2-6人間の街へ
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
久々のベッドだぁ~っ(リル談)
私とルラは同じエルフ族のトランさんに保護され仲間の冒険者と一緒に近くの街へと向かっていた。
「大丈夫かい、リルにルラ?」
「はい、大丈夫です」
「あたしも~」
途中何度か魔物に襲われたけど皆さんがすぐに対処して事無きを得ている。
そして驚いたのが実際に戦闘用魔法や戦っているのを目の当たりにしてルラのチートスキル「最強」が本当に異常だと言う事に気付かされる。
「ちょっとルラ!」
「ん? なにお姉ちゃん??」
またまた魔物に襲われているけど皆さんがすぐに対応してくれる。
不謹慎だけどその間に私はルラを呼んで小声で話す。
「やっぱりあなたのチートスキル『最強』は他の人達には内緒ね。あのスキルはやはり異常だわ」
「え~、せっかくエルフの村の人が見ていないから好き勝手にスキル使えると思ったのにぃ~」
「だめだめ、このままじゃトランさんも私たちを保護する必要がないとか言って放り出されてらどうするのよ? まだコモン語だって覚え始めたばかりでエルフ語喋れる人と離れたら私たちだけじゃどうにもならないよ?」
「うぇ~それはやだ。仕方ないなぁ、内緒にする」
ルラはそう言って戦闘の様子をまた食い入るように見てるけど、この子ったらこう言うの大好きなんだから。
私のスキルは戦闘向けじゃないからとてもじゃないけど怖くて見てなんかいられない。
それにトランさんたちも毎回結構苦戦しているから本来この辺にいる魔物って強いんじゃないだろうか?
それなのにルラはあの地竜ってのもあっさりとやっつけるんだから、あの女神にもらったスキルは本当にすごい。
「こんな事なら私もっと便利そうなスキルにしておけばよかった」
そんな事をぼやいたらトランさんが慌てて私たちの前に来て細身の剣で魔物が飛ばしてきた針のようなモノを叩き落す。
「しまった!」
しかし何本かは私の方に向かってくるけど、そのうちの一本がこのままでは顔に命中してしまう。
瞬間私は「消し去る」事を念じるとその針は私にぶつかる直前に消える。
どっ!
どどっ!!
他の針が後ろの木の幹に当たって音を立てる。
トランさんたちはその魔物を切り裂いて、慌てて私の方に来る。
「リル! 大丈夫か!?」
「あ、えっと、大丈夫です」
私がそう言うとトランさんは大きく息を吐く。
「危なかった、全部叩き落せなくて君たちに魔物の針が飛んで行った時は冷や汗をかいたよ。運良く全部外れてくれて助かった」
本当は命中するのが有ったんだけど私のチートスキル「消し去る」で消したから大丈夫なんだけどね?
でも本当にこのスキルも使いようみたい。
もしかしてこう言った魔物の攻撃を全部消し去れるのかもしれない。
やっぱりみんなには内緒にしなきゃだけど、スキルの使い方でいろいろと出来そうだっているのはうれしい。
「お姉ちゃんずるいよ、自分だけスキル使って」
「し、仕方ないじゃない。あのままじゃ私が死んじゃうでしょ?」
ルラがコソコソと文句を言ってくるけどこれだって非常事態だ。
私だってこっちの世界でまだ死にたいとは思わない。
それに十五年も一緒に居たあの家は私の家になっている。
こっちの世界のお父さんもお母さんもシャルさんたちも嫌いじゃない。
だから何としても村に帰りたい。
「絶対に村に帰ろう」
「ん? うん、そうだね」
ルラの手を私はぎゅっと握りながらそう言うのだった。
* * * * *
「見えて来た、あれがレッドゲイルだよ」
トランさんが指さすその先には城壁に囲まれた大きな街があった。
人間の街で、この国イザンカ王国の第二都市だとか。
ここに来るまでにトランさんからいろいろと話は聞いていた。
今私たちがいるこのイージム大陸のイザンカ領。
世界最古の人間の国らしい。
魔法が盛んでかなりそう言った方面で発展をしているとか。
トランさんたちはここを拠点に冒険者をやっているそうだ。
私たちはトランさんたちにくっついてゆき門までやって来る。
「ふむ、お前たちか? どうだ今回は?」
「あまり良くありませんでしたね。ただトランの同郷の女の子二人が困っていたので助け出しました」
所々まだ完全には聞き取れないけど、門番の人とロナンさんはコモン語でそんなような事をしゃべっている。
トランさんたちに助け出されて早二週間くらい。
毎日野宿の時にはコモン語を教えてもらっていたのでだんだんと分かるようにはなって来た。
トランさんの仲間の人とも少しずつ喋れるようになってきたのでこうして門番さんの簡単な言葉なら聞いて分かるようになってきた。
あ~でも実際にコモン語って方言くらいの違いで助かった。
文法とか過去形とか進行形とかそう言った面倒なのはほとんど無く、基本の文法はエルフ語と同じ。
どちらかと言うとボキャブラリーが増えれば話が出来るレベルだったのでこの二週間で意外と何とかなってしまった。
「ん~、しかしそうするとこの子たちの通行料を取らないといけないが、お金持っているのか?」
「ああ、それは僕が出しますよ。はい、これ」
言いながらトランさんは門番の人にお金を渡す。
「ト、トランさん! そんな事……」
「あ~、でもあたしたちお金持ってないもんなぁ~」
うっ。
ルラに言われて言葉に詰まる。
今までは野宿で木の実やキノコ、自生している薬草、狩りしてウサギを捕ったりとして自給自足で済んでいたからいいけど、こう言った街ではお金が無いとどうにもならない。
「大丈夫、ここの通行料は安いし、君たちは僕の保護下にいるんだから。保護者として当然だよ」
「ううぅ、すみません。ありがとうございます……」
「ありがとうございます!」
ルラと一緒にトランさんに頭を下げる。
「いいって、いいって、子供がそんなこと気にしちゃだめだよ。もっと僕を頼りにしてくれたっていいんだよ?」
うれしい事を言ってくれるけど、いくら同族のエルフだと言っても頼りっぱなしになるわけにはいかない。
街に入ったら迎えが来るまでどこかでアルバイトでもしてトランさんの負担を少しでも減らさないとなぁ。
そんな事を考えながら私たちは街に入る。
そして驚く。
まるでヨーロッパの様な街並み。
通路は全部石畳だし、家々は奇麗な二階建てか三階建てがほとんど。
外灯らしきものもあり馬車や人々が往来している。
「うわーっ! 人がいっぱい!!」
「す、すごい。これが人間の街……」
エルフの村とは比べ物にならない程発展している。
本当に教科書とかで出てきた中世のヨーロッパみたいだった。
「はははは、初めて人間の街に来ればほとんどのエルフはそう思うよね? 僕もそうだった。初めて外の世界に出たのはもう何百年前だったかな?」
「そ、そう言えばトランさんって幾つなんですか? 村では見かけなかったし……」
「ん~、もう六百歳は越えてたな。村を出たのは四百歳の頃だから、もう外の世界で二百年くらいふらふらしているよ」
「二百年!?」
まあエルフなんだからその位は当たり前らしいけど、生後まだ十五年の私たちには途方も無く長い時間に感じる。
「さて、それではまずは宿に戻ろう。久々に体を洗いたい。彼女たちも奇麗にしたいんじゃないか?」
エシアさんという戦士の人がそう言ってくれる。
確かにこの二週間水浴びとかしていない。
女の子にしてみれば確かにきついけど、水生成魔法で可能な限り体は拭いていた。
「それじゃ、宿に戻ろうか。リルとルラには新しい部屋を取ってあげるね?」
「え? そんなお金かかる事しなくてもトランさんと一緒の部屋で大丈夫ですよ?」
「うん、あたしも~」
私が慌ててそう言うとトランさんは困った顔をする。
「うーん、僕は大丈夫なんだけど、君たちって人間で言う所の成人をしたくらいの外観だからね。人間の社会ではいくら子供の君たちだって大人として見て来るからね。それに二人に迎えが来るまで部屋をずっと確保しなきゃだからね、僕の部屋は長く出かける時とかは一旦返しちゃうからね」
そう言えばトランさんは冒険者だからずっと私たちと一緒に入られないんだ。
私たちはトランさんにそう言われて仕方なくうなずく。
「分かりました。でも、私にも何かできる事あったら言ってください」
「あ、あたしもお手伝いするよ~」
「はははは、本当にリルとルラはいい子だな。うん、何か手伝ってもらう時はお願いね」
そう言って笑うトランさん。
どきっ!
そのトランさんの笑顔に私は思わずどきっとしてしまう。
同じエルフ族なので美形なのは当然だけど、見た目がお兄さんなトランさん。
優しいし、頼りになるし。
私はなんかトランさんの顔を見るのが恥ずかしくなってしまう。
「ん? どうしたのお姉ちゃん??」
「え? あ、な、なんでもない!!」
ルラにそう言われ私は慌てる。
そんな事をやっていたらトランさんが立ち止まった。
「さあ着いた。僕たちが寝泊まりしている『赤竜亭』だよ!」
言われてみると看板に赤い龍の絵が描かれた読めない文字があった。
ああ、そう言えばコモン語の文字も覚えなきゃならないんだった……
私がそんな事を思っていると皆さんは扉を開けてぞろぞろと中に入ってゆく。
「さてと、亭主! 今帰って来たぞ!!」
エシアさんがそう言って一番奥のカウンターに声をかけると髭のおじさんが出てきた。
「おう、エシアか? 生きて帰って来たな、これで宿代がちゃんと取れるな」
「ぬかせ、前払いで一月分払ってんだから部屋ちゃんと残ってるだろうな?」
そんな事を言いながら笑い合っている。
どうやら親しい宿のようだ。
「亭主、前払いで一ヵ月、二人部屋を一つ欲しんだけど空いている?」
「ん? 空いてはいるがどうしたトラン?」
「実は仲間の子を保護した。彼女たちはこう見えても本当にまだ生後十五年の子供でね。右も左も分からない。僕が彼女たちの迎えが来るまで保護者になるからよろしくね」
そう言ってカウンターにトランさんはお金を出す。
店のおじさんはそれを受け取って私たちを見る。
「また偉い別嬪さんのお嬢ちゃんたちだな? 分かった、俺の方も気にかけとくよ。変な虫は付けさせないから安心しな!」
「うん、お願いするよ」
そう言いながらおじさんは部屋の鍵を私たちに渡してくれる。
「あ、あの、トランさん、その、ありがとうございます」
「ありがとうございます~」
部屋を一月も借りるなんて、一体どれだけかかるのだろう?
それを保護者だからと言ってお金出してもらって……
トランさんってお金持ちなのかな?
「取りあえず部屋に行ってみよう。それと、お風呂があるけどここはシャワーって言う雨みたいなので体を洗うんだよ。ああ、それと男女は別ね。村の泉のように男も女もいっしょにお風呂に入ちゃだめだからね?」
「えーと、人間の世界では一緒に入らないのですか?」
「うん、とにかく一緒はだめだよ。分かった?」
「え~、あたしトランさんと一緒に水浴びできると思ったのにぃ~」
「はははは、村じゃ無い所ではダメだね。ルラもちゃんとお姉ちゃんのリルと一緒にお風呂入ってきなさい」
そうか、やっぱりエルフの村がおかしかったんだ。
だって混浴なんだもん。
まあ確かに村でずっと混浴だったから気にもした事無かったけど、冷静に考えてみれば私ったら今まで凄い事してたなぁ……
お、男の人に裸見られていて平然としていただなんて……
「あれ? どうしたのお姉ちゃん顔真っ赤だよ?」
「な、なんでもない!」
ルラに突っこまれながら私たちは部屋に向かう。
階段を上って二階のすぐの部屋だったみたい。
「あ、何だ僕の隣の部屋か。よかった、近くて。そうそう、こっち側の部屋は日当たりがいいからね、窓の外から通りが見えるよ」
笑いながらトランさんはそう言う。
そして貰った鍵で部屋を開けるとそこにはベッドが二つ、小さなテーブルと椅子が二つある部屋だった。
「うん、ちゃんとわかってるね亭主は。良い部屋だよここは」
「そうなんですか? でも確かに明るくていい部屋ですね!」
「ふわぁ~、ベッドだあ!」
私たちは喜んで新しい部屋に入ってゆくのだった。
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