14-29マーヤ
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
今私たちは家に戻ってマーヤ母さんの前に座っている。
「ふう、リルとルラに何も無くて本当に良かったわ」
マーヤ母さんは家に戻ってからほとんどしゃべらず、お茶を入れて私たちの前に置いてからそう話し始めた。
緑茶の清々しい香りがほんのわずか気持ちを落ち着かせてくれる。
「あの、マーヤ母さん……」
「分かっているわ。ファイナス長老の風のメッセージは私の所にも来ていたもの、心配になってあなたたちを見に行ったらあれだもんね……」
そう言ってマーヤ母さんはお茶を一口飲む。
そして大きく息を吐いてからいつもの笑顔を見せてくれる。
「正直あんなに緊張したのは何百年ぶりかしら? 攻撃の精霊魔法だってほんと久しぶりに使ったわ。うまく使えないんじゃないかって心配したほどだもんね」
そうは言うけど、あの風の魔法は街灯を切り刻んだ。
普通風の魔法であそこまで強固なものを切り刻むのは難しい。
私たちが使えそうな風魔法なんて、それこそ目つぶしの埃を舞い上げる程度だもんね。
そう考えるとやはりマーヤ母さんの技量は凄い。
「でもこんなにも簡単にジュメルの侵入を許しちゃうとはね…… ユカが帰ってきたら報告しないといけないわね」
「アリーリヤさん…… いえ、アリーリヤの言っていた事って何なんでしょうね…… 世界の矛盾って」
私がぽつりそう言うとマーヤ母さんはちょっと困ったような顔をする。
「ジュメルが何をリルやルラに吹き込んだかは良く分からないけど、リルはこの世界に矛盾なんて感じてるの?」
マーヤ母さんにそう言われて私はしばし黙り込む。
この世界は嫌いじゃない。
エルフの村のみんなも、そして今まで出会った人たちも。
確かに生前の世界に比べれば不便な所もあるけど、それでもこの世界を嫌いになる理由はない。
そんなこの世界なのに私はアリーリヤに言われてずっと気になってしまっている。
この世界に矛盾?
一体何が??
「……わかりません。正直シェルさんやエルハイミさんたちに出会うまでそんな事考えた事すらなかった」
「お姉ちゃん?」
でも何だろう、この胸の奥深くにくすぶる感じは?
私はこの世界に不満を持っているのだろうか?
この世界に矛盾を感じているのだろうか??
「リル、ルラ。私はあなたたちの事についてファイナス長老やユカからも聞いているわ。あなたたちが転生者でユカやエルハイミさんたちと同じ世界から来たって事も」
そう優しく言うマーヤ母さんに思わず顔を上げる。
その顔はいつも通りの優しい顔だった。
「私はね、本気でユカとの間に子供が欲しかったの。でも女同士では子供は作れない。どんなにユカを愛していてもね。そんな時に友人のレミンから娘たちを頼むってお願いされたの。勿論ちょっと悩んだけど、もし私とユカの間に子供がいたらって思ったらとてもうれしくなっちゃってね、今ではリルもルラも私の本当の子供と同じよ。だから、悩みや困った事は迷わず私に相談して欲しいの、お母さんにね……」
マーヤ母さんはそうってにっこりと笑う。
その笑みがエルフの村の本当のお母さんと重なる。
その笑みは母親が娘に見せる笑顔。
生前の母も今の本当のお母さんも、そしてマーヤ母さんも同じ笑顔で笑う。
それを見て私は何故か肩の力が抜けた。
そしてポツリポツリと今まであったことを話し出す。
「エルフの村で初めて気づいたときに私はエルフになっていた事に驚きました。そして一緒に転生したルラも同じくエルフの女の子になっていた事にも」
マーヤ母さんは私の話を何も言わずに聞いていてくれる。
「ルラなんかもともとは男の子だったのに女の子になっちゃって、それでも私と同じ境遇で特別な力が使えて、でも内緒にしないと村から追い出されるかって不安で不安で……」
「お姉ちゃん……」
語りだしたら何故か止まらなかった。
エルフの村にいる本当のお母さんにもこんな話した事無い。
「でもシャルさんのお姉さんが現れて、そしてシェルさんとエルハイミさんに巻き込まれてイージム大陸に行って、大きなトカゲに襲われたり、トランさん死んじゃってどうしようもなくなっちゃって、カリナさんや黒龍のコクさんたちともいろいろ有って、それでそれで!!」
言いながら何故か涙が流れ始める。
「天候の塔でジュメルとか言う変なのが悪い事して、ドドスの街でもジュメルが悪い事してジッダさんも私たちのせいで死んじゃって、それでもなんとかエルフの村に帰りたくて頑張って道に迷ったりしながらやっとサージム大陸に戻って、お米見つけて嬉しかったけど、スィーフでもごたごたでなかなかエルフの村に帰れなくて!!」
ぼろぼろと流れる涙は何なのだろう?
でもなぜか私は止まらない。
「せっかくエルフの村に戻っても私とルラのスキルが危ないから修行して来いってファイナス長老に言われて、私は、私はっ!!!!」
そこまで言っていきなりマーヤ母さんに抱きしめられる。
「リルは頑張って来たんだね。流石私の娘、凄いわよ」
「私はっ!! うわぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!」
何なのだろう、とめどもなく涙が出て声を出してわんわん泣く。
でもなぜだろう、マーヤ母さんに抱きしめられていると今までの溜まったものがどんどん涙になって出て行くような気がする。
「お、お姉ちゃん……」
マーヤ母さんに抱きしめられてわんわん泣いている私をルラも気遣う。
でも今はとにかく泣きたい。
涙が全部枯れるまでとにかく泣きたい。
そんな私をマーヤ母さんはずっと抱きしめてあやしてくれる。
「リルは頑張り屋さんなのよ。今まで辛かったことを全部自分の中に閉じ込めて。ルラのお姉ちゃんである事で余計に自分に厳しくしていたのね…… いいのよ、お母さんに全部話して全部受け止めてあげるから」
「マーヤ母さん!! 私、うわぁああぁぁぁぁぁんっ!!!!」
私は大泣きでマーヤ母さんの大きな胸に顔をうずめしばし泣き続けるのだった。
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