には敵わないと理解しているでしょう。次はもっと巧妙な、そして力任せな事ではない方法で来るかもしれませんね……」
ユカ父さんはそう言いながらぐっとこぶしを握るのだった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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