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元最強、現状の一端を明かされる

 立ち話も何だから、ということでその場を歩き出したアイナに先導されて向かった先は、近所にあった公園であった。


 しかしそんな公園を眺めソーマが首を傾げたのは、そこに何かがあったからではない。

 むしろ何もないような、本当に小さな公園だったからこそだ。


 アイナの足取りは迷いのないものであり、どう考えてもここに公園があると分かってのものであった。

 今日転校してきたばかりのはずのアイナが、何故ここに公園があることを知っていたのか不思議だったのである。


 そんなソーマの疑問を感じ取ってか、アイナはこちらが何かを言うよりも先にその答えを口にした。


「この周辺のことは色々と調べてあるもの。ここに公園があることぐらい、分かっていて当然よ」

「ふむ……色々と、であるか」


 では何故そんなことを調べていたのか、という疑問には、アイナは答えることはなかった。


 ただ、その疑問を感じ取れなかったわけでなければ、言えないというわけでもなさそうだ。

 どうせ話すことになるのだから、敢えてここで話す必要もない、といったところであるように見えた。


「さて、それじゃあ話そうと思うけど……そうね、そっちから質問してくれないかしら? 大体のところは答えるつもりではあるけど、中には当然答えられないものもあるもの。それを避けながらって考えるよりは、そっちから質問された方が答えやすそうだわ」

「ふむ、そうであるか……では、まずアレは結局何だったのである? 魔物とか、そういうものであるか?」


 色々と気になることはあるものの、やはり一番に聞くべきはアレだろう。

 不思議なことが多いこの状況ではあるも、どう考えてもアレが一番異質だ。


 現状の解明に何の関係もない、ということはあるまい。


「あんたが魔物って言葉をどういう意味で使っているのかによるけど……多分あんたが考えてるようなものではないわ。アレは、まつろわぬものども。少なくともあたし達は、そう呼んでるわ。あるいは……悪魔の残滓とか言ったりもするけど」

「悪魔、であるか……?」

「ええ。とはいえ、そう呼ばれている理由はよく分かっていないわ。残滓とか言われても、あたしは悪魔って呼ばれてる存在が実在してるなんてことは聞いたことがないし。まあ、あたしが知らないだけって可能性は、有り得るけど」

「ふむ……そうであるか」


 悪魔。

 まさかこの言葉が無関係に出てきた、ということはないだろう。

 つまりは、やはりと言うべきか、悪魔が関わっている可能性が高いということだ。


 敢えてその存在を仄めかす意味は分からないが……まあ、その辺のことも話を聞いていけば分かるかもしれない。


「呼び名は分かったであるが……いまいちどんな存在なのかはよく分からんであるな。それもよく分かっていないのであるか?」

「いえ、それに関しては一応分かっているわ。まつろわぬものどもっていうのは、その名の通り、抵抗し、従わないモノの意。何に従わないかっていうと……そうね、ある意味では世界そのものに、と言えるかしら。世界からあぶれた可能性で、生まれることのなかった可能性。そういったものが形をもったのが、アレよ」

「生まれることのなかった可能性……水子とかそういうものの一種、ということであるか?」

「そ、そういうのもあるとは聞くけど、別にそれだけに限った話でもないわ。可能性の話で言うならば、それこそ、可能性の数だけまつろわぬものどもが現れる可能性があるって話も聞くし。まあ、実際には有り得ないことらしいけど……本来なら。まつろわぬものどもは、可能性のほんの僅かな隙間、綻びによってのみ顕現するらしいから。そしてそんなものは、この世界にはほとんど存在していない」

「全ての可能性が顕現するほどの余裕はない、ということであるか。しかし話を聞くに、一度に出てくる数に限りはあっても実質的に限りはなさそうであるな。可能性の数などといったら、ほぼ無限に近いも同然であろう?」

「それがそうでもないらしいわ。大半の可能性は時間の経過と共に消えていくし。そしてまつろわぬものどもは、生まれることこそなかったけど、同時に生まれる可能性があったモノでもあるから」

「ふむ、なるほど……」


 どんなものであれ、生まれるには環境というものの影響を無視することは出来ない。

 そして環境とは、時間の経過として変わっていくものだ。

 時間の経過と共にかつては有り得た可能性が有り得なくなるというのは道理である。


「しかし、そんなモノに我輩が襲われたのは何故である? 我輩そんなモノから恨まれるような覚えはないのであるが……」

「そんなことないわよ? あんたはまつろわぬものどもから恨まれる理由を、十分に持ってるじゃない」

「ふむ? それは……ああいや、なるほどなのである。生まれて、生きているから、であるか」

「ご明察。生まれることがなかったからこそ、アレらは常に恨みと妬みを抱えているわ。だから、人を襲い物を壊す。手当たり次第に、無秩序に。壊れ、消え、なくなれば、自分達が生まれるための余地が生じるからと。実際にそうなるのかは分からないけど……いえ、多分関係ないんでしょうね」

「要するに、八つ当たり、というわけであるか?」

「そういうこと」


 随分とはた迷惑ではあるが、むしろだからこそでもあるのか。

 お前らは生きているのだから、そこに存在していられるのだから、そうではなかったものどもの恨み辛みを少しでも受け取れ、というわけだ。


 まさに理不尽な八つ当たりであった。


「ふむ、しかしそんなモノが存在している、という話を聞いた事はないのであるが……おそらくは、一般には伏せられていることであろう?」

「そりゃあね。まつろわぬものどもが現れる時にはある程度の前兆があるけど、必ず察知できるとは限らないし、普通に考えてそんなのがいるなんて知ったって得することはないもの。あんただって身を以て経験したでしょ?」

「確かに、知ったところで普通はどうにか出来るものではないであろうな」


 無駄に恐怖を煽るだけで利がないのであれば、その存在を秘するというのは理に適っている。


 だがだからこそ、説明が付かなくもあった。


「何故そんな話を我輩にするのである? 確かに何も聞かされずに納得する我輩ではないであるが、そこまで詳細に聞かせる必要もないはずであろう?」

「必要はあるわよ。あんたには、納得してもらわなくちゃならないんだから。何も知らなかったならばともかく、知ってしまった以上は仕方ないわ。……ま、自己満足か否かで言えば、自己満足でしかないんでしょうけど」

「ふむ……納得、であるか?」

「ええ。そしてそれは、あたしがこの街に来た理由とも関係してるわ。……あたしがこの街に来たのは、アレらが生まれる元凶を止めるためよ」

「元凶……?」


 そこでソーマが首を傾げたのは、今までの話を聞くに、まつろわぬものどもというのは自然発生的な存在というか、そういうものであるように思えたからだ。

 世界の法則、とまでは言わないものの、それに近しいものによって成り立っている。


 だから元凶などというものは存在していないはずなのだが――


「ふむ……基本的には自然発生的なものであるものの、そうではないもの、顕現させる元凶となっている何かもある、ということであるか?」

「……その通りなんだけど、あんた妙に理解力高くない? さっきから思ってたことではあるんだけど……実は前から知ってたりするんじゃないの? 妙に冷静だし」

「生憎と、初耳であるな。で、そんなことよりもその元凶とやらは結局何……否、誰なのであるか?」

「……本当に察しが良すぎじゃないの?」

「別にこの程度のことを察すのは難しくないであろう?」


 そもそもそうでもなければ、ソーマを納得させる必要などあるわけがないのだ。

 ついでに言えば……それが誰であるのかということも、ほぼ推測出来ている。


 そして直後にアイナの口から語られた名は、やはり予想通りのものであった。


 ――フェリシア・レオンハルト。


 それが、元凶である少女の名前であるらしい。


「……驚かないのね」

「まあ何となく予想出来ていたであるしな。しかし驚きはないであるが、疑問はあるであるな。フェリシアがそんな素振りを見せた記憶はないであるし」


 これに関しては半分嘘で半分本当といったところか。

 最初からこの世界でフェリシアと過ごした記憶などは持っていないのだから、そこの部分では嘘で、だがこの世界での記憶らしいものへと問いかけたところで何の反応もなかったので、その部分では本当、というわけだ。


 しかしアイナにそんなことが分かるわけもなく、また本当はどうであろうと関係もない。

 結果的にアイナは、その言葉は正しいと頷いたからだ。


「ふむ……本人に自覚はないが、といったところであるか?」

「そういうことね。そしてだからといって、放っておくわけにもいかないわ。さっき言ったでしょ、可能性の数だけまつろわぬものどもが現れるってことは、本来なら有り得ないって」

「フェリシアならばそれが可能、というわけであるか?」

「そこまでいくかは分からないけど、この街に現れるまつろわぬものどもの数が他と比べて多いのは事実よ。しかも、年々強力になってもきているわ。彼女が誕生日を迎えるたびに、ね」

「なるほど……だから今夜は気をつけろと言ったのであるな」

「そういうことよ。何せここ最近は特に加速度的に酷くなってるらしいから。あと数年も経てば、人類が滅ぼされるかもしれないって予測が立てられてるぐらいには」


 そう語ったアイナの目は、どこまでも真剣そのものであった。

 本当であるかは分からないが、少なくともアイナは本気ではあるようだ。


「ふむ……そしてアイナは、そんなフェリシアを止めに来たのであるよな? その止める方法とはどんなものなのである?」

「目下捜索中ってところね。そもそも彼女がそんなことを出来る原因もよく分かっていないわけだし。ただ……見つかる可能性は低いと思ってるわ。元凶を排除する以外の方法は、だけど」


 そんなことだろうと思ってはいた。

 だからこそ縁を切れと言っていたのだろうし、そうでもなければソーマを納得させる必要もない。


 だが、そんなことを言いながらも、アイナは真っ直ぐにソーマのことを見つめ、決して目を逸らすことはなかった。

 そしてそのまま――


「こっちだって、人殺しがしたいわけじゃないわ。だから、ギリギリまで他の方法は探るつもり。だけど、いよいよ限界となったら――」


 その時は、と、しかしその決意が言葉になることはなかった。

 その直前で、遮るようにして他の声が被さったからだ。


「……ん、させない」


 言葉と同時に、公園には新たな人影が現れていた。

 そしてその人物は、ソーマにとって見知らぬ人物などではない。


 否、それどころか、アイナにとってもそうであったらしく――


「っ……シーラ」


 呟きが向けられた先には、その名の少女が立っていたのであった。

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