第1幕ー4 夢、それとも現実?
時間が過ぎていった。そのまま目を覚ますと、ホテルだった。
(なんだ夢か?)
龍太郎が隣を見渡すと、峯岸がいびきを描いて爆睡しているではないか。夢にしては、随分ファンタジックな夢だなっと、龍太郎は、余韻に浸りながら、目を閉じた。それにしてもハルト三世が悪者であったことが驚きだった。
(にしてもまるでゲームみたいじゃないか?、俺には特別な力なんてないのになー、なんで俺なんだ?)
龍太郎は、そのまま、眠りに着いた。
朝になった。
「おはよう龍太郎!」
峯岸の声だ。あー朝か、龍太郎は、寝ぼけながら、身体を起こした。
「おはよう、なぁ、峯岸、聞いてくれよ!俺昨夜変な夢見たんだよ!、なんか俺が見も知らぬエミリオとかいう男になってて、なんか、俺狼の皮被せられてさ、フェムシンムっていう族の謎の女から、世界を救ってくれってお願いされるって夢をさ!」
峯岸は聞き返した。
「お前、それこないだ見たって言う金髪の女のことか?」
龍太郎は言った。
「違ぇよ、なんか白い髪の女性だったなー、人間じゃないんだよね、狼女みたいな?」
峯岸も同じ夢を見たらしく言った。
「俺も似た夢見たわ、なんか世界を救ってくれみたいな感じだった、俺の場合、お前が見たっていう、金髪の女が出てきたけどな!」
どうやら峯岸の話によると、夢の中で、峯岸は、エイドリアンという名前の魔法使いで、悪魔によって人間界が支配された世界で、魔王を倒して、人間界を救ってくれと言われたらしい。
「お前さ、これ毎回寝る前にさ先の展開を想像しようぜ、なんかゲームの主人公になったみてぇでおもしれぇじゃん、?この先の展開をさ頭に思い描いとけば、それ夢に出てくるから、その通りになんじゃねぇの?」
龍太郎は、その意見に賛成した。
「そうだな、なんか壮大な話にしようかなー、あとさ予期せぬバットエンドとかもおもしれぇかもなー」
まるで自分がゲームの主人公になったような感じを夢の世界で味わえる。爽快感がたまらなかった。
「龍太郎、今日はさここ行ってみようぜ、隣の国のリヒュテイン公国ってとこ、こっから船で1時間半くらいだってさ!」
峯岸は龍太郎に地図を見せた。「リヒュテインってなんか俺の夢に出てきたわ!エミリオはリヒュテインの国の剣士らしいんだよな」
「まあそれは置いといて朝食行こうぜ。」
龍太郎と峯岸は部屋を出て、レストランへ向かった。レストランは、ビュッフェスタイルだった。周りを見渡すと、客はほとんど外人ばかりで、日本人は気配すらない。たまに東洋系の顔をした、客を見かけるが、よくよく言語を聞いてみると、現地語なのだ。オールマイティパスのおかげで、現地語を自動翻訳してくれるらしいので、聞き取ることが出来る。
「地底料理って、ほとんど地上の食事と変わらねぇんだな!」。
洋食がずらりと、皿に立ち並んでいた。そして食事を取り、2人は椅子に向かった。
「所でさ、お前仕事の方はどうなの?」
峯岸は、ふと現実の世界に戻ったように聞いてきた。
「マジ忙しいわ、朝は早いしさ、仕事多すぎてさ、定時で終わんないんだよ、俺は、開発部門なんだけど、新しい案とか思いついたら、上司と相談して話し合ぅんだけど、なかなか上からOK貰えなくてさ」
「確か、お前の会社ってゲーム会社じゃなかったけ?」
「そうそう、俺はその中でも、ストーリーとか、CMとかの原案を考える部門、それを上が判断して、ハードウェアを作っている会社に提供するんだよね、話作んのって大変でさ、何人かのチームで手分けして作るんだよね。まあ上からなかなかOK出ないんだよね。」
仕事の話をすると、ストレス発散になる。地底に来てから、地上での話は一切していなかった。
龍太郎には、彼女がいた。
会社の同期で、飲み会で知り合って現在も、付き合っている。彼女にドイツのお土産を買っていこうと思っていたので、この地底国行くよりも、早く地上に帰ってドイツに行きたいという気持ちの方も強くなった。峯岸は、言った。
「せっかくドイツ行くんなら彼女と来た方が良かったんじゃん」
「あいつ誘おうと思ってたけど、なんか予定が合わなくてさ」
龍太郎は少しがっかりした様子で言った。
「でも、男だけの旅もいいよな、気使わねぇし」
「峯岸は?」
「いねぇよ、2ヶ月前に別れたよ。1年くらい付き合ってたけどな。」
峯岸は、大学の同級生と付き合っていたが、別れてしまった。
「まあ恋愛なんかいつでも出来るしな、それよりもう出ようぜ。」
2人は一斉に席を離れた。レストランを出ると、部屋に戻った。荷物をまとめると、チェックアウトして部屋を出た。
「しかし、俺の話にでてきた、エミリオって一体何者なんだ?、ほんとに実在人物なのか。」
ホテルでチェックアウトを済ませ、そのままバスに乗り、船へ向かった。
「金髪の美女がさ、忠告して来たんだよ。あと夢の世界に入れるのは4回、その間に敵を倒さないと、夢の世界から出られなくなっちまうだってさ」
峯岸は、龍太郎に言ってきた。
「そんな嘘だろ、そんなことあるわけねぇよ」
龍太郎は信じようとしなかった。
「どうやら俺達の夢の世界とパラレルワールドが繋がっちまったみたいなんだ。パラレルワールドの敵を倒さないとパラレルワールドから、奴らが攻め入って来て俺達がいる現実のバグミュダットが滅亡する。」
「パラレルワールドってどういうことだよ?」
「この世界は、地下の中の異空間に作られた世界らしいんだ。俺達が地上から飛ばされたのも、地上の上空にワープゲートがあって、そこを偶然飛行機が通ってしまったからなんだよ。だから、あの飛行機に乗ってた、乗客全員が、六日後の地底国にワープした時間までにワープゲートをくぐんないと、元の時間には戻れないのさ」
峯岸はかなり焦った様子だった。
ただ地底旅行へ行ってただけなのに、なんでこんなことに巻き込まれ無くならなくてはいけなかったのか。
「なんでそれを?」
「金髪の美女が言ってたんだ。とにかく、まずは、あと4回以内に、夢の世界入って、俺は魔王を殺さないと、現実世界の俺は意識を失なったまま、永遠に眠り続けてしまう。」
「ちょっと待てよ、そんなふざけんなよ、なんでそんなこと、しかも、よりによってなんで、俺達なんだよ」
龍太郎は怒りを露わにした。4回のうちに、夢の世界を救わないと意識不明になってしまうなんて。峯岸は、忠告した。
「いいか、龍太郎、とにかく全力で世界を救うぞ。俺達は選ばれたんだよ。失敗なんて許されねぇからな。
とにかく隣町に着いたら、睡眠薬を買うんだ。その睡眠薬で、出来るだけ長い時間眠りにつけば、時間は稼げるだろ。ちょっと、俺トイレ行ってくるわ」
龍太郎は、とにかく世界を救うことだけしか考えられなかった。地底から元の世界へ戻るより先に、現実世界に帰れなくなってしまうのだけは避けたかった。
その時だった。ふと龍太郎の前に一人の女性が姿を現した。彼女は、ホテルの朝食の時に近くに座っていた女性だった。
「あのすみません、さっきホテルにいらっしゃった方ですよね?」
「ええ、そうですけど」
女性は嬉しそうに言った。
「やっぱり日本人の方ですね!この世界で、日本人は、私しかいないと思ってたんですけど、よかった仲間が居たんだ!」
龍太郎は訪ねた。
「もしかして、あなたも地上の世界の人ですか?」
「はいそうです。私も飛行機に乗ってたら急に、この地底国へとワープしてしまって。見ず知らずの男から言われたんです。地底国へ旅行する権利を得たって。私は如月花梨、女子大生です。友達と二人でドイツへ出かける予定でした。でも地底国へ来てからは、友達とはぐれてしまって。別の地底国に飛ばされてしまったのかな。」
峯岸が、帰ってきた。
「龍太郎、どうしたんだ?その人は?」
「俺たちと同じように地上の国から来た人らしい。それも、あの飛行機に乗ってたって。」
「如月花梨です。初めまして。」
花梨は軽く会釈した。
「如月さん、初めまして。俺たちもあなたと同じように地底国に連れてこられました。でも寝ると不思議な世界とつながってしまって。 その世界の住人から、言われたんです。後4回以内にその世界を救わないと、永遠に世界に取り残されてしまうって。なあ龍太郎、この旅行なんかおかしくないか?普通の旅行なら、こんなにトラブルに巻き込まれることもないはずだよな?」
この旅行そのものについて疑問を持ち始めていた。
花梨は同意した。
「私も同じです。寝ると夢の中みたいな
不思議な世界へとつながってしまって、その世界の中に不思議な金髪の美女が出てきて、そして忠告されました。」
「私、元の時間に戻れるなら、ずっとこの世界にいたいって思ってました。だって地底なのに、こんな広い海と豊かな自然があるんですもん。しかも食事だって海外の食事と比較にならないほど美味しかったし。でも、あの女からの忠告受けて変わりました。」
龍太郎は、言った。
「とにかく、今度夢の世界に入った時、俺もその金髪の女に会うしかないな。いいか峯岸、もう時間はないんだ。何としても世界を救わなきゃならない。そして元の世界へ戻る為にな。」
龍太郎は、レオンハルトで出会った、2人組のことを疑い始めた。
恐らく奴らが何か仕組んでいるのに違いない事は確信していた。
龍太郎は推測した。
どうやら夢の世界だと思っていたのは、この地底国の空間とは、別に存在する筈の異世界。それがこの地底国の空間と繋がってしまったらしい。しかし、地底人は、その世界を認知できないらしく。異世界へと介入できる存在が地上人が夢の世界で作り出す精神体。その異世界は恐らく、100を超えているのだろう。地底人によって旅行へ行くと見せかけて招集されたのが、龍太郎達だったのだ。バグミュダット公国へと招集されたのが、どうやら、龍太郎入れて、一体何人いるのかは想像もつかなかったが。
「風が気持ちいいですね。ところで中山さんと峯岸さんは、何をやれられている方なのですか?」
花梨が質問してきた。
「俺は社会人でこいつは大学生です。確か、大学2年生です。」
花梨は、安心したような顔で質問した。
「へぇ、そうなんですか、私も大学2年です。どこ大ですか?」
「立教です。」
峯岸は、答えた。思い出せば、峯岸は、高校時代から結構成績が良かった。GMARCHを志望していただけのことはある。
「如月さんはどこの大学なんですか?」
「私は、上智大学です。私、帰国子女で英語ペラペラに喋れるんですよ。」
花梨はアメリカ出身らしい。龍太郎は、アメリカ帰りの、帰国子女に対して、尊敬の念を称した。高卒で就職した自分にとって高嶺の花のような存在ではないか。しかも容姿端麗でショートヘアの花梨は、龍太郎のタイプの女子だった。
「ねぇ同い年なら、もうタメ口でいいですよね。」
龍太郎はトキメキが止まらなかった。敬語で喋っていた人か、タメ口になる瞬間のトキメキは、半端なかった。龍太郎は、「いいよ、じゃあ花梨ちゃんね。」と呼んだ。
「龍太郎君、私も、この世界を救いたいの。異世界の奴らなんかに、この世界は、壊させない。これを飲んで。これは睡眠薬なの。確実に寝れるわ。しかも現実の世界で1時間寝るだけで、夢の世界に1週間滞在することが出来るのよ。」
龍太郎は、不思議に思った。
「その薬どこから手に入れたの?ってかそんな重要な事は早く教えてよ」
ふと龍太郎の言葉に怒りが現れてた。
「私が、バグミュダットに着いた時、売ってたから買ったの。ごめんなさい、まだ会ったばかりで言い出せなくて。だから、一緒に協力しようね。私の夢の世界で敵を倒せば、その世界は消滅するらしいの。そうすれば精神体は、夢の世界から元の世界に戻ってくることが可能になるのよ。」
どうやら夢の世界だと思っていたのは、この地底国とワープゲートで繋がってしまった、異世界らしい。その異世界を確実に消滅させなければ、バグミュダットの本当の世界とワープゲートがつながり、地底国に攻め入ってきて、バグミュダットは滅亡してしまう。恐らくそこまでしか原因は分からなかったが。
船は、港へ着いた。港から出て、先にホテルへ向かおうと言うのだ。
ホテルへ着くと、龍太郎と峯岸は薬を飲んだ。すぐ、眠気が襲ってきた。そのまま、夢の世界へ入っていった。