元最強、話し合う
端的に結論を言ってしまうのであれば、結局ソーマ達はルンブルクとやらに行くことに決めた。
色々なことを考え、総合的に判断したことではあるが……やはりその決め手となったのは、シーラからの提案だろう。
古代遺跡に一緒に行ってくれないか、というものであり……いや、より正確に言うならば、重要だったのはその目的の方か。
即ち――
「ふむ……それにしても、古代遺跡、であるか……」
その時のことを思い出しながら、ソーマはポツリと呟いた。
見上げた先にあるのは、先ほどまで居たギルド支部の天井ではない。
この街にある、数少ない宿、その一室であった。
「古代遺跡に眠っているものを使えば、魔法が使えない人でも使えるようになるかもしれない……シーラさんは、そんなことを言っていたのです」
「まあ確かに、昔の方が魔法は進んでいた、という話はよく聞くものね。その一環でそういうものがあったとしても、不思議ではないかもしれないわ……あくまで、否定は出来ない、というだけだけど」
声に視線を下ろせば、部屋に備え付けられている椅子には、アイナとリナの二人が座っている。
勿論二人は別の部屋に泊まっているのだが、念のために決まったことの話し合いをするということで、ソーマの部屋へと集まったのだ。
自分達の方針を決め――つまり、ルンブルクに行くことと、その近くにあるらしい古代遺跡に行くというシーラの提案を受けることを告げ、ギルドを後にしてから、三十分ほどが経過していた。
「ま、確かに怪しい話ではあるが、本当に怪しいだけの話ならば、ドリスが止めてたと思うのである」
既に決まったことを改めて話している三人だが、そこにはちゃんとした意味がある。
多少の時間を置き、場所を変えた事で、何か見逃していた問題点が見つかることもあるからだ。
当然見つからないこともあるが、何よりも話すということが大事なのである。
今のところソーマが全ての決定を下しているものの、それは最終的に皆の結論でなければならないのだ。
少なくとも、互いに何を考えているのか程度はすり合わせておく必要がある。
そうでなければ、三人で旅をしている意味などないのだから。
ともあれ、だからソーマはそう口にすると、肩をすくめた。
ソーマがそれを受け入れたのは、ドリスのことを根拠として、まったく手掛かりがないよりはマシだと判断したからだ。
それが決定打となったのも、結局は他に何の手掛かりもなかったが故である。
「……まあ、とりあえず彼女本人に騙すつもりがないっていうのは、事実でしょうしね。話に怪しさは感じても、嘘くささは感じなかったし……そもそも、エルフは嘘は吐けないはずだし」
「え、そうなのです?」
「あれ、知らない? エルフは種族として魔法への適性が高いけど、それは高位精霊との契約のおかげで、その代わり嘘を吐けない……という話を、あたしは聞いた事があるんだけど」
「ふむ……我輩も初耳ではあるが、それが事実だったとしても、シーラに適用されるのかは、若干疑問であるな」
「あー……それは確かに、そうかもしれないわね」
エルフの魔法への適性が高いというのは、確かに事実だ。
他の種族と比べ、中級以上の魔導スキル持ちの割合が高いらしいし、上級へと至る者も、それなりに多いと聞く。
それが種族としての特性だというのであれば、そうかと頷くしかないが……そこに精霊の介入があるならば、より納得しやすいのも確かだ。
ただその場合、その恩恵を受けていないのに、代償だけ支払わされるものか、という疑問が湧く。
何せシーラは、魔法に秀でているエルフなのに、魔法の才がまったくない――魔導スキルの下級すらも、覚える事が出来ないというのだ。
だからこそ、仮にエルフという種が普通は嘘を吐くことが出来なかったとしても、シーラは例外の可能性もあるのではないかと……ソーマが言っているのは、そういうことである。
「ま、とはいえそこら辺は言っても仕方のないことでもある。それに一応嘘だということも考慮に入れてのことでもあるし」
例えそうだとしても、やはり何の手掛かりもないよりはマシだと、そう判断したのだ。
もっとも、ソーマとしては、多分嘘は吐いてないだろうと思ってはいるのだが。
「まあ私も嘘は吐いてないと思うのです。あの人の訴えは、心からのものだと思ったのですし」
「魔法を使いたい、ね……何処かで聞いたことのある台詞ね?」
そこでソーマが肩をすくめたのは、そこに共感を抱き、多少判断が甘くなったという自覚があるからだ。
とはいえ、そこで直接的にアイナが何も言わないのは、先ほど自分が口にした通り、そこに嘘を感じなかったからだろう。
共感したという事実を踏まえたとしても、ソーマもそれは同感だ。
少なくともシーラは本気でそれを願い、そのために古代遺跡に行こうとしているのは間違いないはずである。
「……まあ、嘘は言ってないとは思っても、正直に言ってしまえば、わたしにはいまいちよく分からない感覚なのですが。シーラさんはわたしよりも優れた剣士だと思うのですし、それだけでは駄目なのでしょうか?」
「あたしは少し分かる気がするわね……。ソーマが魔法を使いたいっていうのは、単純に使いたいってだけでしょ?」
「ふむ……まあ、そうであるな。そこに小難しい理屈は、特にないのである」
「でもシーラのそれは、多分そうじゃない。あたしの想像でしかないけど……彼女がどれだけ剣士として優れていようと、それはまた別の話なのよ。エルフだから、魔法を使いたいんだと思うわ……或いは単純に、そうじゃないと不便だから、という理由かもしれないけど」
「ふむ……」
エルフは魔法に秀でているが、逆にだからこそ、他のものはあまり使えないらしい。
エルフの剣士というのは、非常に珍しい存在なのだ。
だがそれだけであれば、問題はそれほどなかったのだろう。
シーラが多少なりとも、魔法が使えさえすれば。
何せエルフは生活のほとんどを、魔法に依存すらしているという話である。
最低でも下級は使えるために、魔法を使うことを前提として、生活のインフラが整えられているとか。
もっともそれは噂話レベルでしかないので、実際には異なっている可能性もあるが。
そもそもエルフという存在自体が珍しいため、実態はよく分かっていないというのが実情なのだ。
数自体が少ないというのもあるが、エルフはそもそも自分達の国である森から、ほぼ出てくることがないからである。
この国は割と異種族が混在している国家であるが、それでも王都に行ってすら一人見かけるかどうかぐらいだという話だ。
そのため、エルフのことはよく分かっていないことも多い。
そしてそのせいで、エルフは狙われることも多いのだ。
単純にその美貌を狙って、ということもあるだろうし……まあ、よくあることと言ってしまえば、よくあることである。
シーラが顔どころか全身を隠していたのも、それが原因だろう。
どこで情報が漏れるかは分からないし、シーラならばそういった輩は実力で排除出来るだろうが、面倒事は少ない方がいい。
そういうことである。
「まあ詳しい事情は、一緒に居ればそのうち話してくれることもあるであろう。いつまで一緒に居るのかは、分からんであるが」
「結局その古代遺跡とやら次第ってことよね……詳細は後でって話だったけど」
「そのせいで胡散臭くなってしまってるわけなのですが……それだけ自信があるってことなのですかね?」
「誰かに聞かれることを警戒して、であるか? ……ま、それも追々、であるな」
「そうね……どうせ移動には一週間もかかるんだもの。色々と話す機会もあるでしょ」
「折角なのですから、そういうことだけじゃなくて、他にも沢山話して仲良くなりたいのですが……」
「それも彼女次第、であるな」
まあ、少し話をした感覚では、こちらのことを嫌っているという雰囲気ではなかった。
そもそもそうでなければ、古代遺跡へ誘ってきたりもしなかったはずだ。
最後の方には少しずつ会話に混ざるようにもなってきたので、おそらくは単純に人見知りする性質というだけなのではないだろうか。
ならばそのうち、普通に話せるようになることも、あるだろう。
ともあれ。
「で、結局古代遺跡行きに異論はない、ということでいいのであるか?」
「そうね……実際、他に行く当てらしいものはないもの」
「わたしも異論ないのです」
そういうわけで、最終的に結論の変更はなしということで、その日の話し合いは終わりとなったのであった。




