12-1留学前に
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へとやっと帰って来たのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
なんかまた寂しくなっちゃうわね(シャル談)
「それじゃ行ってきますね」
「うん、あっちでも元気でね」
私とルラはお母さんとお父さんに連れられて家を出る。
朝もまだ早い時間だと言うのにお隣のシャルさんが見送りに来てくれた。
これから精霊都市ユグリアのファイナス長老に会いに行かなければならない。
なので引率者のお母さんとお父さんが一緒に来る事となっていた。
「シャルさんばいば~い!」
ルラは大きく手を振って見送りのシャルさんが小さくなるまで何度も振り返りながら手を振る。
シャルさんも律儀にずっと私たちが見えなくなるまでそこに立っていて手を振ってくれている。
ああいうのされるとちょっと寂しくなっちゃうんだよなぁ。
この二週間近く久しぶりに実家でゆっくりとした。
とは言え、今までいろいろな所で仕入れた食材を使って出来る限りお母さんたちに色々なものを食べさせたりもしていた。
まあ、親孝行のつもりでやったのだけど意外とお米がヒットしてお母さんもお父さんも気に入ったようだった。
一応水上都市スィーフの冒険者ギルドでお米を買って送ってもらう約束があるので、ちゃんとファイナス長老にも話を付けてお母さんやお父さんに届けてもらわなければならない。
「さあリル、ルラ門を通るから気を付けるのよ」
「うん分かった、お母さん」
「はい、ちゃんと付いて行くよ」
お母さんは私たちに注意を促してから村にかけられた結界の門をくぐる。
するとそこは一面金色の世界で全ての感覚がおかしくなる。
前を歩くお母さんは遠くにいる様ですぐ近くにいたりする。
そんな変な感覚を味わいながら結界の出口の門を出ると、左右に壁のような立派な木々が立ち並ぶ場所に出た。
ここをもう少し行くと高台があって、そこに魔法学園ボヘーミャに通じる転移のゲートがある。
私たちはその横を通り過ぎようとすると声をかけられた。
「おはよう、リル、ルラ。もう出発の時期なのか?」
「あ、ソルガさんおはようございます! そうなんですよ、なので先にファイナス長老の所へ行く事になっているんですよ」
ソルガさんはエルフの戦士長でもあるけど、ここゲートの番人でもある。
いつももう一人のエルフの人と二人位でこのゲートを守っていて、精霊都市ユグリアやエルフの村に来る来客に備えているとか。
一緒にいるエルフの男性にも手を振って挨拶してから精霊都市ユグリアに向かう。
あ、ちなみにエルフの村での水浴びはもの凄く気を使った。
以前は男女関係なく一緒に泉で水浴びしていたけど、流石に外の世界でそう言った風習が無い事を知ると恥ずかしくてとてもじゃないけど一緒に水浴びなんかできない。
お父さんが久しぶりに一緒に水浴びに行こうと誘われた時は丁重にお断りしたけど、私たちに嫌われたと勘違いしてしばらく落ち込んでいたらしい。
もっとも、事情をお母さんやシャルさんに話したら大笑いされたけど、そう言ったエルフの女性に配慮して朝の早い時間は男の人は泉に来ない様にしているらしい。
知らなかったよ、そんなの……
まあお父さんにはお母さんから説明があったようで「リルとルラが反抗期にでもなったんじゃないかと心配だったんだよ~」とか泣きつかれた。
まったく、子離れが出来ていないお父さんだこと。
「見えてきたわね、リル、ルラ大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ~」
「こっちも。でも朝なのにユグリアって人が結構出回っているんだね?」
街に入って大通りを「緑樹の塔」に向かって歩いていると通りには出店が出ていて結構な人がいる。
そんな様子を見ながら歩いてるとお母さんが話して来る。
「ここは冒険者が多いからね、朝早くからクエストに向かう人が多いのよ。だからむしろ午後の方が人が少ないくらいなのよ」
「ふぅ~ん、じゃあこの人たちみんな冒険者なの?」
説明にきょろきょろと周りを見ているルラだったけど、いきなり私の方へ来て近くを歩いているおじさんの手を掴む。
「おじさん、それお姉ちゃんのだよ!」
「ちっ! 離せガキが!!」
見ればそのおじさんの手にはシャルさんからもらった魔法のポーチが握られていた。
「えっ? あ、あれっ!? 私のポーチ!!」
「返してよお姉ちゃんのポーチ!!」
ルラがそう言っておじさんお手を強く引っ張ろうとするとそのおじさんは懐から短剣を抜いた。
「私のルラに何をしようとしているのよ!! ノームよ!!」
その瞬間お母さんがいきなり精霊魔法を発動させる。
そのおじさんの足元を土で出来た無数の手が掴み動けなくする。
「くそ、精霊使いか!!」
そのおじさんはそう言ってポーチを放り投げて足元の泥で出来た手をその短剣で切り裂く。
「お姉ちゃんのポーチが!!」
放り投げられたポーチにルラが気を取られた瞬間、握っているルラの手も振り払われそのおじさんは逃げ出す。
「娘たちに手をあげようとは不届き千万!!」
しかしそこにお父さんが立ち塞がり、行く手を阻む。
おおぉ、お父さんも昔お母さんを追って外の世界に行った事があるって言うから少しは出来るのかな!?
そう私が期待した瞬間だった。
げしっ!
「あうっ!」
しかしものの見事に私の期待を裏切ってお父さんはそのおじさんに蹴飛ばされて向こうの積み荷に弾き飛ばされる。
「デューラっ! もう、弱いのに無理しないの!! くっ、人ごみじゃ精霊魔法が使えない!!」
お母さんはそう言って精霊魔法を使うのを止める。
途中まで風の精霊の名を言っていたから危なさそうな風の精霊魔法は他の人に影響を与えるからだろう。
でも、これはお仕置が必要な事、私は意識を集中してチートスキルを発動させる。
「足元の地面を『消し去る』!」
逃げ出すその先の足元を他の人に影響が出ない程度に消し去るとそのおじさんは見事に足を取られる。
「うおっ!? な、何だ!?」
「あたしは『最強』!」
動きを鈍らせたそこへルラがチートスキル「最強」を発動させて誰よりも早く疾風の如く人々をすり抜けもたもたしているおじさんを殴り飛ばす!
ばきっ!
「ぐはっ!」
「よっし! 悪い泥棒さんは成敗だよ!!」
殴り飛ばされたおじさんは白目をむいて空高く飛ばされてから地面に情けない格好で落ちて来るのだった。
* * *
「ルラ、大丈夫なの? リルも何ともない?」
私のポーチを拾い上げているとお母さんが駆け寄って来てルラと私を交互に抱きしめてから頭のてっぺんからつま先まで念入りに見る。
そして何事も無かったのでほっとしている。
「まったく手癖の悪い奴が紛れ込んでいたもんだな」
「大丈夫かエルフの嬢ちゃんたち?」
周りにいたどうやら冒険者らしい人たちが殴り飛ばされて白目をむいているあのおじさんを縛り上げる。
そして誰かが呼んで来たのだろう、衛兵さんに引き渡していた。
「最近のユグリアにもああいった手癖の悪いのが増えたもんだな」
「まったくだ、おかげで俺ら冒険者まで白い目で見られるぜ」
冒険者らしい皆さんはそう言って私たちを気遣ってくれる。
うーん、冒険者って意外と優しいのね?
「ありがとう、助かったわ」
「いや、困ったときはお互い様なんだが、あれ、あのままで良いのかい?」
お母さんがお礼を言っていると冒険者の人は親指を向こうへ向けて言う。
私はそっちを見て思わず声をあげる。
「あーっ! そうだお父さんっ!! お父さん大丈夫なのっ!?」
「しまった、忘れてたわ、あなた、大丈夫!?」
「お父さん、弱かったんだね~」
私たちは慌てて今だに積まれた荷物の山に埋もれているお父さんの所へ駆け寄るのだった。
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