スマホ世代の魔王はカセットテープに封印された
「フハハ! そこの人間よ! 我を再生したのが運の尽きだったな!」
実家のラジカセから聞こえたのは、自らを魔王と名乗る声だった。
停止ボタンを押しても止まらないその声は、先日道端で拾ったカセットテープから再生されている。
「聞け! なんかうだつが上がらない感じの人間よ! 我が封印されし、その時を!」
興味本位で実家まで来て再生してみたが、つか初対面でうだつが上がらない感じってなんだ失礼だぞ。
どうやら若くて勢いのあったこの魔王は、スマホとネットとサブスクを駆使して世界征服を目論んでいたが、冴えないおじさん勇者が使う見たことが無いアナログ機器に油断し、このカセットテープに封印され今に至るという事だ。
「だってえー、我、知らんじゃん。あんなー、画面も無いプラスチックの四角いヤツにぃー、音楽データ入るとかさー」
封印された魔王は、カセットテープに封印されたものの、その漏れ溢れる能力で、カタツムリ並みのスピードで移動したり、こうやって再生したら停止ボタンを押せないとかいう微妙な能力で、どうにか処分されずにこれまで生き残ってきたそうだ。しぶとい奴だ。
「更にこのカセットテープに封印された時、ツメなるモノを折られた為に、我はな、こうやって話す事しか出来なくなったのだ」
まあ、確かに再生しか出来なくなるな
「なので、そこのモブ顔おじさんの人間、我をもう一度元の姿に戻す方法を調べる任を与えるぞ」
いちいち一言余計だなこの魔王。しかし。
「ああ、俺は、元に戻す方法を知ってるぞ」
「な、なんと!? さすれば早く元に戻すのだ!」
そう宣言したカセットテープ魔王は、ラジカセから勢いよく出てきた。
久しぶりでうろ覚えではあるが、ひとつ作業する。
「さてさて雑魚人間! これからどーするのじゃ?」
勝手にラジカセに戻りしゃべり始めた魔王をなだめ、後は自分が操作しなければならない事を伝える。
カセットテープ魔王は、ツメ部分にセロテープを貼られ、ラジカセにセットされた。
録音と再生ボタンを同時押ししたラジカセは、キュルキュルと音をさせながら、遠くでついてるテレビの音と外のバイクの走る音、そして下の階でオカンが呼ぶ声を、録音できる姿に戻ったカセットテープに上書きしていった。
同じ世界観の短編集を作りましたのでよかったら是非。
https://ncode.syosetu.com/n7955hk/
一番上のシリーズからも見れます。