12-28大魔導士杯第一戦目その2
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
「大魔導士杯」第一戦目である「知識」勝負のお題は「たこ焼き」だった。
「いや、分けわかりませんて。知識のお題で『たこ焼き』って、何をどうしろと言うのですか!?」
思わずヤリスとアニシス様に振り返り私はそう言ってしまった。
しかし二人の反応は私のそれと違っていた。
「まさか、いきなり難題だわね……」
「そうですわね、まさかお題が『たこ焼き』だなんてですわ……」
神妙な表情になっている二人。
いや、何それ?
たこ焼きだよ?
屋台の店で食べたあのたこ焼きだよ??
『それでは第一回戦目を始めます。各チームは対戦ブースへどうぞ!!」
しかし司会に促されて私たちは会場の対戦ブースへと入る。
今回の相手はドドスチーム。
出場するチームは全部で十六チーム。
第一回戦で残れるのは半分の八チームになる。
ヤリスの話ではせめてベストフォーに入りたいって言ってたから、二回は勝たないといけない。
『それでは早速始めましょう! 今回のお題【たこ焼き】についてその【構成】、【ボヘーミャでの歴史】、そして【美味しさの秘けつ】のポイントをまとめて発表してもらいましょう! 制限時間は三十分。表現方法は各チーム自由にしてもらっていいでしょう。如何に審査員を納得させるかで勝敗を決めます、さあお前のたこ焼き愛を示めせぇっ! 試合開始!!』
うぉおおおおおおぉぉぉぉっ!
いや、何故たこ焼き程度でそこまで盛り上がる?
来場している観客もなんかやたらとテンションが上がっている!?
「くっ、ボヘーミャ出身じゃない私たちには不利だけど、相手はドドス。条件は同じね!」
「そうですわね、であればここはボヘーミャに滞在が長い方が一日の長がありますわ! やりますわよヤリス!!」
何でヤリスもアニシス様もそこまで熱くなる!?
大体にしてたこ焼きについてどう構成を表現してボヘーミャでの歴史を語っておいしさの秘訣を表現すればいいのよ!?
「ん~、たこ焼きについて? じゃあ、あたしたこ焼きの絵を描くね~」
「ルラ、それナイスだわ!」
「ええ、たこ焼きへの愛を表現するには良い手段ですわね!!」
「え、えっとぉ……」
駄目だ、完全に乗り遅れている。
呆然とする私に対してヤリスとアニシス様は何やらボードに書き込んでいる。
私はそれを後ろからそっと覗き見ると……
―― ボヘーミャでのたこ焼きの歴史 ――
ボヘーミャでは約千年前に異界からの召喚者であるイチロウ・ホンダ氏による現地でのクラーケンの大漁捕獲による処理問題として食用転換の提案があった。
しかしクラーケンの食用化はその外見、クラーケン自体の知名度が仇となり、普及に影響があった。
そこでイチロウ・ホンダ氏の考案でウェージム大陸での豊富な収穫がある小麦を使い、またその外観を人々からの偏見を無くす為に球体の焼きものとして広める事とした。
それが「たこ焼き」の原型となる。
また「クラーケン」の名前は人々に恐怖心を与える為に彼がいた異世界に似たような生物があおり、それの名前を使って「たこ焼き」とされたとも言われている。
以降、イチロウ・ホンダ氏の度重なる改良によりその「たこ焼き」は進化を遂げ、以下の基本構成が決まった。
1)具には必ず下処理をされたクラーケンを入れる。
2)クラーケンを覆い隠すように外周を小麦粉を使用したものでコーティングしたものとする。
3)形状を親しみやすい球体状にする。
4)味付けに関しては各人に任せるが、基本としては以上の条件に対して追加での味付けを自由とする。
5)本製品はボヘーミャの特産物とする。
以上基本構成の五条が決まり代々その基本を守りボヘーミャでのたこ焼きは発展をする事になる。
現在のボヘーミャでは大きく御三家の老舗による展開に分かれている。
たこ焼道楽ワナ:たこ焼きの本質をいち早く理解し、少量の塩を振りかけて食べても十分に美味しい。
そのきめ細やかな小麦粉、出汁へのこだわりも素晴らしく、紅生姜で無く塩生姜を使っている所にもこだわりを感じる。
伊賀流:生地に昆布やいりこだしなど七種類ものだしをベースに山芋や隠し薬味を使用。
ソースにはリンゴや玉ねぎをたっぷりと使用し、フルーティーなソースに仕上げている。
マヨネーズを振りかけると言うのはこの伊賀流が最初であるらしい。
ボヘーミャ金だこ:仕上げに油をかけて外周をカリッと仕上げるのが特徴。
中はトロトロ、周りはカリカリと言う食感がとてもたまらなく美味しく、ややも油っぽくも感じるがトッピングも豊富でそれによりその油っこさも中和されるボリューミーなたこ焼きに仕上がっている。
以上御三家が現在のボヘーミャでのたこ焼きの代表格とされているが、その後も数々のタコ焼きの店が出来あがっているのが現状である。
ヤリスとアニシス様は事細かくそんな事を書いたボードを仕上げて、いい汗かいたと言わんばかりにキラキラと額の汗をぬぐう。
「出来たよ~♪」
次いでルラもたこ焼きの絵を描くけど、この子たこ焼きの断面図も描いてその中に具の事まで事細やかく描いていた。
「よっし、これで『構成』とその『歴史』は好いわね。後はその『美味しさの秘けつ』を表現してもらえればいいわね、リルはいこれ!」
ヤリスはそう言って私にたこ焼きを手渡して来る。
何時の間に用意したんだ、たこ焼き!?
『はい、ここで時間となります! 各チームそこまでです。さあ、順に発表してもらいましょう!!』
ここでタイムオーバー。
各チームはたこ焼きについての発表を次々として行く。
「お、おのれ『たこ焼き』が題材とは…… せめてロックキャタピラーであれば語りつくせぬほどの愛情があったものを!」
「ロウィどうする!?」
「ええぇぃ、とにかく知っている事を発表するのだ!!」
対戦相手のドドスチームはかなり焦っている様だ。
しかしタイムオーバーの為、仕方なくその内容を発表する。
構成についてはどこもかしこもよく理解しているようで、同じような内容であったものの、うちの場合は図解と言う事でルラの絵が群を抜いて目を引いた。
歴史についてもどこもかしこもやはり同じようであったが、御三家について書き連ねた事が評価されていたようだ。
そして最後の美味しさの秘けつなのだが……
「美味さの秘けつはズバリこのクラーケン! 新鮮なクラーケンをいち早く処理してたこ焼きにしている事です!!」
ドドスチームはそう言って直立不動で片手をあげながら選手宣誓かのようにそう発表をする。
確かに、具の最大の特徴であるクラーケンは新鮮なうちに処理をして具材として使う事により絶妙な歯ごたえを保てる。
『はいありがとうございました。それでは【エルフは私の嫁チーム】の美味しさの秘けつについて発表です!』
司会が進み私たちのチームの番になった。
チーム名はもうどうしようも無いので今は突っ込みを入れず私はもう一度たこ焼きを見る。
それはオーソドックスなたこ焼きだった。
これの何処を美味しさの秘けつとすればいいのだろう?
具材?
香り?
見た目?
食感?
五感に訴える何が美味しさとして秘けつになるのだろうか??
私はおもむろに楊枝でたこ焼きを刺して持ち上げる。
そしてそれを口に運ぶ。
はむっ!
「はふはふっ、う~ん美味しい♡」
美味しさの秘けつを理解する為にもう一度それを味わってから話を始めようとしたその時だった。
『勝者【エルフは私の嫁チーム】ぅっ!!』
うおぉおおおおぉぉぉっッ!!!!
「へっ?」
まだ何も言っていないのに審査員の方を見るとみんなとほっこりとした笑顔で私の方を見ていた。
「リル、凄い! 最後のあそこであんな表現で『美味しさの秘けつ』を表現するなんて!!」
「ああっ! もうたまりませんわ、リルさんのその幸せそうにたこ焼きを食べる姿!! もう、私もリルさんをそのまま食べてしまいたいくらいですわぁ!!」
「お姉ちゃん、たこ焼きずるぃ~、あたしも食べる~」
途端にヤリスやアニシス様、ルラも私の周りに集まって来る。
どう言う事?
私まだ何もやっていないのに??
『いやぁ~素晴らしかったですねぇ~、審査員の方にお話聞いてみましょう』
『いやはや、どこもかしこもたこ焼きについての深い理解は十分でした。実際にその知識については僅差でしたがやはり最後のリル選手のあの食べっぷり、特に可愛らしい口でハフハフする所は正しくたこ焼きの醍醐味を感じました。言葉で尽くすよりそれを体現するその表現力も素晴らしい、私もたこ焼きが食べたくなってきましたよ』
『ありがとうございました。第一回戦はこれにて終了となります。明日第二回戦を行いますので皆様お楽しみに!!』
そう言って司会進行により本日の第一回戦は終了した。
私は呆然とたこ焼きを持ったまま歓声の舞う舞台でルラにタたこ焼きを食べさせるのだった。
……私何もしてないんですけどぉ。
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