プロローグ 0
「うぉぉぉぉぉらぁぁぁぁっ」
バキッッ。鈍い音がした。
昼下がりののどかな森の中、一人の少年が頭に穴でも空きそうな程の拳骨を食らった。
辛うじて、頭蓋骨は割れていないようだが、それでもかなりのケガにはなるだろう。
「痛ってぇええ!」
少年の声が森中に響き渡った。
あまりの大きさに、木の上にいた鳥たちが一斉に飛び立った。
その声に対して、はいはい慣れてますよー、とでも言うかのような顔をして、少年よりはかなり高い身長の青年が近づいてきた。
「全く。貴方はどうして声だけはそんなにも大きいのですかねぇ」
呆れた顔で、青年が呟いた。
「うるせえ!お前が手加減しないからだろ!」
「手加減..ですか。はて、全力で来い!とのさばりやがったのはどこのクソガキでしょうか」
青年は、より一層呆れた顔でまた呟いた。
「ぐっ。俺だ。でもクソガキは言い過ぎだ!」
少年はそう言いながら立ち上がった。
「わかりましたよ。では次からは、勇者志望の自称最強ショタ君。で行きましょうか」
「自称は余計だ!」
「おや?ショタは訂正されないのですか?」
「訂正しろ!お前がな」
少年は、今にも噛みつきそうな勢いで言い放った。
「では訂正いたしましょう。」
そう一言言った後、青年は口を開いて、
「ああ、私からも一つ訂正の要求を」
「なんだよ」
少年は、頭をさすりながら睨んだ。
「私のことは、ジョセフ、もしくは先生と呼びなさい。手当てしていただいた恩義はありますが、私の方が年上なんですから」
「はぁ。分かったよ。......ジョセフ」(先生なんか死んでも言うか。こっちはずっと、ぼっこぼこなんだよ。)
少年は、嫌々そうに答えた。
「けどよ、ジョセフだって直せよ。俺にだって、アレンっていうちゃんとした名前があるんだからな」
「おっと、これは失礼。すみませんね、アレン」
「失礼なんて思ってないだろ..」
アレンはため息交じりに言った。
そんな言葉には耳も貸さず、ジョセフはアレンに言った。
「さて、アレン。まだまだ未熟なんですから、さっさと稽古して実践に行きたいのですが」
待ってましたとばかりにアレンの顔が喜びに変わった。
「頼むぜジョセフ。俺は最強にな..最強の上に行く男だからな」
一瞬言葉を濁したが、その眼には闘志が宿っている。
「その調子で頼みますよ。まだ先は長いんですから」
ジョセフはそう言うと、森中の動物にも聞こえないような声で、
「貴方は...私たちの..最後の希望なんですから」
と言った。