10-27ハーヴィッドサンダースフライドチキン誕生
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
フライドチキンバーガーも食べたいなぁ~(リル談)
「これがフライドチキンか……」
ハーランドさんはそう言ってつばを飲み込む。
そしてフライドチキンを一つ取り上げ、口に運ぶ。
かりっ!
「もごもご…… ごくん。 こ、これは!!」
ハーランドさんは思わず自分がかじったフライドチキンを見る。
かじったその断面には老鶏とは思えない程のジューシーな油がにじみ出ていた。
ハーランドさんは続けてもう一口、さらに一口とフライドチキンを食べ、あっという間に食べ終わってしまった。
「どうだ兄貴、旨いだろ?」
「ああぁ、ああっ!!」
デーヴィッドさんのその言葉にハーランドさんは思わずもう一つ手に取って口に運ぶ。
「何と言う美味さだ! 俺の作ったスパイスソテーなんて目じゃない! 香辛料が複雑に絡み、老鶏だと言うのに柔らかく、そしてその風味や味、旨味がしっかりと閉じ込められている! 衣が特に美味くていくらでも食べられそうだ!!」
「兄さん、それ程なの?」
目を見開きながら二個目をかじるハーランドさんにサンダースさんは聞く。
しかし、話す暇がないかのようにハーランドさんはこくこくと頷き返している。
「皆さんもどうぞ、まだまだいっぱいありますからね」
論より証拠。
私はまだまだたくさんあるフライドチキンを皆さんに進める。
「そ、それじゃぁいただくよ……」
「サンダース、驚くなよ? こいつは本当に旨いんだからな」
サンダースさんはフライドチキンを手に取りおずおずと口に運ぶ。
デーヴィッドさんもそんな事を言いながらフライドチキンに手を出す。
「わーい、いただきま~す!」
「はいはい、どうぞ」
ルラも早速手に取りフライドチキンを食べ始める。
私も手に取りそれをかじる。
かりっ!
「うん、老鶏だけどちゃんと柔らかくなってる。圧力鍋のお陰ね」
「うん、美味しい~」
船上で食べたのはコカトリスだったけど、味付けは同じような感じだった。
でもやっぱりちゃんとした鶏、老鶏ではあったけど味がギュッと詰まっていておいしい。
多分若鶏を使えばもっと癖が押さえられ美味しいだろう。
「なんだこれっ! なんてスパイスの旨味なんだ!!」
「だろ? 特にこの衣がうまいんだよな」
サンダースさんはフライドチキンを食べて大いに驚いている。
その横でデーヴィッドさんがドヤ顔しているのがなんかおかしい。
作ったのは私なのに。
「リルさんだったな、これはエルフの料理なのか?」
「いえいえ、エルフ族は素朴な料理が多いのですけど、これは遠い国の料理です。秘伝のスパイスの使い方と圧力鍋を使う事によってこの味が出来るのですよ」
ハーランドさんは二個目を半分ほどかじってもう一度その断面を覗いている。
「もし、若鶏が使えたらどうなる?」
「うーん、老鶏は臭みが強くなりますけどそれは無く、ぷりぷりのお肉はもっと柔らかいでしょうね。それと旨味がもっと強いでしょう」
若鶏の肉は確かに美味しい。
老鶏は臭みがあるけど、使い方ではそれも美味しくなるだろう。
でもやっぱりカラアゲやフライドチキンは若鶏を使った方がおいしい。
「これよりもっと旨いのか…… 本当にうちの店で出しても良いんだな?」
「はい、作り方はさっき教えた通りですよ。後はその分量調整とか好みで香辛料を増やすってのもあると思いますけど、オリジナルの味はこれですので」
私はにっこりと笑ってそう言う。
するとハーランドさんはすぐにデーヴィッドさんとサンダースさんを見て言う。
「すぐに若鶏を買い占めるぞ! それとデーヴィッドは圧力鍋をもっと仕入れてくれ、やるぞ!!」
ハーランドさんはそう言ってぐっとこぶしを握る。
どうやらこれで行けそうだ。
私はもしゃもしゃと残りのフライドチキンを食べながらフライドチキンのバーガーも食べたいなぁとか思うのだった。
◇ ◇ ◇
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 門外不出の秘伝のスパイスを使った鶏肉料理、フライドチキンだよ! この味はうちの『ハーヴィッドサンダーフライドスチキン』だけの味だよ!!」
ハーランドさんはお店の前でそう言ってお客の呼び込みをする。
後ろには既に準備が出来たフライドチキンが山盛りとある。
「なんですか『ハーヴィッドサンダースフライドチキン』って?」
宣伝で聞いたチキンの名称に首をかしげながら私はデーヴィッドさんに聞いてみる。
するとデーヴィッドさんはにっこりと笑って言う。
「いや、兄貴が俺たち三人兄弟の名前を短縮して使いたいって言いだしたんだ。まあ、店の名前までそれに変えちまうほど期待しているってことだな」
そうデーヴィッドさんに言われて私はお店の看板を見る。
そこにはいつの間にか「ハーヴェッドサンダースフライドチキン」とか言う店名に変わっていた。
真っ白だったお店も所々赤い色が追加され、まるで紅白のようだ。
「まあ、他のお店には簡単には真似できない味でしょうから、いいんですけどね……」
実際に自分で作るのは少々面倒になっていた。
だって十一種類ものスパイスをパウダーになるまですり鉢でするなんて面倒で。
その辺についてはハーランドさんたちにも石臼あたりを使う事を進めておいた。
大量に作るのにアレやっていたら日が暮れちゃうもんね。
そして販売が始まってしばらくしていると徐々にお客が増えて行ったようだ。
それはいつの間にか人だかりになってしまってしばらくするとあれほどあったはずのフライドチキンの山は完売となってしまった。
「なんだよ、もうないのかよ?」
「すみませんねぇ、何せ秘伝のスパイスなもんで今はまだ作れる量に限りがありましてね。明日また売り出しますんで、またよろしくお願いしますよ」
どうやらリピーターのお客も出来た様だ。
そしてお客がいなくなてからハーランドさんはこちらにやってきて言う。
「リルさん! ありがとうございます!! これならいける。またうちの店はやっていけます!!」
「はははは、良かったですね。私も約束の圧力鍋分けてもらえましたからね」
追加で仕入れた圧力鍋のうち一個をもらった。
一応代金は払うと言ったけど、お礼だと言ってよこしてきた。
まあ、手助けしたお礼としてありがたくもらっておくことにするけど、まさかアーロウ商会からまとめて三十個も買い入れるとは思わなかった。
本来は即金らしいけど、デーヴィッドさんのお陰で分割払いになったらしい。
冒険者ギルド付きの船の船長やっていたかららしいけど、デーヴィッドさんは船長をやめるつもりらしい。
そしてまた三人でこの店を切り盛りするとか。
「当分このお店の味は他には簡単に真似は出来ないでしょうから頑張ってくださいね。あ、そうそう、後教えておいたこのフライドチキンをパンにはさんでマヨネーズソースをつけるやつ、新鮮な生卵の表面には雑菌がたくさんいるからちゃんと洗ってお酒で拭いてから割ってくださいね? 忘れると食中毒起こすかもしれませんから。それと、マヨネーズソースは長持ちしませんから原則使い切りですよ?」
自分が食べたかったのでマヨネーズの作り方も教えておいた。
フライドチキンバーガーってやっぱりマヨネーズは必須よね?
ルラなんか大喜びで二個も食べてたし。
「分かってるよ、ありがとうな」
「いえいえ、それじゃぁ商売繁盛を祈ってますよ」
私とルラはそう言ってデーヴィッドさんたちと分かれる。
後日、風の噂でこの「ハーヴィッドサンダースフライドチキン」が大成功をおさめ、ハーランドさんが年を取る頃には黒縁の眼鏡をかけ、白い髭を携え白い背広でお店の看板になっているという噂を聞くのは今は知らない事なのだけどね。
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