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冒険者とテスト

「ふむ、つまり路銀が心許ないから冒険者になって金を稼ごうってことかい。まあありきたりな理由っちゃあありきたりな理由だねえ」

「冒険者にはならずとも、魔物の素材などを売ればいいかと思っていたのであるが、買取拒否されてしまったであるからな」

「ああ、それは仕方ない話さね。王都とかならともかく、ここら辺の店じゃあそんなものを持ってこられても売る先がないだろうからね」

「なるほど……そういう話だったのね。てっきりあたし達が信用できないってことなのかと思ってたわ」

「勿論それもあるだろうけど、アタシ達は何か必要になっても自前で揃えちまうからねえ。かといってここには外から商人なんて滅多に来ないし、売れる見込みのないものを買い取るわけにはいかないってわけさ」

「かといって冒険者ではない人がギルドに持っていっても買い取ってはくれないのですよね?」

「あくまでもギルドは冒険者のための組織だからね。ただでさえ責任は負わない、身分は保障しないってことでトラブルに遭いやすいのに、これ以上余計なものは負いたくないんだろうさ」

「それはまた、世知辛い世の中なのである」


 そんな会話を交わしながら、ドリス達は一旦外に出ると、そのまま訓練場へと向かった。

 小さいながら、ここにはそういったものも一応用意されてはいるのだ。


 もっとも、利用する者などほとんどいないし、実際訓練場とは名ばかりの、戦闘が出来る程度の広さを備え、整えられた場所だというだけである。

 それでも、こういったことをするならば最も適した場所でもあり……ドリスは三人をそこに先導すると、さて、と呟いた。


「というわけで、ここでテストを受けてもらうわけだけど……」


 そう言いながら、三人の顔を順に眺める。

 とはいえ、実質それは最終的な確認でしかないのだが――


「……よし。じゃあ、アンタ――ソーマだっけ? アンタに受けてもらうとしようかね」

「ふむ? 全員で受けるわけではないのであるか?」

「まあね。そんなことやってたら面倒くさいだろう? アンタが受かれば二人も受かるし、落ちれば全員駄目ってことだ。分かりやすいだろう?」

「なるほど、我輩に全てがかかっている、というわけであるか……責任重大であるな」

「……平気そうな顔しといてよく言うわよ」

「兄様、兄様なら大丈夫なのです! ふぁいと、なのです!」


 そんなやり取りを眺めながら、ふむと頷く。

 やはり、と言うべきか、三人の中でソーマという少年だけが別格のようであった。


 二人の少女には、僅かに歳相応の部分が残っている。

 時折の言動であったり、緊張した時の硬直であったり。


 だがソーマに関してだけは、そういったものを一切感じさせなかった。

 全てが、自然体なのだ。

 口では色々言ってはいるものの、まるで動じていない。


 むしろこれからのことで、自分に彼を計れるのか、という疑問すらも過ぎるが、やるしかないだろう。


「さて、ところで肝心の内容だけど……アタシと一戦交えてもらうよ。それを以って、テストとする」

「ふむ……模擬戦、ということであるか?」

「そうなるさね。ただ、勝敗はテストの結果に関わらないから、気楽にやってもらって構わないよ」


 これはドリスが考えたことではなく、代行がテストを行う場合、半ば暗黙の了解として決まっていることであった。

 やはりその性根を知るには、戦ってみるのが一番なのだ。


 勝敗が結果に関係ないというのは、だから当然のことでもある。

 代行相手に冒険者にすらなっていない者が勝てなど、合格することはないと言っているも同然だからだ。


 まあマッドボアを倒したということを考えれば、或いはドリスが負ける可能性もあるが……何にせよ、これで先ほどから感じている疑問の一つの答えも出るだろう。

 それは即ち、ソーマの実力に関してである。


 というのも、ソーマに関してだけは、その実力がまったく読めないのだ。

 二人の少女に関しては、漠然と強いのだろうということは分かる。


 だが唯一ソーマだけは、何も感じないのだ。

 まるで、何のスキルも持たない一般人のように、である。


 ソーマを指名したのは、三人の中でリーダーのようだと判断したのもあるのが、それを確かめるためでもあったのだ。

 勿論仮に弱かったところで、それはやはり評価には一切関係はないが……それはそれで、ある種の判断にもなるだろう。

 強さではなく、別のものに二人が従っているということなのだから。


 まあ強かったところで、それに従っているとは限らないわけだが。

 ともあれ。


「んじゃ、そういうわけで――」

「……ドリス、いい?」


 と、そこで不意に、シーラが言葉を遮った。

 確かにシーラも一緒にここに来てはいたが……予想外のことにドリスは驚きの表情を浮かべる。

 シーラは基本的に口数が少ないが、特に知らない人物がいるところではほぼ喋らないからだ。


 事情を知っているだけに、まさかここで口を開くとは思わず、驚きのままに隣を見やる。

 勿論フードに隠されたその顔は、ここからでは見ることは出来ないわけだが――


「どうしたんだい? 随分と珍しいけど……」

「……私が戦っても、いい?」

「へ? それって、試験官役でってことかい?」

「……ん」


 こくりと頷いた姿に、ドリスはさらに驚いた。

 これこそ本当に、まさかだ。


 確かにテストということを考えれば、シーラが戦うのが一番である。

 ドリスはその様子を外から見ることが出来るし、何よりもシーラの方がドリスよりも強い。


 しかしそれを提案しなかったのは、万が一にもやるとは思えなかったからだ。


「……いいんだね?」

「……ん」


 だがやってくれるというのであれば、それを受け入れない理由はない。

 どんな理由でやる気になったのだろうかと気になりながらも、とりあえずシーラに任せることにするのだった。















 訓練場の中央へと歩み寄ると、ソーマは腰から自らの得物を引き抜いた。


 それは今世ですっかりお馴染みとなった木の棒であり……ただ、少しだけ異なるのは、それがきちんと剣の形に整えられていることか。

 手作り感溢れる形ではあるが、一応木剣と呼べる程度のものではあるだろう。

 さすがに旅に出るのであればいつまでもただの棒を振り回しているわけにもいかないだろうと、ソーマ自らの手で整えたものである。


 対して相手の取り出した得物は、当然と言うべきか金属製の剣だ。

 生憎とソーマは金属に詳しくないため、具体的に何製なのかまでは分からないが、最低でも鉄製であることだけは間違いないだろう。

 もっとも厳密に言うならば、それは剣と呼ぶべきではないのだろうが……まあ、どうでもいいことだ。


 それよりも気になるのは、それ以外の部分では、それを握っている者は、どう考えてもこれから一戦交えようとしている者の格好ではなかったということである。

 何せローブを纏いフードを被ったままなのだ。

 ふざけていると思われても仕方がない格好だし、事実アイナはそう思っているのか、どこか不機嫌そうであった。


 とはいえ、それを言ってしまえば、そもそもソーマが木剣を構えているのも、人によってはふざけているようにしか見えないだろうし、ある意味お相子だ。

 それに……少なくとも、ソーマはそう思ってはいなかった。

 おそらくは、リナもそうだろう。


 とはいえそこにアイナ自身の責任はない。

 実力不足であったりとか、慢心であったり、或いは見る目がないとかいう話ではなく、これは単に向き不向きの問題なのだ。


 ソーマ達は、剣を使うものである。

 だからこそ、相手がどんな格好をしていようとも、それがどの程度出来るのか、ということが分かるのだ。


 多分アイナも、相手が魔法を使うのであれば、正確な判断が出来たことだろう。

 まあ魔法を使うのであれば、そもそもあの格好でも問題はないだろうとは思うが。


 ともあれ、故にソーマに慢心はなく、油断なくその姿を見据える。

 正直に言ってしまえば、この対戦は意外だったのだが……ある意味では、望み通りだ。


 剣の道は捨てても、やはりそれを辿ったということは魂が覚えている、ということなのだろうか。

 強者であると分かれば気になり、戦えるとなれば心が躍る。


 まったく我ながら困ったものだと、少しだけ口元を緩め――


「――それでは、始め!」


 ――剣の理・龍神の加護:我流・疾風の太刀。


 開始の合図と同時、踏み込み薙ぎ払った腕に硬質な感触が返って来たことに、口元をさらに緩めた。


「ふむ……やはりやるであるな。本来であれば見づらく動きづらいだろうに、それをまったく感じさせない動き……汝自身の技量だけでなく、そのローブそのものも特別製、というところであるか?」

「……っ!」


 見抜かれた事が予想外だったのか、僅かに動揺し、力任せの薙ぎ払いが振るわれるも、ソーマはその一撃に逆らうことなく、そのまま少しだけ後方に飛び退く。

 そこで追撃がなかったのは、今の言葉が余程効いたのだろう。

 まあつまりは、あの格好はこちらを舐めているのではなく、むしろこちらを油断させるためだった、ということだ。


 それに気付いた理由は、何ということはない。

 ここまで付いて来る際に、まったく不便さを感じさせなかったからだ。

 もっとも、そういったスキルを持っていた可能性もあったので、割と当てずっぽうでもあったのだが……問題なく動けることを見せこちらを動揺させるつもりだったのだろうに、逆に動揺を与える事が出来たようで何よりである。


 これは試験であり、勝ち負けは関係ない。

 そう言われてはいるものの……敢えて手を抜き、負ける必要などもないのだ。


 勝てるようであれば、手を惜しむことはない。

 ソーマはこれでも、割と負けず嫌いなのだ。


 そして動揺しているというのであれば、そこに付け込まない理由もない。

 木剣を握る腕に少しだけ力を込めると、そのまま一足飛びに踏み込んだ。

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