15-7嘆願
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
「ですからこれは私個人として行くのであって、ガレント王国は関係ありません!」
ヤリスは今学園長室へ来ている。
そしてユカ父さんに私やルラと一緒に貿易都市サフェリナに行く事を許可してもらおうとしている。
「ヤリス、確かにあなたはこの学園の一介の生徒でありますが、同時にガレント王国の第四王女でもあるのですよ? 個人とは言え王族のあなたが勝手に他国、または主権地域での争い事に介入すると言う事はガレント王国の介入と取られますよ?」
ユカ父さんは静かにそう言う。
しかしヤリスは引かない。
「でも、相手はあのジュメルですよ? それにリルとルラだけ危険な場所に連れて行くって言うのはどう言う事なんですか?」
「それは……」
ヤリスに痛い所を突かれてユカ父さんは言葉に詰まる。
昨日の夜もユカ父さんは断腸の思いで私たちに協力を要請した。
そしてアニシス様の話で連合軍が今戦力不足であるというのも理解した。
でも、それでも私たちを戦場へ連れて行く事にヤリスは憤りを隠さない。
「仕方ないのです…… 私だって本当はリルとルラを戦場へ赴かせることは反対です。しかし、今こうしている間にもサフェリナの街は壊滅に向かっているのです……」
「だから私も一緒に行ってこの覚醒した力でリルたちを手伝いたいんです!」
そう言うヤリスの瞳には断固とした意志の輝きがあった。
「学園長、私はヤリスが同行する事に賛成ですわ。こう見えても私たちは女神様の血を引く者、世界を混沌に落とし入れようとする輩を放置してはおけませんわ」
今までずっと黙っていたアニシス様はユカ父さんにそう提言する。
「しかし、ヤリスは……」
「私もティナの国代表ではなく、あくまでも個人として連合軍のお手伝いとして行くのですわよ? ヤリスだって『女神様のお導き』で個人として向かうのですから、問題ありませんわよ」
そうにっこり言うアニシス様にヤリスはちょっと驚きの表情を見せる。
「アニシス様……」
「それに出発までまだ一日ありますわよ? 今から学園長に丸一日は『同調』の手ほどきを受けられますわよ?」
アニシス様はびっと人差し指を立てながらそう言う。
それを聞きユカ父さんは大きなため息をつく。
「分かりました。しかしヤリス決して無茶はしない事。危なくなったらすぐに逃げるのですよ」
「分かりました。では学園長、私にも『同調』の手ほどきをお願いします」
ヤリスは頷きながらそう言うのであった。
* * *
ヤリスがユカ父さんから「同調」の手ほどきを受ける事となり、みんなで試験場へ来ている。
「ヤリス、これより『同調』の手ほどきをします。まずは魔力を高めなさい」
ユカ父さんは昨日と同じ事を言う。
つられて私もルラも魔力を高める。
「んっ!」
ヤリスは自分の魔力を高める。
もともと私たちより魔道についてはヤリスの方が一日の長があるので、こう言った事はお手の物。
すぐに魔力を高める。
「よろしい、それではその魔力の湧き出る源を探しなさい。それがあなたの魂です」
「魔力の湧き出る源…… それが私の魂……」
ヤリスはそう言って黙って何かを感じ取る。
私やルラは既に自分の魂を見つけてそしてその魂と肉体を繋げる。
きんっ!
甲高い金物のような音がしたと思ったら目の前の風景が、がらりと変わる。
それは魔力の流れであり、マナの流れでもある。
全てが黄金色にうっすらと輝いていて、この世界が魔力にあふれていることを物語っている。
「自分の魂ったって、何処にあるってのよ?」
しかしヤリスは昨日の私と同じく魂そのものが見つからない。
探せば探す程、深く潜れば潜るほどその存在が分からなくなってゆく。
昨日の私はまさにその状態だった。
「くぅうううう~っ!!」
ヤリスは額に汗を浮かべて唸っている。
これ、相当行き詰っているな……
私やルラはチートスキルを使う時の感覚から自分の魂を見つけ出した。
しかしヤリスにはスキルが無い。
じゃあどうしたら……
「あっ! ヤリス覚醒です!! 覚醒する時のその感覚、それを感じてください!!」
アニシス様は「覚醒」は「同調」に近いと言っていた。
だったらヤリスも「覚醒」をさせればきっかけが掴めるんじゃないだろうか?
「覚醒…… 分かった、やってみる!」
ヤリスはそう言って一旦目を閉じるとこめかみの上に三つづつトゲのような癖っ毛を生やす。
ぴょこんっ!
と、同時に体がうっすらと輝き始めて……
どんっ!!!!
「なっ!?」
「うわぁ、ヤリスの魔力が凄い上がってるぅ!!」
「これは……」
いきなりヤリスが黄金色に髪の毛を変える。
青い髪の毛はまるで逆立つように吹き出る魔力に押し流され、そしてヤリスがゆっくりと瞳を開くとその瞳は金色に輝いていた。
「リル、これって!!」
ヤリスはそう言ってばっと手を掲げる。
それと同時にヤリスの周りにあった魔力が手のひらに集まって行く。
「凄い凄い! これ、私の中からもの凄い量の魔力があふれ出てる! 体が軽い、なにこれ、全ての魔力が見える!!」
手のひらに集まった光をぐっと握って目の前に持って来てからそれを開いてみる。
それはキラキラした魔力の塊。
「流石にエルハイミの血が入っているだけの事はありますね。これほどまでとは」
「学園長、ありがとうございましぃ…… え? 学園長の身体、魔力がほとんど無い??」
ヤリスはユカ父さんにお礼を言おうとして驚く。
そう、ユカ父さんはあちらの世界から召喚されたあちらの世界の住人。
なのでこちらの世界でみんなが当たり前にする魔力の放出が出来ない。
奥深くに眠っている魂の中に魔素が内包されたまま、それを魔力として引き出す事が出来ないのだ。
「ヤリス、それでも私にはギフトがあり今までも戦ってきました。しかし今回の敵は普通ではありません。あなたも決して無茶はしない様に、それだけは肝に銘じてください」
ユカ父さんはそう言って私たちを見まわす。
「明後日、いよいよ出発となります。各自準備を怠らないように!」
「「「「はいっ(ですわ)!」」」」
私たちはユカ父さんのそれに応えるのだった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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