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元最強、祝賀会を開く

「さて、では……んー……はて? そういえば、一体何に乾杯すればいいのであるか?」

「あー、そうね……遺跡探索の成功に、あたりでいいんじゃないの?」

「目的としてたものは見つからなかったのに、なのです?」

「……でも、儲かった」

「ふむ、冒険者としての観点で見れば、確かに成功と言えるではあるが……まあ他に思い浮かばんであるし、それでいくであるか。では――」


 ――遺跡探索の成功に、乾杯。


 四つの声が重なり、軽やかな音が……響くことは、なかった。


 その理由は、単純だ。

 それを響かせようにも、その四人では――ソーマ達では、腕を精一杯に伸ばしたところで、互いの杯に当てる事が出来ないからである。


 何せ四人が座っている椅子も、テーブルも、本来は大人用のものなのだ。

 その中身が全員相応ではないとはいえ、腕の長さだけはいかんともし難い。


 そもそも足だって、地面についてはいないのだ。

 やろうと思えば、椅子の上に立つことで出来なくもないだろうが……さすがに場所が場所とはいえ、それはないだろう。


 だからそんないまいち格好が付かない状況に、四人は互いに苦笑を浮かべあうと、杯を持ち上げるだけにとどめた。

 そのまま中身をあおり……ほぼ同時に全員が、ぷはっと息を吐き出す。


 ちなみに杯を満たすものは、ミルクや水などだ。

 別にこの国に未成年の禁酒を定める法はないのだが、単純に身体が受け付けないのである。

 その場所のことを考えると少々場違いではあるものの、そんなことは今更であった。


 ともあれ。


「しかしまあ、今回は運がよかったのか悪かったのか、よく分からん結果になったであるな」

「何でよ? 結果だけ見れば、運がよかったでいいんじゃないの?」

「物事の見方の違い、ということなのですね」

「……ん、私達からすると、悪かった。……でも、冒険者としては、よかった」

「ま、そういうことであるな。今後のことを考えれば、楽になったとも言えるであるが……そもそもそれは既に十分だったわけであるしな。これはこれで、悪くはないであるが」


 言葉と共にソーマが視線を向けたのは、テーブルの上だ。

 そこには各々の杯の他に、ごちそうと呼べるものが並べられている。

 まあソーマ達にしてみると、質に関してはそうでもないのだが、場所を考えれば十分そう呼ぶに相応しいものだろう。


 そんなものがそこにあるのは、先に口にした通りのことが理由だ。

 即ち、遺跡探索が成功したということ……儲かったということである。


 ――あの広間から外に出たソーマ達は、そこがおかしいということにすぐに気付いた。

 何せ通路を右に曲がった先にその広間があったのに、今目の前にあるのは右に曲がる道なのだ。

 本来であれば、左に曲がるそれでなければおかしい。


 だがそこでまたかと思うだけで済んだのは、随分そこに慣れたということなのだろう。

 転移は広間に入っていても発生すると察するのは、難しいことではなかった。


 広間に戻り再度転移が発生するのを待つというのも選択肢の一つではあったが、今から逆側に進むほど時間が残されていないという判断により、そのまま右へと曲がる。

 そしてその先で、ソーマ達はもう一つの広間を発見することになった。


 しかしそこにもまた、ソーマとシーラにとって望むものはなく、だがそこは冒険者としてならば当たりの部屋でもあったのだ。

 貴金属や宝石といった、財宝と呼ぶべきものが仕舞われている場所だったのである。


 そこが手付かずだったのは、本当に運がよかったのか悪かったのか、というところなのだが……まあ、見つけた以上回収しない理由もない。

 とりあえず価値のありそうなものから順に、持てるだけ持ち……そこに辿り着いたのは、その広間を出てからすぐのことであった。


 見覚えのあるそれは外へと通じる門であり、罠がまた発動しないのか慎重に進むも、何かが起こる気配は特になく。

 そのままソーマ達は、無事外への脱出に成功したのであった。


 それが今回の古代遺跡探索の顛末であり、その後ルンブルクのギルドへと向かい、持ち帰った財宝を換金し、折角だからパーッと祝おうとなって現在に至る、ということである。


「まあ確かに、ヤースターで稼いだ分で十分と言えば十分ではあるわね……」

「わたし達特に買い揃えるようなものもないのですしね」

「うむ、贅沢をすれば限りないではあるが、普通にしていれば金貨十枚もあれば十分であろう」


 金貨十枚。

 それはソーマ達がヤースターで手にしたもの――あそこに行く途中で見つけて倒し、持っていった魔物の換金額であった。


 金貨一枚で、贅沢しなければ一般家庭三か月分になることを考えれば、それは旅の旅費として考えるならば十分過ぎるものだ。

 ヤースターに留まって冒険者をする必要がなくなったというのは、そういうことだったのである。

 とはいえ、正直それなりに強いものを選んだものの、楽に倒せたものだったので、最初その値段を提示された時は驚きでしかなかったのだが……まあドリスが無駄に高い金額を提示する理由がないので、それが適切なものだったのだろう。


 そもそも話を聞いたところ、冒険者というのは本来とにかく金がかかるらしい。

 武器や防具は言うに及ばず、ポーション代なども必要である。

 そういった費用の分と合わせ、需要と供給により魔物の素材等の値段は決まるため、必然的にその取引額もまた高額となる傾向にあるそうだ。


 その話を聞き、ソーマ達も一応ポーションなどは揃えたのだが、今のところ特にそれが必要となりそうな場面はない。

 先の古代遺跡でも、何の問題もなかったし――


「……そういえば、ソーマは剣、買わないの?」


 と、シーラからそれを尋ねられたのは、そんなことを考えている時のことであった。


 確かに、剣を買えるだけの金は既に稼いだものの、ソーマの持っているのは未だ木剣だ。

 しかしソーマは今のところ、特に新しい剣を買うつもりはなかった。


「ふむ……まあ、別にこれで困ってないであるしな。それに自分で作り、今まで使い続けていたためか、妙に愛着も湧いてるであるしな」


 或いは、前世だったらそんなことは言っていなかっただろう。

 剣は自分の半身とでも呼ぶべきようなものであるし、いいものを使わない理由がない。


 だがソーマは既に、剣士であって剣士ではないのだ。

 剣を使うとはいえ、剣の道を歩まないのであれば、それは正しい意味での剣士ではない。

 故にこれが壊れるか、その必要が生じるまでは、このままでいこうと決めているのであった。


「まあ実際のところ、本当にそれで十分だものね……」

「さすが兄様なのです!」


 ちなみに今まで特に触れていなかったが、アイナは黒いローブを羽織り、木で出来た杖を持っている。

 ただし木とはいえソーマのようにそこら辺に転がっていたのを適当に加工したものではなく、かなり良質な木材を使用し相応の腕の職人により作られたものだそうだ。

 ローブと合わせ、アイナに魔法の才があると分かった時に、両親から贈られたものであるらしい。

 家出した時に、一緒に持ってきたのだそうだ。


 家出といえば、結局リナも同じような感じでソーマ達に着いてきたわけだが、その装備はきちんとしたものである。

 軽装備ではあるものの、胸当てなどをしっかりとし、その剣はリナに合った大きさであり、尚且つかなりの業物だ。

 ソフィアから贈られたものを、これまたこっそりと持ってきたらしいが……まあそういったわけで、二人は特に装備を買い揃える必要はないのである。


 そういう意味で言えば、最も必要なのはやはりソーマだろう。

 何せろくに防具すら装備してはいない。

 ドリス達に最初は、正気かと言われたものだ。


 しかし未だに装備していないのは、それもまた必要ないからである。

 そもそも前世の頃からしてそうだったのだ。

 今更感しかないし、攻撃など全て切り払えば済むものだろう。


 それを言った時には、アイナどころかリナすらも、何言ってんだこいつ、みたいな顔をしてきたわけだが、実際に見せたところ不承不承といった感じで納得していた。

 ともあれそういったわけで、ソーマ達は冒険者にしては大して金がかからないのである。


 閑話休題。


「ところで、さっきから思っているのであるが、意外と誰からも声かけられんであるな」

「……? どういう意味よ、それ?」

「いやだって、見るからに子供四人がこんなことをしているのであるぞ? 絡まれても不思議ではないであろう。場所も場所であるしな」


 そう言いながら周囲を見回せば、そこにあるのは何と言うか、むさ苦しいと言っていいような光景であった。


 まあ何せ筋骨隆々といった感じの男達がそこかしこにいつつ、酒や料理などをかっ食らっているのだ。

 女性の姿もあるにはあるものの、その多くは男達と言動に大差がない。

 場所を考えれば相応しくはあるのだろうが、少なくとも一般人が近寄りたいと思えるような光景でないことだけは確かだろう。


 ラディウス王国アーベント男爵領ルンブルク冒険者ギルド支部、そこに併設されている酒場であった。


 そしてそんな場所にソーマ達がいるのは、ギルドで換金した後、わざわざ別の場所に移動するのも面倒だったし、他の店に入った場合色々言われる可能性もあったからだ。

 そのためそのままそこで注文をしたのだが、その時から今まで、周囲から視線を向けられるということあれども、誰かから絡まれるようなことはなかったのである。

 話を聞く限り、冒険者は粗野な者も多いという印象だったので、正直意外だったのだ。


「確かに、言われてみれば不思議なのです」

「そうね……っていうか、改めて見回してみれば何か逆に避けられてない?」

「ふむ……」


 そうして改めてソーマも周囲へと意識を向けてみれば……確かに、妙に距離を取られているような気もする。

 というか、こっちを見て何事かを言っているような……?


「……白い悪魔? シーラを見てそんなことを言ってるみたいであるな」

「確かにローブも被ってるから、全身白くはあるけど……何で悪魔?」


 当然と言うべきか、シーラはここでは顔と言うか全身を隠している。

 だがさすがにそれだけで、悪魔と呼ばれる理由にはならないはずだ。

 何か理由があるのだとは思うが……どうやら、シーラはそれに心当たりがあるようだった。


「……多分、以前ドリス達と来た時に、ちょっかいを出されたのが原因?」

「それで何かをした、ということなのです?」

「……大した事は、してない。……ただ、追い払っただけ」


 おそらくそれが言葉の通りでないというのは、さすがのソーマにでも分かる。

 それならば悪魔などとは呼ばれないし、こんなことにはなっていないだろうからだ。


 多分、そこそこ派手なことになったのだろう。

 ドリスも居たということだし、何となく想像が付く。


 しかも顔すら見えなくとも、シーラが子供なのは見ただけで分かる。

 そのギャップなども合わせ、悪魔などと呼ばれるようになった、というところだろうか。


「ふむ……まあ、煩わしいことがないのであれば、それに越したことはないであるか」

「そうね」



 本音を言ってしまうと、そういうのはお約束だと思っていたところもあるので、少しだけ巻き込まれてみたかった気もするのだが、アイナ達を巻き込まずに済んだということを考えると、よかったと思うべきなのだろう。

 と。


「――そこのお前さん達。ちょっといいかね?」


 声を掛けられたのは、そんな時のことであった。

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