15-4学園長帰還
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
どうもみんながグルになって私たちをジュメルから遠ざけている節がある。
結局指示された生徒たちの身辺調査は生徒会の書記であるメリアさんが引き継ぎやったけど、問題は無かった。
「そりゃぁ、冒険者とかやっていれば多少は魔法も使えるか……」
「そうですね、学園に入って来る人が全部が全部若い人って訳じゃないですもんね」
資料だけだと気付かなかったけど、この三人はそこそこ年齢がいっていて二十歳くらいだった。
冒険者の経験があって魔道をもっと極めたくて一般入試で入って来たらしい。
これ、絶対アルフェさんは知っていただろうな。
「ん~、みんなお疲れさん~。とりあえず一般生徒で素性が良く分からなかったのはこの三名で、後は資料から出生からその家庭環境まで確認が取れたみたいだから今学園にいる生徒は特に問題無さそうだね~」
メリアさんはそう言って書類をまとめる。
今後自警隊は適度に学園内を見回りをするそうな。
「ん~じゃあ、あたしたちのお手伝い終わり?」
「まあこの後は適度に学園内を見回るって言ってたからそれに付き合う感じかしら?」
「でしょうね……」
どうも納得いかないけど、そう言う風に仕向けられているのだろう。
私とルラはジュメルから遠ざけられる。
それが誰の意思かは分からないけど、そう言う風に仕組まれているような気がする。
マーヤ母さんやソルミナ教授に言っても「危ない事はしちゃダメ」の一点張りだもんね。
「仕方ない、とりあえず購買部行ってたこ焼きでも買ってこようか?」
「あ~、賛成! お姉ちゃん、行こうよ!!」
ヤリスのその提案に早速ルラは応える。
まあ色々考えていたって仕方ない。
私たちはとりあえず購買部に向かうのだった。
* * * * *
「ただいまぁ」
「ただいまぁ~っ!!」
あの後は特に何をする訳でもなく三人でたこ焼き食べておしゃべりして帰って来た。
家に戻ると玄関にブーツがある。
このブーツって……
「ユカ父さん! 帰って来ているんですか!?」
私はそのブーツを見て慌てて居間に行く。
するとそこにはいつも通りにユカ父さんがお茶をすすっていた。
「お帰りなさい、ユカ父さん!!」
「あ、お帰りなさい~ユカ父さん~♪」
「ぐっ、リル、ルラ、ユカ母さんでもいいのですよ…… と、それは置いておいて、二人ともそこに座りなさい」
やっと帰って来たユカ父さんにお帰りなさいを言うと、目の前に座るよう言われた。
何だろうと思い言われた通りに座るとユカ父さんはおもむろに仮面を外す。
そして日本人特有の黒い瞳で私たちを見る。
「リルにルラ、今から話す事は非常に重要な事となります。心して聞くように」
「え? あ、はい」
「はーい」
何だろう神妙な趣で。
「まず、連結型魔晶石を盗まれ、そしてスィーフで暴れまわっていた魔物についてですが、やはり双方ともジュメルが関わっていました」
ユカ父さんはそう言って私とルラを相互に見る。
想定通りとは言え、やはり双方は関係していたわけだ。
「ジュメルは連結型魔晶石核を使いあの魔物を強化しました。既に貿易都市サフェリナには大きな被害が出てます」
「えっ!?」
ユカ父さんのその話に驚く。
連結型魔晶石核がアリーリヤに盗まれてまだ半月も経っていないのにもう魔物が強化され、そしてサフェリナの街が被害に遭っている?
「サフェリナの自衛の為の『鋼鉄の鎧騎士』はアインシュ商会がティナの国から直接仕入れているガレント王国の正規『鋼鉄の鎧騎士』にも劣らない一級品です。それが全く歯が立たずに蹴散らされた様です。そして街には避難勧告が出て精霊都市ユグリアか船でこのボヘーミャに住民が避難を始めました」
ユカ父さんはそう言って一旦お茶を口にする。
いつの間にか私やルラにもマーヤ母さんがお茶を出してくれていた。
「ユカ……」
「分かっています。こんな事は私だって本望ではありません…… しかしエルハイミがあれでは他に方法がありません」
マーヤ母さんのそれにユカ父さんはそう言って私たちを見る。
「単刀直入に言います。あなたたちの力を貸して欲しいのです」
「えっ?」
「ほえ??」
ユカ父さんはそう言って私とルラに頭を下げる。
私は慌ててユカ父さんに頭を上げるように言う。
「ちょ、ちょっとユカ父さん頭を上げてください、どう言う事かもっと詳しく話をしてださい」
私がそう言うとユカ父さんはゆっくりと頭を上げて話始めるのだった。
* * *
事の始まりは水上都市スィーフで魔物が出て、それがスィーフの「鋼鉄の鎧騎士」を倒したことが始まりだった。
水上都市スィーフにはたくさんの遺跡などがあり、時たま太古の魔物などが目覚めると言う事があった。
当初はそれではないかと騒がれたがどうやら違ったようだ。
その魔物はまるで自分の力を試すかのように「鋼鉄の鎧騎士」だけを襲った。
「鋼鉄の鎧騎士」は現在各国の主要兵器で、「鋼鉄の鎧騎士」同士で戦争の勝敗を決めるとまで言われる程各国では重用されていた。
それがいきなり出た魔物に倒されたとなれば大問題となる。
この「鋼鉄の鎧騎士」は程度はあれ地竜クラスであれば数体で抑え込むことができるほど、巨人族にも単体で十分に対応できるほどの戦闘力を持つ。
当然スィーフでは大騒ぎになりその魔物をスィーフにある「鋼鉄の鎧騎士」で倒そうとしたものの、全て返り討ちに遭い慌てて連合軍へと増援を頼んだわけだ。
しかし到着した連合軍もアイザックさんの改修型「鋼鉄の鎧騎士」以外は全て破壊され、大打撃を被った。
状況があまりにも混沌化して、情報も錯乱し始めたためにティナの国の第一王女であるアニシス様直々に調査に向かった。
そして「鋼鉄の鎧騎士」に対してもエキスパートであるアニシス様の見解ではその魔物の脅威は前代未聞のレベルであると判断され連合軍が一時撤退をする程であった。
だが、アニシス様が現地の査察に到着した頃にその魔物はいきなりなりを潜ませ見つける事が出来なくなってしまった。
ただ、魔物の周りには他にも魔物が存在したらしく、目撃者の情報ではサイクロプスであったり、大型の人型であったりと情報がまちまちだった。
しばらくアニシス様はスィーフ周辺の調査をしたもののその後はその魔物の姿を現す事が無かったので一旦ボヘーミャに帰る事となった。
そして私たちが開発していた新型の連結型魔晶石核で最強の「鋼鉄の鎧騎士」を作り上げようとした矢先にジュメルによる強奪事件が起こった。
アニシス様は連結型魔晶石核がジュメルにより強奪されたことに先のスィーフに現れた魔物との関連性を指摘、その危惧が見事的中して今貿易都市サフェリナに被害を及ぼしていると言う事だ。
「連合軍の緊急招集会議でも次々とその情報が入って来て早急にその魔物とジュメルの対処をしなければならなくなりました。しかしこんな時に肝心なエルハイミたちとの連絡は取れず、ファイナス長老経由でシェルに連絡をするもエルハイミがあの状態では……」
ユカ父さんは今までのいきさつを説明しながら現状の戦力ではその魔物に対抗できないと言った。
正直、ユカ父さんでさえ対処できない程の魔物なんて考えられなかった。
「そこでファイナス長老からあなたたちの話が出て、そのスキルを使いジュメルの操るその魔物を退治してもらいたいというのが会議の結論となりました。正直あなたたちのその力に関しては秘匿しておきたかったのですがここまで被害が拡大してしまったらもう手がありません。我が娘を戦場に赴かせるというのは愚行ではあります。しかし今となってはもうそれしか手段が無いのです……」
断腸の思いなのだろう、ユカ父さんは苦虫をかみつぶしたような顔でそう言う。
しかし、それほどまでの魔物を私たちで倒せるだろうか?
「あたし、やるよ、ユカ父さん!」
「ルラ?」
ずっと黙って話を聞いていたルラはスクっと立ち上がってユカ父さんにそう言う。
「だって相手はあの悪の組織ジュメルなんでしょ? 悪いやつはあたしがたこ焼きに変わってお仕置きしてあげる!!」
びしっと何かのヒーローものだろうか?
ルラは変なポーズをとってそう言い放つ。
私もそれを見て頷く。
「ルラ一人じゃ心配です。私もやります」
そう言って私も立ち上がる。
するとユカ父さんは静かに頷いてから言う。
「ありがとう、リルにルラ。しかし相手はジュメル。あなたたちには今から『同調』の手ほどきをします。せめてこの力を習得してもらいたい」
「同調?」
私が首をかしげてそう言うとユカ父さんは私たちを見ながら目の色を金色に変える。
そして言う。
「『同調』は魂と肉体の結合を強める技。肉体を動かすのは魂の力によるものです。それがほとんどの人は十分に出来ていない。しかしこの技を習得出来れば己の魂と肉体が誤差なく使え、そして全ての魔力とマナの流れが見えるようになります。それはこの世界の万物の物質を見極めその流れを変えられると言う事です」
ユカ父さんはそう言って湯呑を触るとそれがぐにゃりと変わって花束になる。
「え? ユカ父さんってそんな魔法を使えたんですか??」
「これは魔力の流れを見極め、その魔力をいじる事によりマナに影響を与え構成を変えさせた結果です。私は異界から来た者ですから魂の中に内包した魔力が外へ出せず魔法が使えません。しかしこの『同調』という技で魔法を使うのと同じことができるのです。いえ、女神の御業に準じる事が出来るのです」
それって、もの凄い事なんじゃないだろうか?
確かにユカ父さんは魔法が使えないとか言って普通に魔法を使っていた。
でもそれは魔法で無く魔力とマナへの干渉による女神様の御業だったとは。
「時間がありません、すぐに手ほどきを始めます。リル、ルラ良いですね」
「はいっ、分かりました」
「うん、あたしもやる!」
ユカ父さんはそう言って立ち上がるのだった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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