3-18雨
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
魔物ってどんな味だろう?(ルラ談)
今日は朝から雨だった。
レッドゲイルに来て早数ヵ月、この街にもだいぶ慣れた。
そして今日も私たちは「赤竜亭」で忙しく給仕のアルバイトをしている。
「リル、あがったよ!」
「はーい、今行きま~す」
赤竜亭は相変わらず大繁盛だった。
あの後シーナ商会に行ったらなんとパスタの板状のものがあった。
まるで私がラザニアとかも食べたいなぁ~と言ったのが聞こえたかのように半生の状態でこれ見よがしに私の前に有った。
売り場の店員さんとも顔なじみになってしまい、要望の物が有れば可能な限り対処しますとか言われるまでになってしまったのだが……
「うめぇっ! ピザもパスタもいいがこいつはまた格別だな!」
「ああ、何層にもなっている皮みたいなパスタに肉のソース、そしてとろとろのチーズがたまんねぇっ!」
「リルちゃん、これもリルちゃんが教えたんだって? 一体どれだけ美味しいもの知ってるんだよ?」
「あ~、これでリルちゃんが大人だったら間違い無く求婚するのになぁ~」
がははははははっ!
常連さんがそんな事言いながら笑っている。
流石にMTR親衛隊の人たちも前回亭主さんに怒られてからはこの位では騒がなくなったけど、お愛想笑いする私の笑顔は心なしか引きつってしまう。
だって私をお嫁さんにして良いのはトランさんだけなんだもん!!
そんな心の声はしまっておいて、私は常連さんの食べ終わったお皿やジョッキを片付ける。
「お姉ちゃん、そろそろ交代だって~」
「うん、分かった」
片付けた食器を持って厨房に戻りながらふとカレンダーを見る。
この世界にも季節があり暦がある。
前の世界と違い三百六十日ちょうどが一年で、各月は古い女神様たちにちなんで十二の月に分かれている。
一月が光の女神様ジュノー。
二月が土の女神様フェリス。
三月が豊作と愛の女神様ファーナ
四月が商売の女神様エリル
五月が風の女神様メリル
六月が戦の女神様ジュリ
七月が炎の女神様シューラ
八月が天秤の女神様アガシタ
九月が冥界の女神様セミリア
十月が知恵の女神様オクマスト
十一月が水の女神様ノーシィ―
十二月が暗黒の女神様ディメルモ
実際にこの世界に存在していた女神様たちで、過去に起こった「女神戦争」で十二女神中十女神がその肉体を失い天界の星座になったと言われている。
そして残った女神様の中で冥界の女神セミリア様は冥界に引きこもっていると言われ、この世界の主神だったアガシタ様は今はどこかにお隠れになったとか。
ただ、人間界ではそんな話もだいぶ忘れられているらしく古い女神様の名前なんか各月の名前ですら忘れかけている。
じゃあ今は女神様がいないのかと言われればアガシタ様という女神様が雲隠れする前に新たに誕生した女神様に全権を渡してしまったとか。
そしてその女神様が育乳の女神様とか子宝の女神様とか婚姻の女神様なんて呼ばれる反面、雷鳴を司り無慈悲な天罰も与え赤と黒の神殺しの竜を従えているとか言われていてどうもピンとこない。
「他の女神様と違って何の女神様だか分からないのよねぇ~」
そんな事をつぶやきながら厨房に戻ると、久しぶりにまかない飯がロールキャベツだった。
「やったぁ! ロールキャベツだぁ~」
「ほんとだ、おかみさんのこれって美味しいんだよねぇ」
ルラも大喜びで席に着く。
私も同じく席について早速いただく。
「ん~♡ キャベツがとろけるぅ~」
「お肉も美味しいよね? あ、お姉ちゃんだけチーズ追加ずるいぃ~」
食べられる量は少ないけど、エルフでもお肉もお魚も食べられる。
それだけはこの世界に来て感謝出来る所だ。
なんたって美味しいものが食べられないのが一番つらいもんね?
と、私はトランさんたちが携帯の非常食を持って行ったのを思い出した。
「トランさんたち、ちゃんとご飯食べているのかな?」
「そう言えばもう十日になるね、トランさんたちが出て行って」
ちゃんとご飯食べているのだろうか?
それにダンジョンって食事どうするのだろう?
「ダンジョンって食事とかどうしているんだろう?」
何となくつぶやいた私の声におかみさんが気付き答えてくれる。
「おや? リルは知らないのかい? ダンジョンとかでは食糧確保は現地でするんだよ。魔物や魔獣の中には食べる事が出来る奴がいるからね」
「え”っ!? 魔物や魔獣って食べられるんですか!?」
驚いた。
あんな化け物たちが食料になるだなんて!
「冒険者にとっては当たり前の事なんだけどね、食べる事が出来る魔物や魔獣が知りたければ冒険者ギルドなんかで教えてくれるよ。生還率を少しでも上げる為にね」
確かにダンジョンとかで食料が尽きたら大問題だ。
でも現地調達が出来るとは知らなかった。
とは言え、そう言えばエルフの村でもたまにロックキャタピラーを捕まえて食べていたなぁ。
あれだけは虫っぽいのにエビみたいな味でおいしかった記憶がある。
「出来ればそうはなりたくないですね……」
「まあ、そうさね。特にダンジョンは美味い魔物や魔獣は少ないからねぇ」
いや、味とかでは無くて生理的にですってば!
おかみさんは昔を思い出しているのかうんうんと頷いている。
この人もその昔は結構ダンジョンでそれらを食べたのだろう……
「あ~でもあたしちょっと興味あるかな? 魔物や魔獣ってどんな味するんだろうね~?」
お気楽なルラはそんな事を言っている。
私は嫌だよ、そんなモノ食べるなんて。
せっかくの美味しいロールキャベツの味が薄れてしまうよ。
そんな事を思っていたらホールの方が騒がしくなる。
なんだろうと思っていたら亭主さんが慌てて厨房に戻って来る。
「リル、ルラ! 急いで冒険者ギルドに行くぞ!!」
「はいっ!?」
真剣な顔で亭主さんは私たちを引き連れ冒険者ギルドに向かうのだった。
面白かったらブックマークや評価、ご意見ご感想をよろしくお願い致します。
誤字脱字等ございましたらご指摘いただけますようお願い致します。