8-4好みは人それぞれ
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
甘いもの食べ過ぎると気持ち悪くならないの?(ルラ談)
「リルとかいったの嬢ちゃんよ、甘い菓子とはどんなもんなんじゃ?」
ここウスターさんの工房でクレープを焼くための道具が作れないかどうか聞きに来ていたけど、当のウスターさんが甘いお菓子を作ると言ったらやたらと食いついて来た。
「え、ええと、パンケーキみたいな生地を薄く引き伸ばして焼き目が付く前の状態で焼き上げそれに生クリームやジャム、果物なんかを入れて包んで食べる料理なんですが……」
「ほうっ! なかなか美味そうではないかの!? して、この道具があればそれが喰えるのじゃな??」
「はい、多分うまくいけばもちもちしっとり食感の歯触りの生地に成るはずなんで……」
私は聞かれたので一応そう答えるとウスターさんは立ち上がりぐっとこぶしを握る。
「儂が直接これを作ろう! で、リルの嬢ちゃんよもっと詳しくその話を聞かせてくれんかの!!」
「ははははは、分かりましたから近すぎです」
ぐいっと私の目の前まで髭面を近づけそう言うウスターさんに思わず引いてしまう私。
しかしこんなにも快く引き受けてくれるとは。
「もしかしてウスターさん甘いもの好き?」
横でずっとその様子を見ていたルラは首をかしげながらウスターさんに聞く。
するとウスターさんは大きく頷きルラを見て言う。
「おおとも、ここドドスはスパイスの効いたエールによく合う食い物は多いが、甘い食い物が少ない。儂も昔はそう言った食べ物が好きじゃったが年を取るにつれ甘い食べ物のうまさにも気づいての。今では甘いものに目が無いのじゃ! リルの嬢ちゃんよ、出来たら儂にもそれを食わせてくれんかの!?」
「近い近い! 食べさせてあげますから、近すぎですから!!」
またもや髭面が目の前に迫る。
これって意外と怖いのよね!?
こうしてウスターさんは自分もスイーツを食べる為に私たちとあれやこれと打ち合わせを始める事となるのだった。
* * * * *
「まずは竹とんぼとか言う道具じゃが、こんなもんで良いのかの?」
早速取り掛かると言う事でウスターさんは近くにあった木の材料であの竹とんぼみたいなのを簡単に作り上げてしまった。
私はそれを受け取り、先ほどの応接間のテーブルの上に置く。
そして指を棒に引っ掛けヘラの端を中心にくるりと一回転させてみる。
「うん、いい感じですね。平たい焼き台の上に生地の液体を乗せてすぐにこれでこうやって引き伸ばすんです。くるっと。これが出来たらへらで剥がして裏側をさっと焼けば出来上がりなんですよ」
実際にその動作をテーブルの上で真似してみるとメリーサさんが驚く。
「え? そんなに早く焼き上がるモノなの??」
「ええ、だから一番の肝は焼き台の温度管理なんです。全体的に均一に熱が伝わっていてそして温度ムラが無く、すぐに焼き上がる状態が」
試しにもう一度今度は白紙の紙も使ってその動作をマネする。
お玉で生地を救って焼き台に載せ、すぐにあの竹とんぼでくるりとやってへらで剥ぎ取り、裏面をさっと焼いて出来上がり。
この間本当にわずかな時間でその動作をして見るとウスターさんも唸る。
「そうすると焼き上がる生地は本当に薄く成るのじゃの?」
「はい、だからこう言った紙みたいにペラペラなんですがこうしてこうしてと……」
私はその紙に中に適当に物を積めてくるくると巻いて見せる。
そしてクレープみたいな格好になったそれを見たウスターさんもメリーサさんも驚く。
「何と、手に持ってそのまま食べられるのか?」
「へぇ、お皿とかいらないんだ?」
「実際には手が汚れるかもしれないのでこれを紙で包んで提供ですね。後は中身は好みによって色々変えられますので、基本となるこの生地さえできればほとんど完成ですね」
食べる真似をして見せるとウスターさんはますます興味を示す。
「ふむ、これは楽しみじゃな。パンケーキを限界まで薄く焼き上げたそれに生クリームやジャム、果物をいれるとは豪勢じゃの。良し、焼き台を作るのに魔鉱石を使おうぞ!!」
「魔鉱石??」
そう言えば「鋼鉄の翼」とか言うモノもそれを使っているとか言っていたっけ?
焼き台を作るとなればもちろん鉄なんだろうけど一体どんなものになるのだろう?
「魔鉱石って、確か貴重な鉱石だったんじゃないんですか?」
メリーサさんもここドドスの人間だから少しは知っているようでウスターさんに聞く。
するとウスターさんは髭に手を当てながら話し始める。
「うむ、ガレント王国の『鋼鉄の鎧騎士』などはその素材に魔鉱石を使っておると聞いておるの。魔力伝達が良く、軽くて強靭な鉄じゃ。このクレープの焼き台じゃがな、均一に熱を伝えそして安定させるには直接火にかけるのではなく魔石を利用した魔法の焼き台にしようと思うのじゃ。作る人間が魔力供給をせねばならんがあれくらいの短い焼き時間じゃ、魔力消費もそれほど必要なかろう」
魔石を使った焼き台って何それ!?
ウスターさん魔法の道具まで作れるの!?
「あの、そんなに凄いものを作るとやっぱりお高いんじゃ……」
いくら凄いものを作ると言ったってこちらも投資が無限に出来る訳では無い。
普通のフライパンより少し高いかなぁ~くらいできてしまったので、マジックアイテムともなれば予算的にもきつい。
私がそんな心配をしているとウスターさんは笑いながら言う。
「がははははは、素材は女神様がやたらと沢山寄こして来るからそれをほんの少し分けてもらうわ、魔石だって『鋼鉄の翼』を作る為に予備でたくさんもらっておるからの。余ったら好きに使って良いと言われておる、このクレープの焼き台くらい作ってもまだまだ余るから心配しなさんな。そうじゃな、このクレープの焼き台などの代金んはいらんわい。その代わり儂が行ったらそのクレープをたらふく食わせてくれんかの」
「ええっ! いいんですか!? クレープくらいいくらでも食べさせますよ! ね、リルちゃん!!」
「はははは、それは確かに助かりますけど、クレープお腹いっぱい食べたんじゃ気持ち悪くなりますよ? 今色々甘味の開発してますから他のも一緒にどうですか?」
速攻で反応したメリーサさん。
まあ作って食べさせるのはやぶさかじゃないのでいいけど、クレープ祭りを生前した時はあの生クリームで最後気持ち悪く成った記憶がある。
確か女子高生になったお祝いで友人たちとクレープ食べまくろうと食べ放題のスイーツが充実しているお店に行ったけど、あれはやり過ぎた。
初めてクレープ食べ過ぎて気持ち悪く成り、つくづく程々と言うのが重要だと言う事に気付かされた。
ふふふふっ、そう言った経験をして人は大人になるよ……
遠い目をして明後日の方向を見ているとルラが私をつつく。
「お姉ちゃん甘いもの沢山食べたって気持ち悪く成るんじゃないの?」
「ルラ、女の子はね甘い物なら第二、第三の胃袋が発生するのよ! 後は体重との勝負だけど!!」
ぐっとこぶしを握る私にルラはきょとんとして首をかしげる。
そして私の胸を見ながら言う。
「その栄養、お姉ちゃんの胸に行けばいいんだけどね~」
「ルラぁっ!!」
思わず叫ぶ私の声がこだまするのだった。
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