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【本編完結済み】頑張り屋で甘え下手な後輩が、もっと頑張り屋な甘え上手になるまで  作者: 木ノ上ヒロマサ
第3章

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第137話『もう一つのプレゼント』

 ちょいと短め。

 誕生日の翌朝、その登校直前のこと、優人との朝食を終えた雛は一度自室へ戻り、身支度を整えていた。

 目の前の鏡に映る自分の姿を入念に観察し、制服の着こなしや髪の状態などなど、一通り満足のいくものであることを見届けてから洗面所を後に。テーブルの上に置いてあった学校指定の鞄へと近付くと、中身に不備が無いかもしっかりと確認していく。


 文房具よし。今日の授業で使う教材よし。お財布よし。今日のお昼は購買もしくは学食の予定だから、お弁当は無しで大丈夫。あとは――家の鍵。

 順繰りの確認を続けた最後、雛の視線は部屋の隅の勉強机へと移る。


 机の上に置いてあるのは折り畳まれた包装紙と、それが包んでいた品の良さそうな紺の箱。それほど大きくはないサイズの箱を手に取って蓋を開けると、中に収まっているのは革製のキーケースだった。


 合計で四本の鍵を取り付けられる三つ折りタイプ。色は薄めの青で、無地の表面にワンポイントで金属製の小さなリボンが装飾されている。色もデザインも一目で気に入った。


 これは昨日の昼頃、優人の部屋に伺うに当たって何を着ていこうかと悩みに悩んでいる時に郵送で届いたものだった。


 差出人は義理の両親である空森夫妻。綺麗なラッピングが施された小包の中には、キーケースと一緒に直筆の手紙も添えられた。


 今さらこんなものを贈れた立場ではないかもしれないが、せめて形に残る物として贈らせて欲しいという旨。

 これまでに何度か聞いた、雛へのこれまでの行いの謝罪。

 今後もどうか健康に気を付けてという配慮。


 向こうが用意しようとしていた祝いの席への誘いをすぐには返事できず、その上結局は断ってしまったというのに、そこに(つづ)られた文字の端々には雛への気遣いが込められているように思えた。


 もうじき夏休みが始まる。どこかで時間を取って、会いに行ってみようか。彼らが一歩踏み出してくれたのだから、今度はこちらから申し出て。


「…………」


 改めて最初から最後まで目を通した手紙を丁寧に折りたたみ、貴重品類をまとめている机の引き出しの中へしまう。そして手紙と入れ替わりに引き出しの奥から取り出すのは――空森の家の鍵。


 別にすぐに使う予定があるわけでもないし、このキーケースだってそういう意味でのプレゼントというわけじゃないと思うけど、雛なりの一歩、ちょっとした決意表明のようなものだ。


 手に取ったキーケース。新品でまだ固い革の感触がするのに不思議と手に馴染むその中へ、雛は手持ちの鍵を一つ一つ収めていく。

 この部屋の鍵。優人の部屋の合い鍵。そして、空森の家の鍵。

 並ぶ三本を見て、雛の横顔にふと微かな笑みが浮かぶ。


 ――ゴンゴン。


「雛ー、そろそろ出ないと遅刻するぞー」

「あ、はーい、今行きまーす!」


 玄関の戸をノックされた後、すぐに優人の呼びかけが聞こえてきた。ずいぶんと待たせてしまったらしい。

 雛は慌てて鞄を肩に担いで玄関へ向かい、ローファーを履いて外へと踏み出す。


 ――正直、不安はある。


 自分と彼らの義理の家族関係は一度絡まってしまった糸だ。それを真っ直ぐに解きほぐすにはきっと時間がかかる。上手くいかないこともある。戸惑うこともある。ひょっとしたら余計に絡まって、また辛い思いをするかもしれない。


 でも、きっと大丈夫だ。

 だって雛には、


「お待たせしました」

「ん。ほら、行くぞ」

「はいっ!」


 ぎゅっと握る、あなたの手。自分のよりずっと大きくて、ちょっと骨ばった男の人の手。

 包み込んでくれるような大きさと、受け止めてくれるような力強さがなんだか嬉しくて、つい感触を確かめるように握っては緩めるを繰り返す。


 不思議そうに「どうした?」と首を傾げる彼に、雛は笑って「なんとなくです」と前を向いた。


 そう、きっと大丈夫。

 大好きな人が今日もこうして隣にいてくれる。


 それだけで私は、どんなことだって、頑張っていけるから。

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