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元最強、旅の目的を語る

「さて、それじゃあもう結果は分かってるかもしれないけど……まあ、テストの結果は合格さ。これでお前さん達は今日から冒険者と名乗れるってわけだね。もっとも、今のところそれを証明する手段はないわけだけど」

「ふむ……? 合格なのはありがたいのであるが、証明する手段がないというのはどういうことであるか?」


 ギルド支部へと戻ってきてから告げられた内容に、ソーマは疑問を発しながら首を傾げた。

 一応冒険者に関してもある程度のことは聞いており――まあ、だからこそ冒険者になるという選択肢が出てきたわけではあるが、そのため、冒険者だということを証明する、所謂ギルドカードなどとも呼ばれるものが存在するのを知っていたからだ。


 ただそれはあくまでも冒険者であることを示すもの……冒険者ギルドを利用出来るというだけで、身分証の代わりなどには使えないらしいが。

 まあギルドが冒険者に対する責任を取ってくれない以上、当たり前のことではある。


 そのため、たとえ冒険者として街に住んでいようとも、街の出入りには旅人などと同じような諸手続きがいちいち必要になるのだとか。

 一応ギルドからの依頼を受けている場合には、その依頼書が一時的に身分を証明してくれるらしいが……とりあえず、今のところソーマ達には関係のない話である。


 閑話休題。


「ああ、ギルドカードのことを知ってるのかい? なら話が早いけど、あれはアタシ達代行には発行する権限がないのさ。だから正確には、今のお前さん達は冒険者(仮)ってところだね。口利きはしておくから、ギルドの職員が居る支部に行けば、すぐに発行されるだろうけど」

「えっ、それじゃあ、その前に職員のいない街に行ったらどうなるの? まだあたし達が冒険者だって証明する手段はないのよね?」

「そうさね……近くの街ならいいけど、あんま遠くに行かれると、そこの代行からまたテストを受けなくちゃならないことになるだろうねえ。知らせるにしても、限度ってもんがあるからね」

「まあそれは仕方ないと思うのです。でもいちいちテストを受けるのは面倒なのですね……兄様、どうするのです?」

「ふむ……」


 正直に言ってしまえば、今のところ冒険者になった理由は、本当に路銀を稼ぐというものだけなのだ。

 だからここで十分に稼いでしまえば、他の街では冒険者として通用しなくとも問題ないとも言える。


 ちなみに、厳密に言うならば、別に路銀は足りていないというわけでもない。

 旅立ちの際、カミラからかなりの額となる金を渡されているからだ。


 ただ、さすがにこれ以上それを当てにしながら旅を続けるのはどうだろうということで、こうして冒険者になることを選んだというわけである。

 世間的には子供でしかないソーマ達が金を稼ぐにはそれしかなかった、とも言うが。


 ともあれ。


「ちなみに、ギルドカードを発行可能な街というのはこの近くだと何処になるのであるか?」

「そうだねえ……やっぱルンブルクに行くのが確実だろうね。ここからだと馬車で一週間ってところさ」

「一週間……どうするの?」

「ふむ……馬車で一週間ということは、結構移動するであるな」

「そりゃあね。でも、ギルドカード抜きにしても行く価値は十分にある街さ。何せ領主が住み、直接治めている街だからね。所詮男爵領……って言ったら怒られちまうだろうけど、それでもこの周辺では最も栄えてる街だよ。物も情報も揃ってるし、何をするにしても一度行って損はないと思うけどねえ」

「栄えてる、なのですか……ここと比べたらどのぐらいになるのです?」

「ここと比べてって、そりゃまた難しい質問だねえ。何せここは辺境の地だ。街の人達には怒られるかもしれないけど、多分ここより辺鄙な街を探すほうが難しいだろうさ」

「ふむ……」


 同意していいものなのかどうか分からなかったので頷くことこそなかったが、その内容にはソーマも同感であった。

 ここまで幾つもの街を通過してきたが、確かにドリスの言う通りだったからだ。


 屋敷のあった場所も大分あれではあったが、屋敷が存在していた、という分あっちのがまだマシだろう。

 ここより辺鄙となると、それこそアイナが世話になっていたというあの村ぐらいかもしれない。


「というか、そもそもお前さん達はどうして旅をしているんだい? 結局はそれ次第な気もするけどね」

「……なるほど、確かにその通りなのである」

「その通りだけど……正直あたしには目的ってほどのものはないのよね……」


 まあそれはそうだろう。

 アイナが旅をすることになったのは、半ば逃避が目的だ。


 魔法は使えるようになったのだから、戻っても問題はないはずなのだが……それだけあの一件が堪えたということなのだろう。

 誰が信用できるのかも分からない。

 そんなこともポツリと漏らしていたあたり、割と重症だ。


 だからこそソーマも、アイナが旅に出ることを止めなかったわけだが。


「目的なのですか……わたしもこれといったのは特にないのですね。あ、いえ、一応見識を広める、という目的があったのです。そう母様にも伝えておいたのですし」


 リナの言っていることも、本当のことだろう。

 おそらくリナの目的は、ソーマについてくる、ということなのだ。

 だからそこには、それ以外の主目的は存在していない。


 ではそれらに対して、ソーマはどうなのか。

 ソーマが旅をしている目的。

 そんなものは、決まっているだろう。


「我輩は、魔法のためであるな」

「魔法? ……お前さん、魔導士だったのかい? 全然そうは見えない……というか、てっきり剣士だとばかり思ってたんだけどねえ」

「いや、基本的にはそれで合ってるのである。我輩は、魔法を使うことが出来ないであるからな」

「うん? じゃあお前さんは何で魔法のために旅なんてしてるんだい?」

「決まってるのである。むしろ使えないからこそ、そんな我輩でも魔法を使えるようになる方法がないかを探すために、旅をしているのである」

「……っ」


 その言葉を口にした瞬間、何故だかシーラの方から息を呑むような気配を感じた。

 同時に、ドリスも驚いたかのような表情を浮かべており……はて、どういうことだろうかとソーマは首を傾げる。


 そこに驚く要素はないはずだ。

 確かにスキルを絶対視しているこの国では、それは馬鹿げた真似にしか見えないだろう。

 だがそうは思っても、驚きはしないはずなのである。


 しかしそこまで考えたところで、いや、とソーマは思い直した。

 或いは、あまりに馬鹿げた話であったために、驚いたのかもしれない。

 まさかそんなことをしようとする人物がいるなど、考えもしなかった、ということで。


 まあ何にせよ、だからどうというわけでもないが。

 たとえここで馬鹿にされようと、無駄だと諭されようとも、ソーマに止めるつもりはないのだから。


「ふむ……まあ、こういうわけであるから、確かにそのルンブルクとやらに行くのもありと言えばありであるな」

「いいの? 確かに目的地はないけど、何処に何があるのか分からないからってことで、のんびり行くって話じゃなかった? 実際今までもそうしてきたわけだし」

「そのつもりではあったが、ここまでの旅で実際に隅々まで歩いて探すことの限界をいい加減悟ったであるからな。そこで情報を集めるというのも、一つの手だとは思うのである」


 何せソーマには、大して時間が残されていない。

 いや、別に近日中に死ぬ予定はないが、あまりのんびりとしていてはまた年を越してしまうのだ。


 そう、ソーマが学院に入る年が来てしまうのである。


 こうして旅に出たソーマではあるが……いやだからこそ、学院に行くべきかは未だ悩んでいた。

 最初から順風満帆に行くとは思っていなかったが、それにしても、今のところ魔法に関する情報は何一つ掴めていないのだ。

 学院に行った方が可能性があるのでは、と思ってしまうのも、ある意味で当然だろう。


 故に、最低限その判断が出来る程度の情報は、今回の旅で得たかった。

 手応えがあるのか、ないのか。

 いけると思うのか、思わないのか。


 そのためであれば、少しだけ足早に歩くことになり、多少のものを見逃してしまったとしても、ソーマの中ではありなのである。


「なるほど……まあ、わたしは兄様についていくだけですので、判断は兄様に任せるのです」

「まあ……あたしも結局は、そうなるだろうし? どうするかはあんたが決めなさいよ」

「ふむ……了解なのである」


 ただそれを決めるためには、やはり情報が必要だろう。

 そして目の前には、それを持っている人物がいる。


 故にソーマはドリスからそれを得るため、話をねだるのであった。

 短い&話が進んでいないので夜も更新予定です。

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