3-15ピザ
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
また何か始めるのかい?(おかみさん談)
昨日は大いに失敗してしまい赤っ恥をかいた。
「ううぅ、まさか皆さんの前でご開帳してしまうとは…… ああっ! 恥ずかしいぃっ!」
「お姉ちゃんまだ言ってるの? いいじゃんパンツくらい。村じゃ裸でみんなと水浴びしてたのに」
いや、あれはエルフの村での習慣で小さな頃からみんなで水浴びしていたから気付いていないだけで、本来なら混浴って有り得ない事だから!
「私のパンツ見ていいのはトランさんだけなの! もうっ!!」
腹いせに枕を殴る。
ぼふっ!
しかしそれ以上でもそれ以下でもない。
何度かまくらを殴って気持ちを切り替える。
「とにかく、今日はまたシーナ商会に行くわよ!!」
「え? また?? 今度は何を買いに行くの?」
ルラは着替えながら首をかしげる。
私も着替えながら、ふっふっふっふっと笑う。
「ルラ、あなたピザ好き?」
「勿論! コーンとツナの大好き!!」
でしょうね。
私も好きだもん。
でも流石にツナはこの世界では手に入らないよね?
「ツナマヨコーンは流石に無理だけど、マルゲリータみたいなシンプルなのは出来そうだよね? バジルは有るの知ってるし。あと問題は……」
そう、ピザソースは作れそうな目論見はあるけど肝心な生地を作った事が無い。
記憶では確か簡単なものは小麦と水、塩にイースト菌なんだけど……
「そう言えばこの世界ってイースト菌どうしているのだろう? シーナ商会に行けばあるのかな?」
そんな事を考えながら着替えを終えてルラと一緒に裏庭に洗濯がてらに顔を洗いに行く。
と、アスタリアちゃんと会った。
「アスタリアちゃん、おはよう!」
「おはよう~」
アスタリアちゃんは洗濯を干していた。
私たちの挨拶に気付き、挨拶を返して来てくれる。
「おはよう~、リルちゃん昨日は大変だったね?」
「うっ、そ、それは忘れて…… 洗濯終わったの?」
「うん、後はパン屋にパンの仕入れに行ってこなきゃだね」
そう言えばこのお店で出すパンはなかなかに美味しい。
断面がスカスカなバケットなんかと違ってみっちりと中が詰まっているのに軽く、そして柔らかい。
生前の駅前にあるパン屋さんにも引けを取らないそのパンはパン屋さんから仕入れていたんだ。
確かにおかみさんがパン焼いている所は見た事無いもんなぁ。
と、私は有る事に気付く。
「ねぇ、アスタリアちゃん、パン屋に行くの一緒に行っちゃダメ?」
「え? 別に構わないけど、どうしたの?」
私はにっこりと笑って言う。
「ピザの生地を作る為よ!」
ピザという言葉に首をかしげるアスタリアちゃんだった。
* * * * *
「薄いパン? なんだいそりゃ??」
アスタリアちゃんと一緒にパン屋さんに来ている。
このパン屋さんはレッドゲイルでもかなり有名で朝早くから沢山のパンを焼いている。
まだ厨房の奥ではパンを焼いているようでいい香りが漂っている。
「えーと、うす~いパンみたいな生地が欲しいんです。何とかならないですか?」
「薄いパンなんて作った事は無いし、そもそもうちはしっとりふんわりのパンが売りだからね。薄くしたらパリパリになって硬くなってしまうよ?」
確かにパンではそうだけど、ピザならそれこそ願ったり叶ったりだ。
「それでいいんです、何とかならないですか?」
「ちょと無理だねぇ。窯もそんなの焼いている暇はないし。そうだ、生の生地分けてやるから自分で焼いてみなよ」
そう言って厨房に入って行って生地を取って来る。
大体パン二個分くらい。
「これで良いかい?」
「うーん、分かりました。じゃあ普通のパンのお代で」
私はお金を払って布で包んでもらい受け取る。
「リルちゃん、生の生地なんかどうするの?」
「うん、今日のまかない飯で試したい事が有るんだ」
言いながら沢山のパンを持つのを手伝う。
ルラもバスケットに沢山入ったパンを持って歩きながら言う。
「お姉ちゃんピザ作ってくれるんだよ~」
「ピザ? さっきも聞いたけど何それ?」
「えーとね、丸くて薄くてチーズがとろ~りのやつ!」
いや、それじゃますますわからないでしょうにルラ。
アスタリアちゃんを見るとやっぱり首をかしげている。
「丸くて薄くてチーズがとろ~り? なんかなぞなぞみたいだね?」
笑いながらそう言うけど、もしこれが上手く行けばパスタ以外にピザまで食べられる。
私はニマニマしながら赤竜亭に戻るのだった。
* * * * *
赤竜亭に戻り、荷物を置いたらその足でシーナ商会に行ってピクルスとトマトピューレ、乾燥バジルなんかも追加で買って来た。
そしてナチュラルチーズが無いか確認したらそれに近いチーズが有るというので買って来た。
「リルちゃん、こんなに大きなチーズどうするつもり?」
「もしピザが上手くいけば今後チーズは沢山必要なのでまとめて買ってきました」
どんっ!
こっちの世界でもテレビで見たようなチーズの生産をしているらしく、丸い座布団の様な大きなチーズを丸々買って来た。
いっぺんこんなチーズを買ってみたかったのよね~。
生前はカマンベールチーズとか手のひらサイズくらいのしかスーパーなんかでは見た事が無いからね。
「なんだいリル、この大きなチーズは? 切り売りしないで丸々買って来たのかい?」
「あ、おかみさん。厨房借りますね、うまくいったら今日のまかない飯食べた事無いような美味しいやつですよ!」
「ピザって言うんだ~」
ルラもにこにこしながら隣で買って来た食材を出している。
「ふーん、またエルフの料理かい? それは楽しみだね」
「え、あ、エルフの料理と言うかその……」
そう言えばおかみさんはやたらとエルフは美味しいものを食べていると誤解している様だ。
実際にあの村の食べ物を出されたらみんな絶句するだろう。
永遠に食べ続けるエルフ豆とか、味がほとんどしないすいとんとか、キノコばかりのスープとか……
素朴な味としてちょっと楽しむのは良いと思うけど、それが毎日ってのはほとんど拷問だ。
私は乾いた笑いをしながら「えっと、シェルさんが~」とか言葉を濁すのだった。
「お姉ちゃん、早く作ろうよ!」
「うん、それじゃぁピザの試作を始めようか!!」
私は腕まくりをしながらいよいよピザの試作を始めるのだった。
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