かみがたが変になって、「ぜったいかわいくない」って言うとなりの女の子は、ぜったいにかわいい
ぼくは決めた。
なにを決めたかというと、あした、となりの好きな女の子に「かわいい」っていう。
好きだって言いたい気もちもあるけど、そんな勇気はないから、まずはかわいいって言うことにした。
それならできる気がするし、きっとよろこんでくれるとおもう。
びっくりされたり、ドン引きされたらいやだな。
うん、どう考えてもいやだけど、でもぜったいに言う。
そう決めたし、ネットにも「かわいい」とほめるのはとてもいいことだと書いてあった。
☆ ○ ☆
わたしは、好きな男の子のとなりの席だ。
とてもうきうきしていて、かみとかもすごく気にしてしまう。
そしたら自信まんまんなお母さんが、かみを切ってくれるって。
いつもおいしいごはんをつくったり、とてもすてきなマフラーを作ってくれたり、夜にたのしいお話をしてくれるお母さんのことを、わたしはちょっと信用しすぎた。
かみを切り終わったら、びっくりした。
超ダサい。
左右でちがう。
でも左右どっちにそろえてもださい。
なんかむかしの時代の人みたい。
あのほら、なんか白黒な写真にのってる人みたいな。
さいあくだ。
かわいくない。
ぜったい笑われる。
まずともだちには笑われて、そしてとなりの彼はやさしいから笑わないかもしれないけど、わたしのこと変だと思うだろうし、ぜったい困る。
びょうきしたふりして明日休もうかと思ったけど、お母さんが開きなおって、「世界一かわいいかみがたになったね。あはは」とか言うのでほんとにムカついて。
その日のばんごはんはとてもおいしかったのに、あんまりおいしくないって言っといた。
そしたらちょっとお母さんとけんあくになって、だから、わたしは学校に明日いくことにした。
もうやだな。ずっと赤白ぼうしかぶっていたいな。体育のとき以外でも。
そして次の日になった。
わたしは下を向いて歩いていた。
学校まで誰とも目が合わなかった。
ああ、今週のもくひょうは、せっきょくてきにあいさつをしようだっけ。
そんなのどうでもいい。いつもけっこうどうでもいいけど、いつも以上にどうでもいい。
教室に入って席についた。
となりにはもう彼がいた。
なんか……こっちみてる。
うわ、多分、「え、なんだこのかみがた?」ってなってるよ。もうだめだ。
「あの……」
「う、うん」
「かみ切った?」
「うん……」
「かわいい」
「え?」
これなんて言うんだっけ。たまにお姉ちゃんとけんかした時にお姉ちゃんが使ってくるやつ。
えーと、いやみとかひにくだ。そういうの。
でも、彼はそういうことをいきなり言うタイプじゃない思う。
だからもしかして……本気?
いや、本気でこのかみがたをほめてるなら、それはセンスがないよ。
だから……
「え、わたしのかみがたへんだよ。ぜったいかわいくない」
わたしはそう言った。
☆ ○ ☆
「え、わたしのかみがたへんだよ。ぜったいかわいくない」
そう返事がかえってきた。
よそうがいだ。まずい。
なんというか、勉強してないことがテストに出たときのあせりが発動した。
困った。
でもぼくは決めたんだ。
決めたから、さらに強く決めていくしない。
「いや、ぜったいにかわいい」
よし、これでいいだろう。
「うそ」
「うそ?」
うそではない。でもたしかにそう言われると、少しうそかもしれない。
前もって決めた感想を言うなんてよくない。
めんどくさい読書感想カードに、読む前にとりあえずおもしろかったって書くようなものだ。
だからたしかに良くなかった。
じゃあ、
「こっち向いて」
「え、やだ。かみがたがね、へんなの」
「たしかに左右でちがって、新しいな」
「あたらしくない! 古いの」
「そうなのか? いやわかんないけどさ」
ぼくは、ちゃんととなりの女の子を見た。
いつもみてる通りだ。
うん。
「やっぱりぜったいかわいいよ」
「……いやみとか、ひにくとかじゃない?」
「いやみ、ひにく? じゃない、と思う」
「そうなのね。もーいいや」
ゆるしてもらえた。
かわいいって言うのって大変なんだな。
人生のべんきょうになった。
でも……なんか笑ってた。
なんか朝来てから下向いてたから、おちこんでたりするのかなって思ったけど、ちょっと元気がでたみたいでよかった。
「ねえ、昨日のプリンキュート、みた?」
「もちろん。コーラ味のあたらしいプリンのかつやくがすごかったよな」
「うんうん! すごかった!」
そしていつもみたいに話す。
よかった。
やっぱりいつもみたいに話すとなおさらよくわかる。
となりの女の子は、ぜったいにかわいい。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければ評価などをいただけたらうれしいです。