13-30ティナの国
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
「それで大慌てで逃げ出したというの?」
あの後ヤリスとアイシス様もアニシス様のお部屋にやって来た。
私はキャーキャー騒ぎながらヤリスの後ろに隠れる。
するとヤリスはアニシス様の部屋を見渡してから言う。
「いや、数年前に来た時より女の子たち増えてるけど、当時に比べればずいぶんと大人しい部屋になってるわよ?」
「い、いや、この大部屋はいいんです、問題はアニシス様の寝室! あそこは魔境です!!」
「そうですか? アニシスらしい部屋ですよ? 前はここも同じような感じでしたからね」
アイシス様にそう言われ私は愕然とする。
この大部屋があの魔境だったって?
「あら嫌ですわぁ~。リルさんそんなに怖がらなくてもいいですのに。確かに以前は毎晩ここに居た女の子と愛を深めていましたが、流石に最近は一度に全員とはいかず、かといって皆さんの目の前で愛を語ると他の子が嫉妬してしまうので今は順番制ですわ。なので小部屋に私の寝室を移したのですの」
もの凄く良い顔するけど言っている事はとんでもない。
私はヤリスの後ろでガクガクブルブルと震える。
「何よ、私の後宮では普通だったのにやたらとアニシス様の寝室には驚くのよ? あ、もしかして私の後宮の女神様グッズが神々しくてそっちの気分にならない? 分かるわ! 尊いのよ、女神様は!!」
いや、それはそれで大きく誤解があるけどとにかくあの部屋には絶対に近寄っちゃダメだ!!」
「う~ん、お姉ちゃん目隠しするからアニシス様の小部屋見れなかった~」
「ルラはいいのっ!」
とにかくせめてルラにだけはああ言ったモノは見せないようにしないと。
「それでアイシス様、ヤリスはお父様には会ってきましたの?」
「ええ、連合の件も含めお話させていただきました。アニシスのおかげで連合に切り札も出来ましたしとりあえずは一安心と。これで私の仕事は終わりなので後はゆっくりとさせてもらいますよ、アニシス」
「ええ、自分のお家と思ってくつろいでくださいですわ! 私も久しぶりに皆さんと色々としなければいけませんものね」
アニシス様がそう言うと途端に部屋にいる女の子たちが熱い吐息を吐いて頬を染める。
いや、何する気は分かっているけど、これ全員相手にしようとするアニシス様もアニシス様だ。
コンコン
なんか部屋中がピンク色の吐息で満たされた頃、扉をノックする音がした。
「どうぞですわ~」
「失礼します、アニシス様。先にお客様たちを客室へお連れしようと思いまして。ご自慢のお部屋はもう宜しいですか?」
「アスベリア~、もう皆さんをお連れするのですの~? これから今研究している新しい魔晶石核と新型『鋼鉄の鎧騎士』の構想についてお話しようと思いましたのに~」
あの獣人の経済大臣とか言っていたアスベリアさんだった。
耳をぴくぴくさせながら部屋の様子を見てため息をつく。
「そんな事言ってアニシス様はこの子たちの相手したくてうずうずしているのでしょう? 客人にはまずはお部屋でお休みになられた方がいいかと。あと、後かたずけが大変ですから一度に五人までにしてくださいね?」
「え~、せめて半分はお相手させていただきたいですわぁ~。皆さんとは久しぶりなんですから~」
アニシス様がそう言うと一斉に女の子たちが嬉しそうな声を上げる。
だめだ、やっぱりこの部屋にいる人たちもそうなんだ!!
私はルラを引っ張ってアスベリアさん側へと逃げて行くのだった。
* * *
「どうぞ、エルフの方々はこちらのお部屋で。ご姉妹と聞いていましたのでお部屋は一緒にしましたが別々の方がよろしかったでしょうか?」
「いえ、一緒で大丈夫です。ありがとうございますアスベリアさん」
「どういたしまして。何か有りましたら気兼ねなく声を掛けてください」
そう言ってにっこりと笑うアスベリアさん。
アニシス様と違って常識がありそうな人で助かる。
「アスベリアさんって、狐さん?」
「はい、私は狐の獣人です」
アスベリアさんは部屋を出て行こうとするとルラがいきなり質問をする。
まあ、見た目がきつねの耳と尻尾だから多分そうだとは思ていた。
「ねぇねぇ、アスベリアさんの頭の上の耳って本物だよね? あたしたちみたいにこう言う耳は無いの?」
ルラはそう言って自分の長い耳を両手で引っ張って見せる。
確かに長い髪で私たちと同じ位置にありそうな耳は隠れて見えないけど、頭の上の耳があるのだからこめかみの後ろあたりには耳が無いのだろうか?
「うふふふふ、確かに人族には良く聞かれますね。恥ずかしいのであまり人には見せないのですがこうなっているんですよ」
そう言ってアスベリアさんは髪の毛をどかしてこめかみの後ろを見せてくれる。
そこには確かに耳は無いのだけど、頭の上につながる出っ張りがあった。
「私たち獣人で頭の上に耳がある者は大体こうなってるんですよ、音管と言って頭の上まで半分開いた管の様な物があって音が聞こえて来るんです。ちょうどエルフの方の耳を丸めて頭の上まで伸ばしたような感じですね」
よくよく見ると確かに筒のようになっているけど、切れ目があって長く頭上まで伸びた耳って感じだった。
「へぇ~、じゃあこうだ!」
ルラはそう言って自分お耳を丸めて頭の上の方まで引っ張る。
流石にエルフでもそこまで耳が長くないので完全に頭上まで耳がいかないけど、シュノーケルのように頭の側面に丸められた耳がぴょこんと起つ。
「そんな感じですよ。ですが聴覚は人族のそれよりずっと敏感になってますね」
アスベリアさんは笑いながらそう言う。
「このティナの街には獣人族も多く住んでいます。近くのジルの村との交易も盛んですからね」
「ジルの村…… えっ? 近くにあるんですか、ジルの村!?」
アスベリアさんにそう言われ驚く。
エルハイミさんが行っているその何とかってお姫様の転生者がいる村。
三人のエルハイミさんとシェルさん、そしてコクさんも来ているはずだから今その村はとんでもない事になっているのじゃないだろうか……
「ち、近づかない様にした方がいいわね……」
「はい?」
「い、いえ、なんでもありません。こっちの話です」
首をかしげるアスベリアさんに私はお愛想笑いをするのだった。
* * * * *
「満足ですわぁ~」
お肌つやつやのアニシス様が嬉しそうにそんな事を言っている。
あの後夕食を一緒にとか言われて呼び出された場所にはなんと国王陛下と王族の皆様がいた。
遅くなりながらもご挨拶をすると気さくに国王陛下は笑って言う。
「なに、公式では無いしアニシスの友人となれば堅苦しい事は抜きだ。あれの友人をしてくれるだけでも感謝しなければならないのはこちらの方だしな。それにエルフ族の方とは我々も浅からぬ縁があるしな。ティナの国ではゆっくりとしていってくれ」
「あ、ありがとうございます、マキシム陛下」
「ありがと~」
そう言ってくれるマキシム陛下は気さくに笑っていた。
私もルラも頭をぺこりと下げてお礼を言う。
しかし驚くのがこのマキシム陛下には奥さんが二人もいて、王子や王女が何人もいた。
王妃は第一王妃のリーネ様、第二王妃のアマリヤ様。
アニシス様の実母がリーネ様で、アニシス様によく似た私たちと同じくらいの歳のラキシス第二王女、そして男版アニシス様みたいなバズード第一王子。
腹違いらしいけど、アルク第二王子と合計で姉弟が四人いた。
アニシス様が一番上で第一王女、どうやらこの国は王様を女性でも男性でもどちらでも出来る様なのだけど、一夫多妻制どころか多夫一妻制、同性婚も普通に行われているちょっと開放的すぎる風習があるそうな。
……アニシス様がああ言った性格なのもうなずける。
「そう言えばリル殿もルラ殿もティナの国は初めてと聞く。アニシス、お二人を街に案内してやってはどうだ?」
「ええ、勿論ですわお父様。このティナの国には沢山見る所もありますわ。エルフのファムさんが手伝ってくれた製糸工場なんかもありますわよ。そうそう、シルクの下着は私も愛用してますがとってもいいものなのですわよ~」
いや、皆さんの前で言うような事じゃないような……
そう言えばマーヤ母さんからも買ってくるように託っていたんだった。
「ファムさんってエルフの人?」
「そうですわ、もうティナの街に千年近くいて下さるのですわ。出来れば彼女も私のお部屋にお招きしたかったのですがずっと断られているのですの~」
もの凄く残念そうに言うアニシス様。
普通はあれ見たら誰だってドン引きですって。
「ファムさんかぁ~どんな人なんだろうね?」
「さあ、渡りのエルフの人かな?」
「いいじゃん、明日行って見ましょうよ。アニシス様いいでしょ?」
「勿論ですわ」
そう言ってにっこりとアニシス様は笑う。
明日はティナの街をいろいろと見て回る事となるのだった。
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*すみません、コロナで倒れてました。
再開しますが、まだ本調子でないのでもしかしたらまた突然止まるかも……
すみません。
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