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腹ぺこエルフの美食道~リルとルラの大冒険~  作者: さいとう みさき
第九章:道に迷う
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9-24誰が一番?

エルフのマズ飯は鉄板!

ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。

そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……

エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。


ドーナッツ怖い?(ルラ談)


「という訳で、我が家秘伝のドーナッツは生地を寝かせる事による程よい発酵なのじゃよ!」



 ジップロク村長はそう言ってやっと一区切りと言わんばかりに既に冷めてしまったお茶を口に運ぶ。


「な、なるほど……」


「ううぅ……」


 何とかイリカさんはその話を聞き終わりそう言うけど私やルラはうめき声しか出ない。

 だって延々とドーナッツについて話が始まり村長が一人でべらべら話すのを無視するわけにもいかず聞いていたのだけど、多分しっかり二時間はその話を聞かされたと思う。



「お姉ちゃんドーナッツ怖い……」


「う、うん、ドーナッツ愛が痛いわね……」



 ジップロク村長には聞かれないようにルラと小声でそう言い合う私たち。

 しかしこれでやっとこの話とも解放される。



「き、貴重なお話ありがとうございました。ジップロク村長。それでは私たちは次の封印のひょうたんを探しに行きますね」


「なんじゃ、もう行くのか? 我が家の秘伝のドーナッツについてもっと説明してやろうとしたのにな」


「そ、それはまたの機会に!」


 イリカさんも流石に苦笑をしながらやんわりとお断りをして席を立ち上がろうとした時だった。



「イリカはここだって聞いたんだがいるかい?」


 そう言って扉がノックされてローゼフとか言ったあの煙を立てていた家の人がやってきた。


「何じゃローゼフではないか? どうしたんじゃ??」


「いやな、イリカに頼んでおいた膨らまし薬がやはり早く必要になってな。どうにかならんか相談に来たんだ、あれがあれば究極のドーナッツが出来るんでな」


 ローゼフさんはそう言いながらイリカさんに向き直る。

 すると村長さんが渋った顔をする。



「ローゼフ、お前さんのドーナッツは奇抜過ぎると思うんじゃがな? やはり先祖代々受け継がれている味と秘伝の作り方を極める方が良いともうのじゃが?」


「何を言う村長! ドーナッツは日々進化するモノ、確かに基本は大切だろうがそれに胡坐をかくことにより全くの進歩がないじゃないか? ドーナツには無限の可能性がある。だから俺は更なる新しいドーナッツの形を模索しているんだよ」


「しかしそれは今までの歴史を否定することじゃろう? 奇抜過ぎるドーナッツはドーナッツではなくなってしまうぞ?」


「いやそんな事は無い!」



 あー。

 ことドーナッツに関してはどうもどちらも思い入れがある為に引けないこだわりがあるようだ。

 ジップロク村長もローゼフさんもドーナッツについてあれやこれと議論を始めてしまった。

 勿論双方の言い分にも一理はある。

 

 一理はあるのだけど……



「どうせ奇抜な事ばかりしてまたドーナッツ焦がしたんじゃろ? まったく食いモンを粗末にしおってからに!!」


「何言う、そう言う村長だって発酵が重要だとか言って忘れてて酸っぱいドーナッツう作っているじゃないか! あんなの食ったら腹壊すわ!!」



 なんかだんだん曇行きが怪しくなってきた。

 ここまでドーナッツ愛が重いとは思いもしなかったけど、とうとうお互いの揚げ足取りが始まってしまった。



「うーん、じゃあどっちのドーナッツが美味しいのかな?」


「ルラっ!」



 思わず私はルラの口を両手で押さえてしまった。

 そして恐る恐る言い合っている村長とローゼフさんを見ると……



「「おれに決まっておる(いる)!!!!」」



 案の定二人ともこちらに向かってこぶしを握り締め宣言する。


「そ、村長もローゼフも落ち着いて……」


 イリカさんが取り繕うようにそう言うけどもう二人は止まらない。



「村長、あんたは村長と言う大役をこなしている立派な御仁だとは理解している。しかし、ドーナッツ職人の俺からすれば村長のドーナッツは所詮素人の味!」


「ぬかせ! 我が村の伝統的かつ我が家に代々伝わる秘伝の作り方は素朴な中に全てを極めた味があるのじゃ! 変化球ばかりの貴様のドーナッツなど所詮は一刻のモノじゃ!!」



 睨み合いそう言いあう二人。

 もう止めて欲しい。

 ここは放っておいてそっと逃げ出した方が良いんじゃないだろうか?


 そんな事を思っていたらジップロク村長はテーブルの上のドーナッツを掲げて目の前で半分に割る。

 そしてそれをローゼフさんに投げつけ言い放つ。



 ぽん、ぼと。



「ならば勝負じゃ! 今ここに村長権限にて第二千六百七十八回ドーナッツ大会を開く!!」



「なっ! そ、村長正気か!? ドーナッツ大会を開くだと!?」


「ああ、本気じゃ。村の門を閉じよ! そして全員を広場に集めるのじゃ!!」



 驚くローゼフさん。

 いきり立ち残った半分のドーナッツをかじる村長。


 一体何が始まるって言うのよ?

 と言うか、村の門閉められたら私たちは!?


「な、何てこと…… ガリーの村のドーナッツ大会に巻き込まれてしまったわ! この大会が終わるまでもう村の外には出られない!!」


「ええええぇっ!?」


 イリカさんのその説明に思わず声を上げてしまう私だった。  


 

 * * * * *



 ガリーの村のドーナッツ大会。

 

 なんでもこの村ではドーナッツが人々の輪をつなげると言う言い伝えがあり、ドーナッツを割ると言う事はその輪が断たれた意味を成す。

 そしてもう一度輪をつなげるにはみんなが納得いくドーナッツを決めてそれをみんなで食べると言う事らしい。



「なんだ、ドーナッツの品評会みたいなものなんですね?」


「リルさん、この村に一体全体何世帯の家があると思うのですか? 人口二千人のこの村には全部で四百近い家があるのですよ…… つまり、ドーナッツ四百個食べてどれが一番美味しいか決めない限り延々とドーナッツを食べさせられるんですよ!? しかも三食全部ドーナッツ!!」



 うーん、三食ドーナッツは流石に厳しいかな?



「わーい、ドーナッツ食べ放題だね~」


「ルラさん、そんな生易しい物ではありません。今この村にいる全員が納得するまでドーナッツを食べ続け、そしてそれが終わるまで村から出られないのですよ! しかも部外者である私たちまで含まれるんですよ!?」



 え?

 私たちも??


 イリカさんのその言葉でそのめんどくささがひしひしと伝わってきた。



 

 私は岩山で待っているオーガのコルネル長老たちが餓死しないか心配になるのだった。



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