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元最強、少女達の救出に向かう その3

 無事合流を果たしたソーマ達は、情報の共有をするなり即座に村を後にした。

 これ以上あそこに残っていたところで得られるものはないと、そう判断したが故である。

 実際カミラは何も得られなかったし、ソーマの得た情報だけで十分でもあった。


 それに何より、あそこが何故町ではなく村だったのか、という理由を察してしまい、不快だったというのが大きいだろう。


「ちっ、胸糞悪い話だ」

「……まあ、ある意味合理的と言えば合理的ではあるのであろうがな」


 あの村は、いわば一種の生贄なのだ。

 あれでは侵略があった場合に対処出来ないだろうが、つまりあの村が滅んだ時は侵略があった時だということである。

 それを知らせるためだけに、あの村はあそこにあり、あの人達はあそこに住んでいるのだ。


 そんなことをする理由は、魔族の住んでいる場所が広すぎるせいだろう。

 何せ魔族達の支配する領域と呼ばれている場所は、ソーマ達の住む国の倍以上はその面積があるというのに、人口は十分の一にすら満たないのである。


 さらに他国――人類と面している場所は多いため、その全てを完璧に守ることは出来ない。

 そのため、最近では小競り合いすらないような場所を、ああした、ということである。


 それは間違いなく、合理的な判断によるものだ。

 それに、おそらくはそれ以外にも何かしらの理由があるのだろう。

 あの村に漂っている雰囲気は、そういうものであった。


 それぞれ理由は違えども、自らの意思でそこにいることに、違いはない。

 そういったものを、ソーマ達は感じ取ったのだ。


 とはいえ、どんな事情によるものであろうとも、それが気に入らないのはソーマも同じである。

 だからこそ、そこからすぐに離れるというカミラの判断に異論を唱えることはなかったのだ。


 まあ何にせよ、今気にすべきはそんなことではない。

 頭を切り替えると、ソーマの得た情報を元に、これからすべきことを確認していく。


「歩いて一日ってことなら、私達なら慣れてないってことを考慮に入れても一時間あれば十分だろうが……遺跡とやらを探すのにどんだけ時間がかかるかが問題か」

「で、あるな。まあそれでも、二時間はかからんであろう」


 厳密に言うならば、遺跡が何処にあるのかはすぐに分かるだろう。

 だから問題は、そこまでの道だ。


 邪神を祭ってた祭壇などに行く人は基本いないだろうし、場所が場所故に素直に辿り着けるように出来ているとも限らない。

 だがそういった諸々を含んでの、プラス一時間だ。

 少なくとも辿り着くまでならば、問題になるような問題は発生しないだろう。


 本当に問題となるようなことがあるとすれば――


「アイナとリナをスムーズに救出できるかどうか、であるな」

「ま、だな。ろくなことをしようとしてないってのは考えるまでもないだろうし、何より相手の戦力が不明だ。魔族であることや、上級以上のスキル持ちがいるだろうことはほぼ間違いないとは思うが……それ以外は、推測のしようもないしな。……さすがに魔天将とかがいるってことはないとは思うんだが、最悪の可能性は考えるべきか?」

「魔天将、であるか……」


 その名はソーマにも聞き覚えのあるものであった。

 魔族側の最強、人類側の七天の王に相当するものだと聞いている。


 ただ、質で言えば同等だという話だし、それは魔族側の最上位――魔王を含めてさえ変わらないという話だ。

 なのに魔族が滅んでいないのは、結局人類側にそのつもりがないからであり……それでも、それらが危険な存在だということに変わりはない。


 と、そんなことを思い出している間に、ソーマ達の周囲の景色が変わっていた。

 平野から、再び森に。

 しかも、魔の森よりもさらに緑の濃い、何処か薄気味悪さすら感じるような場所だ。


 とはいえ今更その程度に臆すソーマ達でもないので、気にすることなく先へと進んでいく。

 目印は未だきちんと見えているのだ。

 ならば何の問題もなかった。


 そしてそれを確認しつつ、先の思考の続きを口に出す。


「ふむ……やつらと出会った時は、即ち死を意味する、であったか?」

「ああ。それは決して大袈裟な話じゃなくて、単なる事実だ。生き延びたやつってのは、その場に七天の誰かが居たか、勇者とか聖人とかいったやつらが居た場合だけだろう。しかも後者の場合は、基本敗走だしな」

「魔天将と互角にやりあえるのは七天だけ、であるか。一度倒したこともあるという話であったが……」

「厳密にはそいつはその功績で七天になったから違うんだが……まあ、大した違いはねえか。それにだから七天のが強いってことでもない。そいつが七天になれたのは、前任のやつが魔天将の一人に殺されたからだしな」


 それこそが、質は同等だと言われている所以だ。

 同時にそれは、人類最強といえど、他と完全に隔絶しているわけではない、ということでもある。

 もっともそれは、魔族側も同じではあるだろうが。


「ちなみに以前は聞き損ねていたのであるが、先生が魔天将と戦ったらどうなるであるか?」

「あん? そうだな……昔なら、勝てるとか言ってたかもな。身の程を知った今となっては、そんなこと口が裂けても言えない……どころか、まあ普通に考えればボロ負けだろう。一分持たせられれば上出来、ってとこじゃないか? 下手をすれば秒すら持たないなんてことも、有り得るだろうな」

「ふむ……そうなのであるか?」

「おいおい、私の腕がどんなものかなんて、お前もよく知ってるだろ? 所詮上級は上級ってことだ。特級には――っと」


 話ながら、カミラは無造作に腕を振り抜いた。

 その手には一本の斧が握られており、瞬間、眼前へと何かが躍り出てくるも……遅い。

 魔物だろうその身体は、その直後には二つの肉の塊へと変わり果てていた。


 そしてカミラはそれを一顧だにせずに斧を背中へと仕舞うと、走る速度を僅かにすら落とさず駆け抜ける。

 勿論それはソーマも同じであるが――


「ふうむ……やはり先生であれば、その魔天将とやらとでもいけると思うのだが……」

「買ってくれるのは嬉しいが、それは買いかぶりってやつだよ。まあ或いは特級持ちが周囲にいなければ、私も未だにそんなことを思ってたかもしれないけどな。何せ身の程知らずにもほどがあるが、これでも昔は七天を目指してたこともあったんだからな」

「それを諦めたのは、周囲に特級持ちがいたから、ということであるか?」

「まあそうなるな」

「ふむ……その人も七天を目指してたのであるか?」

「目指してたっていうか、まあ今の七天の一人、剣の王だしな」

「ほう……どんな人だったのであるか?」

「どんなか……口で説明すると難しいんだが……そうだな。少なくともお前に似ては――っと」


 どうやらあの老婆の言っていたことは、本当らしい。

 明らかに魔物と思える影が、今度は三つ。

 カミラの前に一つとソーマの前に二つ、飛び出てきた。


 とはいえ今回も、結末は先ほどと同じだ。

 合計で六つの肉塊となったそれらには目もくれず、速度を落とすことなく駆けていく。


 ただ先ほどと違ったのは、そこでカミラが苦笑を漏らしたことであった。


「うん? どうしたであるか?」

「いやなに……仮に今も七天を目指してたとしても、多分今ので諦めただろうなと、そう思っただけだ」

「……? それに足るような何かが、今起こったであるか?」

「……はぁ。ったく、これだからお前は。いいか? 今私とお前が魔物を倒した時間はほぼ同じだったんだぞ? 私が一匹でお前が二匹、しかも私はちゃんとした自前の斧で、お前はただの木の棒なのに、だ。これで実力差を感じられないのは、ただの間抜けだろう」

「ふうむ……それはそれ、な気がするのであるが……」


 まあ確かに、カミラの言う通りではある。

 ソーマとカミラの間では、腕にかなりの差があるだろう。


 だがそれは、カミラが弱いということを意味しないのだ。

 例えばだが……リナとカミラが打ち合えば、ソーマはカミラが勝ってもおかしくないと思っている。


 勿論リナは急激な速度で成長しているので、今は、だし、純粋に剣と斧の腕だけで勝負するとなると話は別だが……強いというのは、そういうことではないだろう。

 剣の頂へと至ったソーマだからこそ、断言する事が出来る。

 そもそもの話、戦闘に関しては相性だって存在するのだ。


 七天になれるかどうかに関しては、基準が分からないので何とも言えないが、少なくともソーマは、カミラが魔天将や、ひいては七天相手に瞬殺されるほど劣っているとは、微塵も思ってはいなかった。

 まあ自分の恩師故に、多少の贔屓目が入っているかもしれないというのも、否定する気はなかったが。


 とはいえ、それを口にしたところで、カミラはお世辞にしか受け取らないだろう。

 多分カミラの心は、かつて才能の隔たりを実感してしまった際に、ポッキリと折れてしまったのだ。

 そこから立ち直るには、そこで諦める必要など欠片もないのだということを、実感する他ないのだろうが――


「ふむ……魔天将……本気でいてはくれんであろうか?」

「おいおい、確かにお前なら何とかなりそうな気もするが……その場合、リナ達を助けるのが難しくなるってことなんだぞ? 戦ってみたいって思うのは分からんでもないが、勘弁してくれ」


 そういうことではないのだが……まあ、幾ら何でも、他力本願すぎることではあるかと思い直す。

 カミラが自信を取り戻すために、魔天将がいてくれて、そこで戦ってくれれば、などと考えるのは、アイナ達のことを考えれば、不謹慎でもある。

 普段から世話になり、その人となりを知っているからこそ、そんなことも思うのだが……また機会があれば、というところだろうか。


 まあ何にせよ、今本当に考えるべきことは、アイナ達を救出するということだ。

 頭を切り替えると、そのことについて話を進めながら、時折出てくる魔物を倒しつつ、ソーマ達は森の奥へと進んでいくのであった。

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