試行回数が足りない
---5年後
俺は10歳になって小学3年生に進級したし兄は県内でかなり優秀な方の高校に進学した。
科学の他に魔術が発展したこの世界では小学生から魔術の授業があった。
高校生にもなると学校にもよるが午前中に座学、午後に実習という感じになるらしい。
魔術が浸透したこの世界は前世の地球よりも危険が多い。
魔術犯罪なんてあるくらいだ。
そりゃそうだ。
1人1つ能力がある世界なんだからな。
人手が足りなくて学生にも手伝ってもらうこともしばしばあるそうだ。
兄は藤堂家の能力を継承しているし魔力量もかなり多い方で期待の新人らしい。
そのせいか割と危なげな作戦にも参加しているらしくて母がいつも心配している。
「父さんの息子なんだから。大丈夫だよ。」
まぁ確かに父はめちゃくちゃ強いらしいけど。
俺もかなり心配してる。
ああ、そうそう。
藤堂家の能力について説明しておこう。
能力名は【狙撃】と言うらしい。
遠距離における命中補正というのが主な能力らしい。
初めて聞いた時は地味だと思ったが、なんでも遠距離の魔術や銃、投擲物にまで影響が及ぶらしい。
しかも補正がかかった時の命中率は必中と言っても過言ではない。
つまりだ、相手の攻撃範囲の外から必中の一撃を当て続けられるということになる。
能力を継ぐのは長男と決まっているそうだ。
他の家でも親の能力を子供が継承する所もあるらしい。
能力を受け継いでいく家は少ないらしいが、能力が強ければ強いほど一族に残そうとするのがこの世界では当たり前になっている。
父はというと昔から出張続きであまり会えていない。
かなり忙しいというか危険な職種だから仕方ないといえば仕方ない。
たまに帰ってきた時もよく遊んでくれるしほんとに家族思いなんだと思う。
そんな危険だらけの父の仕事は魔術犯罪の解決…じゃなくて別世界からの侵略者からの防衛というものらしい。
初めて聞いた時は驚いたというかなんというか言葉が出なかった。
世界がいくつもあるのは俺も分かるがそこから侵略者が来るなんてまるでドラマとか小説とか見てるみたいだと思った。
まぁ魔術がある時点でまるで創作物だが。
侵略者が世界を渡って来る時はいつも突然で直前にならないと観測出来ないそうだ。
だからいつも魔術協会の本部にこもりきりになるらしい。
兄は父の後を継ぐらしいからいつかは兄もそうなるのかもしれない。
兄の手助けをするという英人も同じようになるかも。
そして、俺はというと。
能力については驚きはされたが思ってたよりもあっさりと受け入れられた。
この世界の魔術はなんでも出来るが故に謎だらけらしい。
友好関係についても可もなく不可もなく。
いや、恵まれてると言ってもいい。
親友と言えるほど仲の良い幼馴染が2人と友人が何人か。
学校に嫌いな奴はいても関わらないし問題が起こったことも無い。
まぁ精神年齢的に子供にキレるのはどうなのかと無意識にセーブしている面もあるかもしれない。
学習面に関しても全く問題は無い。
前世で県内有数の進学校に推薦で入って一人暮らしをしていた俺にとって勉学に困ることなどない。
小学生範囲で躓く高校生なんてどこ探しても居ないだろうけど。
ただひとつ分かったのはこの世界の教育水準がめちゃくちゃ高いこと。
小3のはずなのに前世で言うところの小6の部分の勉強に入っている。
まぁ一見何も困ることは無いように見える俺の生活だが問題点は2つあった。
1つは俺の人格についてだ。
この世界で英人として過ごして10年がたった。
徹として過ごしたのは17年でそろそろ頃合かと思っていたのだが全く自分の中の徹と英人の割合が変わらないのだ。
いや、自分でも気づかないうちに変化してるのかもしれない。
しかし、しかしだ。
神様の言っていた理論で言うと後7年で蒲原 徹という人格は少なくとも変質するわけだ。
個人的には何も変わってない気がするので7年たってもこのままなのではないか?と疑問に思ってしまう。
まぁ神様もどうなるか分からないと言っていたから、このままというパターンもあるかもしれない。
逆に突然起こることも有り得るのだ。
…と、まぁ一応1つ目は俺の人格の話。
問題は2つ目だ。
俺が目下直面している2つ目の問題。
それは能力の制御だ。
【加速】の方は何とかなった。
自分もしくは視認しているものを加速させる能力。
加速させる時間と加速度の大きさで魔力の消費量が決まるから乱用は出来ないけど。
ただ【未来視】の方は何ともならなかった。
右目は自分の視界内の中で起こりうる未来を映し、左目は自分の視界内の中で起こることが確定している未来を写す。
そして本来なら片目でしか見えない未来は目を閉じることによって視界全体で見ることができるようになったり別の場所の未来が見えるようになったりする。
…ここまではいい。
魔力の消費量がエグい。
現在から映す未来までの時間と目を閉じた場合は自分の場所からの距離で魔力の消費量が決まる。
ただし1秒先の未来を1分見続けると俺の魔力が底を着く。
これでも消費量が多い能力2つに恵まれただけあって同世代の中では比較的魔力量は多い方なのだ。
一般的な子供は能力を貰ったあとは何回も誤作動と練習を積み重ねて自由に使いこなせるようになる。
それこそ赤子が立ち上がるためにする努力の倍以上の努力を積んで能力を自分のものにするのだ。
ただこれができるのは能力の発動につき消費する魔力の量が少ないからである。
俺みたいにバカみたいに魔力を消費する能力はそれが難しい。
誰かに頼ろうにも時間系統の魔術はまだ未知の領域とされている為誰にも頼れない。
だから勘に頼るしかないのだがそれをしようにも試行回数が足りない。
10歳という誰もが能力を使いこなしているような年頃になっても俺はまだ能力をコントロール出来ないどころか誤作動して魔力がすっからかんになるという毎日を過ごしていた。
おかげで魔力量が増えてるのはいいが【未来視】の発動時間的にそんなに増えた気がしないのが難点である。