「黒の書庫」
サラサラと紙の上をペンが走る。いくつもの古びた本棚には所狭しと本が並べられている。湿った紙の匂いが立ち込めている。その本棚の中に埋もれるようにして彼女はいた。インクの染み付いた机に紙を広げ、オイルランプに淡く照らし出されたその姿は、妖艶で美しく儚げだ。だが、その麗しい瞳が誰を見ることもない。ひたすらに紙の上の文字を、慈しむように、愛でるように書きなぐる。
「……できた」
やがて顔を上げ、あたりを見渡す。外はすっかり夜になっていた。月のない夜だ。恍惚に目を潤ませて彼女は今まさに出来上がったばかりの紙の束を掲げる。
「この中で、永遠に生き続けて……」
ゆっくりと息を吹きかけると、紙はひとりでに頁を揃え、本に姿を変えていく。彼女の手のひらの上で、それは完成した。
「永遠に私のもの。愛しい人……」