3-19トラン
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
トランさんっ!!(リル談)
「一体どうしたって言うんですか?」
「今知らせが来てトランたちが大怪我をして冒険者ギルドに運び込まれたらしいんだ!」
亭主さんは暗くなって雨の降りしきる道でそう説明してくれながら先を急ぐ。
私は亭主さんのその言葉に耳を疑う。
「トランさんが怪我っ!?」
「お姉ちゃん、急ごう!!」
「う、うんっ!!」
驚きを隠せない私だったけどルラに言われ私は速足だったのが駆け出し始める。
冒険者ギルドは何度も行っているから暗くなった道でも場所は分かる。
ドキドキと心臓が高鳴って気持ちが焦る。
トランさんが怪我だなんて!
私たちは大慌てで冒険者ギルドに向かうのだった。
* * * * *
冒険者ギルドに着いて扉をはね開け中に入ると人が集まっていた。
職員のお姉さんたちや冒険者の人も右往左往している。
「トランさんっ!!」
私はトランさんの名を叫びながらその人だかりの中に入ってゆく。
するとそこにはトランさんやエシアさん、ロナンさんが横になって同じく他の冒険者仲間の【回復魔法】を受けていた。
「トランさんっ!!!!」
私は横たわって包帯で頭や腕を巻かれているトランさんの横に駆けつける。
そして絶句する。
トランさんの右足が無い……
「だめっ! 【回復魔法】じゃ間に合わない!! 誰か【治癒魔法】を使える人は!?」
トランさんたちを治療していた他の冒険者の女性が叫ぶけど、【治癒魔法】が使える人はいない様だ。
「トランさん、トランさんっ!!」
私はトランさんをゆすってみるけどヒューヒューと苦しそうに息をしている。
「お願いです! トランさんを、トランさんを助けてください!!」
「ごめん、私の力じゃ【回復魔法】しか使えないの……」
トランさんたちを治療していた冒険者の女性はそう言って首を振る。
「一体どう言う事なんだ? トランたち程の連中がここまでやられる何て……」
亭主さんはそう言ってやはり怪我をしているホボスさんに聞く。
するとホボスさんは悔しそうに話し始める。
「完全に見込み違いだ。あの迷宮の隠し扉は太古の儀式を行う場所。そしてそこを守る守護者は俺たちが束になっても勝てる見込みはない。奴の身体はミスリルで出来た化け物だったんだ……」
そう言うホボスさんも苦しそうだった。
そしてやはり包帯で頭や腕を吊るしたテルさんが言う。
「全て魔法の罠だった。あんなのは並みのレンジャーじゃわからねぇ。トランの精霊魔法だって通じなかったんだ…… ロモスたちが来てくれなかったら全員死んでいた……」
そう言って向こうを見るとやはり全身傷だらけのロモスさんたちがいた。
「古代魔法王国の遺産か……」
亭主さんはそう言って唸る。
私はトランさんの手を握りしめる事しか出来ない。
と、ルラが騒ぐ。
「ロナンさん!!」
ごふっ!
ロナンさんがいきなり吐血をしてぴくぴくとしてから動かなくなった。
「駄目ッ、【回復魔法】が効かない!! 誰か早く神殿から神官を連れて来なさいよ!!」
「もう呼びに行っている! もうすぐ来る!!」
同じく【回復魔法】をかけていてくれている他の女性の冒険者が悲鳴を上げる。
しかしロナンさんはもう動きもしない。
「ロナンさん? ちょっと、ロナンさんっ!!」
ルラはロナンさんをゆするけど全く反応がない。
そして目に涙を溜めながらルラはこちらを見る。
「お姉ちゃん、ロナンさんが息して無い……」
どくんっ!
ルラのその言葉を聞いて私も心臓が大きく跳ね上がる。
そしてトランさんを揺さぶる。
「トランさん、トランさんっ! だめ、死んじゃ嫌だぁ! ねえぇ、起きて、起きてトランさんっ!!」
女性の冒険者の人は相変わらず【回復魔法】をかけてくれているけど小さな傷が治り始めてもトランさんの呼吸はだんだん小さくなっていく。
私はぼろぼろと涙を流しながらトランさんを揺さぶり続ける。
「いやだよぉ、トランさん死んじゃ嫌だよぉ。私トランさんが帰って来るのずっと待っていたんだよ? トランさんに美味しいモノ食べさせようとまた新しいお料理作ったんだよ? ねえトランさん、目を開けて。お願い、トランさんっ!!」
私がそう叫びながらゆするのをだれも止めない。
ルラですら何も言わない。
それでも私はトランさんの名前を呼びながら揺さぶり続ける。
「トランさん、トランさんっ!!」
「リ……ル……」
涙をぼろぼろと流しながらぐしゃぐしゃの顔でトランさんの名前を呼んでいたら小さな声だけどトランさんが私の名を呼んでくれた。
「トランさんっ!!」
かろうじて瞳を開いたトランさんが気を取り戻したようだ。
私はトランさんの目の前に顔を持って行きぐっと手を握っている。
「トランさんしっかりして! 今神殿に神官さんを呼びに行ってるから!!」
そう言うとうつろな目のトランさんは無理矢理口元だけを笑う形にする。
そしてか細く聞き取りにくい声で言う。
「ごめ……ん…… や……くそく…… 守……れなく……て……」
トランさんはそう言って最後に息を吐き出してそのまま呼吸を止める。
私は瞳にもう色を失ったトランさを見て呆然とする。
「え? トランさん?? トランさんっ!!!!」
慌てて口元に手を当て呼吸を確認するけど全く呼吸をしていない。
心臓に耳を当て聞いてみるけど音がしない!!
私はすぐにトランさんの唇に私の唇をつけて人工呼吸をする。
息を吹き込み、そして胸に手を当て心臓をマッサージする。
「お、お姉ちゃん?」
「だめっ! トランさん、死んじゃ駄目ぇっ!! トランさんは私をお嫁さんにしてくれるって言ったもん、私が大人になったらお嫁さんにしてくれるって言ったもん!!」
ぼろぼろと涙を流しながら人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す私を今はだれも止めない。
でもいくら息を吹き込んでもいくら心臓をマッサージしてもトランさんの身体は変わる事は無かった。
いつの間にか【回復魔法】をかけていてくれた冒険者の女性も何も言わず魔法を止め、すっと立ち上がって他の人に【回復魔法】をかけ始める。
誰も何も言わない。
ただまだ息のある人にだけ手を差し伸べている。
それでも私はトランさんにずっと人工呼吸と心臓マッサージを続ける。
「リル…… もういい。やめるんだ……」
亭主さんが私の肩に手を乗せそう言う。
その瞬間私はビクンと大きく震え、大声を出しながら泣きじゃくりトランさんに抱き着くのだった。
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