10-20海獣の巣
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
なんかみんな怖いよぉ~(ルラ談)
「一角獣許すまじ!」
「「「一角獣許すまじ!!」」」
ドーン、ドーン!
えっさほいさ、えっさほいさ!!
翌朝、目的の海獣がいるとされる島の近くまで朝からデヴィッド船長含む水夫の皆さんが元気にそんな掛け声を発しながらオールを漕いでいる。
今日は風が少なく、帆を張ってもあまり推力にはならない。
ゆっくりと進む事は出来るけど、何故か朝から皆さん血の涙を流しながらオールを漕いでいる。
「お姉ちゃん、なんかみんな怖いよ……」
「う、うん。何をあそこまで真剣になっているのかな? デーヴィッド船長まで太鼓まで鳴らして皆さんにはっぱかけているけど……」
打ち鳴らす太鼓の音に合わせて一糸乱れぬ動きでオールが漕がれる。
おかげで船はまるで海上を滑るかのような加速をしている。
「おのれ一角獣め、あの野郎をこの海域から追い払ってやる!!」
「「「おおっ!」」」
太鼓を鬼のような形相で叩きながらそう言うデービッドさんに修羅のようになった水夫の皆さんが賛同して更に熱気のこもったオール漕ぎをしている。
「ううぅ、なんか話しかけられる状態じゃないわね。仕方ない、ご飯の準備でもしておこうかしら……」
あまりの迫力にたじたじとなりながら私とルラはご飯を作る為に厨房を借りる事にするのだった。
* * * * *
「見えて来た! オノゴロン島だ!! 情報ではあのあたりに一角獣が巣をつくっているらしいぞ!!」
「よし、すぐにでも奴を血祭りに!!」
「畜生、あんなのに俺は負けたのか!!」
「その出っ張った腹を切り裂いてやる!!」
ちょうどご飯が出来て皆さんに声をかけようとしたらどうやら目的の島に着いたようだ。
船の先に見えてきた島は野球場くらいの小さな島。
草木も申し訳程度しか生えてなく、ほとんどが岩場だった。
そしてその岩場に何匹もオットセイみたいなのがいる。
「あれが一角獣なんですか?」
「いや、あれは普通のオットセイだ。情報では奴はこの船より大きいらしいぞ!」
「え”っ?」
ちょっと待て。
一角獣が大きいとは聞いていたけどこの船だって中型船らしくて結構大きい。
少なくとも何十人も水夫の皆さんが乗り込むような船なのでいくら細長いとは言え幅だってそこそこある。
下手をすればシロナガスクジラより大きいかもしれない。
それよりも大きいと言う事は、体長二十メートル以上あるってことぉっ!?
「奴の皮膚は厚い毛皮で覆われているらしく、通常の刃物が一切通じないらしい。更に繁殖期には獰猛になって船を同じオスと間違え追い払おうとするらしい。本来一角獣はそこまでデカくならないはずだが今回のこいつは異常だ」
言いながらデーヴィッドさんは皆さんに命じて大砲の準備をさせる。
「しかし、今回準備したこの大砲は奴に確実にダメージを与えられる! 倒せなくてもこのオノゴロン島から追い出せば奴は作った巣を放棄して他へと逃げ行くはず! 野郎ども、気合入れろやぁっ!」
「「「おおぉーっ!!」」」
皆さん鬼気迫る雰囲気なのは何故だろう?
「あのぉ~、お忙しいとは思うんですが、ご飯出来たので先に食事にしませんか?」
「何っ!? 飯だと!!!?」
赤く目を光らせ、口から湯気を吐いていてこちらに振り向くデーヴィッドさん。
いや、マジで怖いってば!
「あ~、すまん、すまん。頭に血が上っていて飯の事すら忘れていたよ。いやぁ、助かる、気が付けばなんか腹も減っていたな」
ぐぅうううぅぅぅぅぅ~
正気に戻ったか、デービッドさんはお腹を鳴らせて何時ものデーヴィッドさんに戻る。
私は安堵のため息を吐いてから皆さんにも声をかける。
「ご飯ですよぉ~! 皆さん、とりあえずご飯食べてくださぁ~い!!」
まるで何かの呪縛から解き放たれたかのようにオールを漕いでいた皆さんもいつも通りに戻ってお腹を鳴らし始めるのだった。
* * * * *
「それで、その一角獣って何処にいるんですか?」
野菜たっぷりのシチューに乾燥パンを浸して食べながら私が聞くとデーヴィッドさんは懐からスクロールを取り出す。
「以前襲われたり討伐に向かってかろうじて生き残った者の情報だと島の北側、入り江になっている所に奴は巣をつくっているらしい。奴を攻撃して追い払うかその巣を破壊して我々が占領すれば奴は敗北を認めこの場から去るらしい。それが一角獣の習性だと書いてあるな」
なるほど、縄張り意識か何かが強いのだろう、とにかくここから追い出せればこちらの勝ちか。
だとすると、一番確実なのは巣を壊して占領してしまえば良いのかな?
「だとすると、その一角獣の巣を破壊するか占領するのが一番ってことですか?」
「そうだな、しかしその前に奴と遭遇したら戦うしかない。一角獣の角で船に穴が開いてしまったらこちらの負けだがな」
デービッドさんはそう言ってシチューを食べ終わる。
確かにただでさえ体の大きなその海獣に角で船になんか穴を開けられたら終わりだ。
流石にルラのチートスキル「最強」でも水の中の相手には通じないかもしれない。
「さて、腹も膨れた。奴がいるかどうかわからんが先ずはその北側の入り江に向かうぞ! 野郎ども、気合入れろっ!!」
「「「おおおぉっ!」」」
私はやる気満々の皆さんを見ながらシチューのお皿を回収し始めるのだった。
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