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話と頼み

「話ねえ……そうは言っても、アタシもそれほど色々なことを知ってるわけじゃないんだけどねえ」


 それでも構わない、と頷くソーマに苦笑を浮かべると、ドリスはそれでいいんなら、ということで話を始めた。


 とはいえそれは本当に、他愛もないようなものだ。

 ルンブルクという街はどの程度の規模の街であり、その周囲にはどんなものがあるのか。

 あそこに行った者であれば誰でも知っているような、そのようなことである。


 そもそも、色々なことは知らない、どころか、ドリスはあの街には数えるほどしか行ったことはないのだ。

 その必要がなかったし、その暇がなかったというのもある。


 恥ずかしながら、ドリスはこの辺境では最強の一人と目されているのだ。

 やらなければならないことは、多々あった。


 それでも最大限、自身の知っていることを話しているのは、頼まれたから、というのもあるが……。

 話を続けながら、ドリスはちらりと横目でシーラの様子を窺う。

 相変わらずその顔は見えないが……気のせいでなければ、シーラはソーマのことを随分と気にしているようであった。


 その理由は、勿論分かっている。

 だからこそ、先ほどドリスは驚いたのだ。


 ――まさか、シーラ以外にも魔法を使えるようになる方法を探している者がいるなど、思ってもいなかった。


「――と、こんなところかねえ」

「ふむ……話を聞く限り、確かにそれなりに賑わっているようではあるが……そんな場所の周辺でも、やはり魔物は出現するのであるな」

「あん? 気になったのはそこかい? まあ確かに規模相応に冒険者の数はいるけど、魔物なんて幾ら倒したところで気付いたらいるもんだからねえ。そこは何処だって変わらないだろうさ」

「そういうものなのであるか……ここに来るまでの間、ほとんど魔物の姿を見かけなかったであるし、場所によるのかと思っていたである」

「あー、そういやお前さんたちはあっちから来たんだっけ? そりゃ確かにそう思っても不思議じゃないけど、むしろあそこだけが例外なのさ」


 ドリスが代行を務めているここ、ヤースターの冒険者ギルド支部は、実はラディウス王国の中でも最北端のギルド支部などと言われている。

 その理由は単純で、それが事実だから――ノイモント公爵領に、冒険者ギルドの支部は存在しないからだ。


 何故ならば、冒険者が行くことがない……冒険者の主な仕事である、魔物退治や盗賊退治などが発生しないからである。

 その前に、領主代行であり、公爵夫人でもある彼女が発見次第殲滅してしまうからだ。


 街の人にしてみれば支部はあった方が助かるだろうが、冒険者にとってメインの収入源は主にその二つである。

 街の人からの依頼などもたまにはあるが、割がいいものとなるとほとんどない。

 素材採集とかをする者もいるが、それだけで日々を暮らせるほど稼げるわけではないので、討伐のついでとかになる。

 冒険者も慈善事業でやっているのではなく、生きるためにやっているので、稼げない場所には行く必要がない、ということだ。


 かといって公爵夫人に殲滅をやめてくれなどとは言えるはずもないだろう。

 そもそも街の人間からすれば公爵夫人がやってくれた方が安心できるし、何よりもそれが彼女の仕事なのだ。

 止めろといえるわけがない。


 そういったわけで、公爵領にも関わらずあそこにはギルド支部が存在していない――その必要性が認められないため、置かれていないのだ。

 ただ、ソーマが言った通り、彼女の仕事によってあそこは現在最も安全な場所の一つだろう。

 それでも魔の森が隣接しているため、潜在的な危険度は他の場所よりも上だとされており、そのせいで向かおうとする人が少ないのではあるが。


「ふむ、なるほど……そういえば、ギルドの支部も見かけることはなかったであるが、そういう理由だったのであるか」

「途中の街の人達は随分簡単に旅の人間を受け入れるというか、親切な人が多いとは思っていたけど、それもそういうことだったのね」

「ああ、確かに治安も良いって聞くねえ。羨ましい気もするけど、アタシ達にとってみれば稼ぐ手段がなくなるってことでもあるし、痛し痒しってところかね」


 と、そんな会話を交わしている時のことであった。

 ふとドリスは、自分の袖を引かれていることに気付いたのだ。

 勿論と言うべきか、それは真横からのものであり――


「うん? どうかしたのかい、シーラ?」


 視線を向けてみれば、シーラの頭が何か言いたげにこちらを向いていた。


 ただ同時にそこには、迷いのようなものも感じられる。

 というか、そうでなければとうにその内容を口に出しているだろう。

 先ほどのように、だ。


 顔が見えなくとも、そのぐらいのことは分かるのである。


「そういえば、気になっていたのですけど、お二人はもしかして姉妹なのです?」

「いや? 赤の他人、って言っちまうとちょっとあれだけど、まあ血は繋がってないねえ」

「あれ、そうなのですか……仲が良さそうに見えたので、そうなのかと思ったのです」

「そう見えたってんなら、アタシとしちゃ嬉しい限りだけどね」


 あそこから連れ出して、最初の頃は色々と大変ではあったが……それが、会ったばかりの相手からも、そんなことを言われるまでになったのだ。

 嬉しくなるのは当然であり、また感慨深くもある。


 責任を感じていたというのは、勿論あった。

 だがここまで一緒に来れたのは、何よりそれが楽しかったからだろう。

 意外と、と言ってしまってもいいかもしれないが。


 しかしそんな自分の役目も、ついに終わる時が来たのかもしれない。


「で、シーラ?」


 シーラが何を言いたいのか、ということは大体分かっている。

 だからこそ、ドリスはソーマ達に旅の目的などを聞いたのだ。

 それをシーラが必要としていると思ったから。


 だがここから先は、シーラが自分の口で言わなければならないことだ。

 シーラの全力を引き出せなかった自分には……本当の意味で肩を並べて戦う事が出来なかったドリスには、そこに割り込む権利はないのである。

 ドリスに出来ることは、ただ、それを見守ることだけだ。


「…………ん」


 そうして、たっぷりと時間をかけた後で、シーラは覚悟を決めるように頷いた。

 その手が、自らの姿を隠しているローブにかけられ……それが意味するところは、一つである。


「おや、いいのかい?」

「……いい。……彼らは信用できると、思うから」


 念のために確認してみれば、そんな返答が返って来た。

 何を以って判断したのかは分からないが……まあ、剣を合わせた者同士にしか分からないものがある、ということなのだろう。


 あとは、やはり目的を同じにしているというところか。


「……そうかい。ま、アンタがそう決めたんなら、アタシからとやかく言うことはないさ」

「……ん」


 そう言って頷くと、勢いよくローブが剥ぎ取られた。


 中から出てきたのは、ドリスにとっては見慣れた、だがソーマ達にしてみれば初めて見る、小柄な少女の身体だ。

 当然服は着ているが……その姿を確認したソーマ達の目が驚きに見開かれ、まあそうだろうねと、ドリスは苦笑を浮かべる。


 ソーマ達にしてみれば、予想だにしていなかったことだろう。

 事情があるのは一目で分かるにしても、それでも、まさか、という感じだ。

 ただそれは、仕方のないことである。

 おそらくはドリスが同じ立場であっても、同じようなことになるに違いない。


 曝け出されたシーラの顔は、子供ながらにして、異様なほどに整っていた。

 しかし最も特徴的なのは、やはりその耳だろう。

 尖っているそれは、とある種族の特徴そのものであり――


「……改めて、自己紹介。……シーラ・レオンハルト。……見ての通り、エルフ。……それで、あなた達に頼みごと。……ルンブルクの近くに、古代遺跡がある。……そこに、一緒に行って欲しい」


 エルフの少女は、そうして、自らの望みを口にしたのであった。

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