無色
ぎちり、と動くたびにキツく縛られた縄が擦れ合い少女の肌に傷が付く。赤くなっているその部分を見て恍惚の表情を顔に浮かべる傍らの男は狂っていると、そう思う人が多数を占めるだろう。
それはこの少女も例外ではなかった。
その彼が実は少女を生贄として推薦し、周りをやり込めて実行させた事を知っていたから尚更に狂っていると、そう思っていた。
「こんなことして楽しいの?」
そう少女が問いかければ、彼は残虐そうに切れ長の目を細めて笑った。その笑みは見ているだけで背筋が寒くなるほどにあくどい笑みで。
「とっても楽しいよ!!あの孤高の存在の君が!僕の手中に落ちて、神への生贄となるのだから!」
高らかに声を上げて、少女の顔を覗き込むこの男は少女の幼馴染で、とても優しくて思慮深い、とてもいい人だったのに。どうして今や、少女を陥れこうやって喜んでいるのか。
「そう。儀式はいつなの?」
少女は、態度を変えることなく冷静にそう彼に聞いたのだが、彼はそれが気に入らなかったのか声を荒らげて少女の長い髪の毛を無遠慮に掴み、引っ張った。
「っなんなんだよ!!僕が君を生贄にしたんだよ!?憎いだろう、恨めしいだろう!?」
そう取り乱す彼に、彼女は冷たいまっすぐな目で目を合わせて、ただ冷静に言葉を紡ぐ。
「別に。死ねるんならちょうどいいのよ?」
そう言って、彼女が初めて笑った。彼はただ、彼女の目の笑っていない笑顔を見て崩れ落ちた。何を言っても動じない彼女に、ただ絶望したかのように。
「……それで?泣くしかできないのならさっさと失せなさい。邪魔よ」
そう声をかけた彼女に、彼はすごすごと無様に小屋を出て行った。
彼女がいるのは納屋……いや、豚小屋と言ってもいいほどの汚さと狭さ、みずぼらしさを誇る小屋だった。その中にいても、彼女は表情一つ変えずに目を閉じている。近くによるだけで鼻が曲がりそうな悪臭がする木造の小屋だというのに。
彼女のスルースキルが高いのか、それとも彼女がすべてに興味をなくしているのか、どちらかはわからないが。
「……ひま。死ぬんだったらとっとと殺してくれないかしら。」
そう呟く彼女は、死にたがっている。彼女は聡い子供だった。それゆえに、世の中問答しその結末に絶望し死にたがるようになってしまったのだ。自らの命を軽んじるのだ。周囲に悟らせないようにするから、タチが悪かった。