9-31お別れ
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
うーん、醤油と海苔もいいよねぇ~(ルラ談)
『美味いだがに!!』
ジビのお団子をフライパンにオリーブ油引いて平たく焼き上げたものに甘い蜜をかけて食べていた。
蜂蜜も良いなぁ。
メープルシロップをかけながらわたしはそれを口に運ぶ。
「これって焼くとこんなに美味しくなるんですね!」
「お餅系は固くなったらこれですよ、このパリパリに甘いのが良いんですよね~」
私は表面が香ばしくパリパリになって、中はもちもちの柔らかなジビ団子にメープルシロップをかけながら食べる。
オリーブ油で香ばしさが増しているのがホットケーキとかと違っていい感じ。
本当はお砂糖にお醤油を垂らしたのも好きなんだけど、魚醤を使うとちょっと匂いがね。
なのでここはシンプルに甘さを追加したもので。
「はふはふ、おいひぃ~」
「ほらルラ、お茶も入れたからこれも飲んで。急いで食べると喉詰まらせるわよ?」
がっついているルラにそう言ってお茶を渡す。
『むぅ~っ!!』
『まんずだがに! 長老が餅のどに詰まらせたがに!!』
『早く背中叩くだに!!』
『まんず、年寄りは無茶するするからだに!!』
言ってるそばからコルネル長老が喉詰まらせた。
お年寄りにあるあるをするので、私はコルネル長老の喉に詰まっているジビ団子をチートスキル「消し去る」で消す。
『ぶっはぁーっ! 助かっただに。危うく死ぬところだっただに!』
『長老も歳なんだから細かくしてゆっくり食うだに!』
『まんず、そうだがや』
『危なかっただに』
オーガの皆さんにもそう言われながらお茶をすするコルネル長老。
まあ、お餅とこんにゃくを食べる時は要注意よね?
「しかし、リルさんのその力、スキル持ちとはですね……」
イリカさんはそう言って改めて私を見る。
「あはははは、えーと、その、内緒ですよ?」
「ええ、スキル持ちは通常異世界人なんかが召喚された時にギフトで持つと言われています。この世界でもまれにスキル持ちで生まれて来る者もいますが、ほとんどが英雄になる要素があるとか…… リルさんってもしかして」
イリカさんはそう言って私をじっと見る。
今までは何だかんだでドタバタしてスキルについてはあまり気にされていなかった。
どちらかと言うとエルフの生態について聞かれたり、匂いをくんかくんかされたりと恥ずかしい思いをして来た。
しかしそこはやはり魔術師、気になった事は聞かずにはいられないのだろう。
「リルさんたちのその力、一体どう言う事ですか?」
「うーん、黒龍のコクさんには何やら女神様と同じ力の元から来ているとか言われましたが、まあ生まれつきのものなので……」
あの駄女神やエルハイミさんを思い出しながらそう言ってみる。
するとイリカさんは眉にしわを寄せて聞いてくる。
「黒龍? まさか女神の僕と言われる『女神殺しの太古の竜』ですか?」
「ああぁ、そう言えばそんな呼び名もありましたっけ? そうですね、そのコクさんです」
大人バージョンのエルハイミさんを真っ黒な髪の毛と瞳にして角と尻尾を付けたあの姿を思い出す。
見た目は二十歳そこそこだけど、カリナさんからはもう何万年も生きていると聞かされている。
まあ神話の女神戦争の時代から生きてるんだからうちのメル長老と同じか……
そう言えばメル長老は相変わらず中学生くらいにしか見えないけど。
「まさかリルさんと、ルラさんって仲間から連絡のあった双子のエルフ?」
「仲間??」
首を傾げイリカさんにそう聞くと、イリカさんは胸元からペンダントを出しながら頷く。
「はい、私実はこう言った集団の一員だったんですよ」
私はそのペンダントの紋章を見てしばし……
えっと、何だっけ?
どこかで見たような気がするけど……
「あ、お姉ちゃんこれってあれだよ、悪の秘密結社の。バーグって人が教えてくれたやつ!」
「あ? あ”あ”あ”あ”あああぁぁぁっ!!!!」
ルラがそう言ってやっと思い出す。
これって秘密結社ジュメルの紋章じゃないの!!
「イ、イリカさんってジュメルだったんですか!?」
「はい、えーとジュメル七大使徒の一人です。いやぁ、ジュメルの事知ってるって間違いなく双子のエルフじゃないですか」
あははははとか笑いながら、そう言うイリカさんに私もルラも緊張をする。
そしてイリカさんを見据えて聞く。
「何が目的なの?」
「目的と言われましても…… 私、今はエルフの生態を研究して人間である私も長生きできる方法を探ってるんですよ。何せ教団も安定してきたし、好きな事やるだけの時間も出来ましたしね。魔王様の残したこの巨人の集団も使い方によっては世界を破滅させる道具になりそうですし。ああ、でもすぐに使いませんよ? 先に私が長生きする方法を探さなきゃですから」
そう言って、はむっ! とジビ団子焼きを食べる。
「私たちが目的ではないって事ですか……」
「ん~、おいしい。うーん、エルフの生態についてあれこれ教えてくれたので助かりました。まだ初潮が来ていないリルさんとルラさんじゃ『命の指輪』は産めませんものね。それはまた別の方法を考えますよ。それに今の私はただの魔術師として教団の活動は休止中ですからね~」
そう言ってお茶をすする。
なんか、今までのジュメルの七大使徒とは感じが違う。
それでも注意深く聞いてみる。
「ジュメルって悪い事ばかししてるのになんでイリカさんなんて人がそんな秘密結社に属してるんですか?」
「ん~、話せば長くなりますが、うちの実家って貧乏貴族だったじゃないですか。もともと先祖代々ジュメルの信者やってたんですが私が魔法の才能があるって事で教団から全面的にバックアップ貰って立派な魔術師になったんですよ。でも、世界を破滅とか教団をもっと立派にするとかってあまり乗り気にならなくて。で、最低限の事やってたらいつの間にか七大使徒に選抜されて、やる事やったら時間が出来たので今はお休み貰って好きな事研究してるんですよ~。はぁ~、このお茶合いますね、ジビ団子焼きに」
のほほ~んとそう言い放つ。
しかしその様子は地そのものに見える。
「私たちをどうこうするとかって無いんですね?」
「ああ、エルフの生態については聞かせてもらったし、リルさんの匂いは嗅がせてもらったので満足ですよ」
いや、私の匂いはいいからっ!
なに人の体臭嗅いで嬉々として記録してんのよ!!
恥ずかしいったらありゃしない!!
「まあ、でも他の七大使徒たちはリルさんたちのそのスキルについて興味を持っているそうですね。正直私も少し興味ありますけど、スキルってその人の固有なので他の人がどうこう出来るもんじゃないし」
そう言ってにたりとした笑いをしてこちらを見る。
「今の所は私としてはリルさんたちをどうこうしようとは思いませんよ~」
「……そうですか。じゃあ今から私たちは港町を目指します。さようなら!」
私はそう言ってイリカさんに背を向ける。
「お、お姉ちゃん、待ってよ!!」
そんな私にルラも慌てて駆けよって来る。
「いいの? 悪の組織の幹部やっつけなくて?」
「関わらなくていいのならそれでいいわよ。とにかくジュメルと関わり合いは持ちたくない」
そう言ってずかずか歩き出す。
『あんれ、リルの嬢ちゃんたち、もう行っちまうだがに?』
「えっと、道に迷って助けてもらったのは感謝します。家に泊めてもらったのも」
イリカさんから離れて行こうとするとオーガのコルネル長老が声をかけて来た。
私は一旦足を止めてそちらを見て頭を下げてお礼を言う。
「でも、イリカさ…… ジュメルとは一緒に居られません。ここでお別れです。お元気で、長老。お姉さ……いえ、お婆さんにもよろしく伝えてください」
『ん、んだば気ぃ付けてな』
そう言ってあの子供に見せてはいけない笑顔で笑ってくれる。
オーガは本来狂暴な魔物として恐れられている。
でも、こうして話が分かるオーガもいる。
けど……
「私たちには目的がある。村に帰るって」
だからここを離れる。
そう自分に言い聞かせて私たちはこの場を後にするのだった。
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