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元最強、人類と魔族について勉強する 後編

 魔族という存在が出来るまで、この世界では異なる種族同士が盛大に争い合っていた。


 しかしそのままでは互いに滅ぶだけだと、ふとある時に気付いたのだ。

 ホビット達が絶滅しそうになることで、である。

 そうなったのはホビット達の間で混血が進んでしまったというのも要因の一つなのだが、中でも最大の理由は、やはり戦争で殺されすぎたからなのだ。


「だから争いを止めるため、わざわざ人類の敵対種としての魔族という存在をでっち上げた、ということであるか」

「ああ……愚かなことにな」

「まったくであるな……」


 以前にも話したように、魔族というのは無理やりそう仕立て上げられた者達だ。

 多少本人達にも原因があった者達もいるだろうが、基本的には時の権力者達によって都合よく作られた者達である。


 だがソーマ達が愚かだと言っているのは、それが理由ではない。

 もっと根本的なところで、愚かだと言っているのだ。

 何故ならば、そんなことをしたというのに、結局争いは止んでいないのだから。


 一応一時的には収まったこともあった。

 こんなことをしている場合ではないと、互いに停戦条約を結び、魔族を滅ぼすべく手を組んだのである。


 その状況を作り出した者達は茶番だということを知っていただろうが、彼らにしてみれば真実などはどうでもいいものであった。

 だからそのためと戦力を集め、その矛を魔族に向け――ついでとばかりに他の種族や国へも向けたのである。


 特に救いようがないのが、最も積極的にそれを行ったのが、最も魔族を滅ぼすために精力的に動いていた人類種の国だったということだろう。

 わざわざ人類などという枠組みを作り、声高に宣言しながら、やはり他の種のことなど欠片も信じてはいなかったのだ。

 もっとも他の種族も大なり小なりその備えはしていたようなので、お互い様ではあるのだろうが。


 まあそれまでずっと争っていた者達が、茶番一つで仲良く出来るかという話である。

 ある意味当然のことであった。

 一応当時に比べれば争いの規模は小さくなったので、まったくの無意味だったというわけでもないのだろうが、愚かなことに違いはあるまい。


 ちなみにその最も愚かだった国の名は、ベリタス。

 最も古くから続く、人類の正統なる血筋を伝える王国。

 そう自称している国である。


 そしてソーマ達の住む国――雑多な種族が混ざりあっている混成国家ラディウスの、元となる国でもあった。


「なんというか……独立してくれて心底よかったと思えるような話であるな」

「まったくだ」

「ところでふと思ったのであるが……そんなことになったのであれば、人類などという呼称が何故未だに続いているのであるか?」

「ああ、それは単純だ。一度公的に発表しちまったことでもあるからな。取り消そうにも取り消せないんだとよ」

「面倒な話であるな……」


 とうにそんなものは誰も必要としていないだろうに。

 国同士の云々というのは本当に面倒なものである。


「それで、この話が我輩にどうして必要になってくるのであるか? というか、そもそもこの話って知っていい話なのであるか?」

「ん? 勿論駄目だぞ? 知ってるのは各国家の中でも数名ってところだろうしな」

「何故そんなことを知っているのか、ということも疑問であるが、やはり何故そんなことを我輩に、という疑問が溢れるのであるが……」

「私が知ってる理由は秘密だが、お前に教えた理由は単純だな。お前の立場ってのは、お前が思ってる以上に複雑だってことだ」

「ふむ……?」


 それはつまり、こういうことらしかった。


 現在ソーマの存在は、いないということになっている。

 だがどれだけ否定したところで、その事実は消せない。


 ここで厄介なのは、いないのに事実だけはあるということだ。

 これを邪魔に思うものは少なくないし、足を引っ張るのに絶好の材料だと考えるものもいるだろう。


 しかしここで一番の問題なのは、国内というよりは国外である。


「この国はまだまだ出来たばっかだからな。でかい問題があったら、それだけで致命傷になりかねない」

「あー……何となく分かった気がするであるな」

「まあ、遠まわしに言うならば……友人となる相手は選べってことだな」


 混成国家であるラディウスは、文字通りに様々な種族が住んでいる。

 この周辺にはおらずとも、王都に行けば一通りの種族に会う事も可能だという話だ。


 だが一つだけ例外が存在している。

 この国にすら住むことを許されていない者達。

 つまりは、魔族であった。


 どんな経緯があろうとも……否、そのような経緯があるからこそ、人類は魔族を許すわけにはいかない。

 茶番が原因とはいえ、敵対する存在だということにされたのだ。


 ある程度の地位に居る人物の子供が、その魔族と友人……いや、知り合いになっただけでも、喜んで糾弾してくるだろう。

 そしてそれを庇ってくれるものはおらず、さすがにそんな状況になってしまえばこの国は簡単に終わってしまうのだ。


「ふむ……まあ、一応納得できる理由ではあったのだが、それならば最初から魔族には知り合いにすらなるな、でよかった気がするのであるが?」

「それだけだと、多分お前はその理由を知ろうとするだろ? そうなると、厄介なことになりかねない。だから予め教えといたってわけだ」

「ちなみに、我輩がこのことを誰かに話した場合はどうなるであるか?」

「そうだな……お前は或いはソフィアが何とかするかもしれないが、それを話したってことで私の首は飛ぶだろうな。勿論物理的に、な」

「なるほど……恩師を殺すつもりはないので、黙っているのである」

「そうしてくれ」


 頷くカミラを眺め、しかしソーマにはもう一つ気になることがあった。

 魔族と知り合い以上になる可能性があることを、カミラが確信している節があることだ。


「ああ、それは単純だ。どうせお前はこの国に留まるつもりはないんだろうからな」

「……ふむ?」

「ソフィアは多分、何だかんだ言ってお前を置いておこうとはするだろう。将来的にはリナの側仕えあたりにでもするつもりなんじゃないか? その準備をしてる様子もあるしな」


 だが、とカミラは言った。

 お前はそれを大人しく受けはしないだろう、と。


「……別にそんなこともないであるがな」


 それは本当のことだ。

 或いはそんな可能性もあることは、否定しない。


「ただしそれは、お前が魔法が使えるようになれば、の話だろう?」

「……ま、その通りであるな」


 今世のソーマの目的は、あくまでも魔法を使うことだ。

 魔法を極めることではないので、使えさえすればそこで一先ず満足するのである。

 ならばこの家に留まるというのも、一考の余地はあるだろう。


 が。


「それが叶いそうにないとなれば、お前は何処にだって行くだろう。それこそ、魔族の住む領域であろうとな」

「……よく我輩のこと理解しているであるな」

「伊達にお前の家庭教師をやってるわけじゃないからな。そして今のところ、そうなる可能性は非常に高い。まったく上手くいってないみたいだしな」


 それも事実だ。

 少しずつではあるが、そんな思考が浮かび上がってきてもいるのも。


「それを私は止められないだろうし、止める気もない。多分ソフィアもそうだろう。だから今のうちに釘を刺しておいたんだよ。お前の好きに生きるのはいいが、少しは私達のことも考えてくれ、ってな」

「ふむ……まあ、善処するのである。それに、まだそうなると決まったわけでもないであるしな。まだまだ時間はたっぷり残されてるであろうし」

「まあな。とりあえずは成人しないとどうしようもないだろうしな」


 この世界での成人は、種族や国によって様々ではあるが、一応この国では十五歳ということになっている。

 ちょうど学院の中等部を卒業した後のことであり、自分だけの責任で色々出来るようになるのはそれからだ。

 国を出るのは勿論のこと、他の街に出かけるのでさえ、それまでは親の承認が必要になる。


 まあ、幾つか例外もあるにはあるのだが。


「だからそれまで私は、お前に色々とかせを作るとしておこう」

「出来ればお手柔らかに頼みたいところであるな」


 そうして肩をすくめながら、ソーマは心の中で思う。

 先ほどの言葉は本心からのものだ。


 善処する。

 それは、嘘ではない。

 本当にソーマには出来ればそれを守るつもりはあるのだ。


 ただ……不可抗力であった場合は、さすがに許されるだろう。

 だからどうかその時は、大目に見て欲しい。

 何もやらかさないという自信は、我ながらないのだから。


 そんなことを、やはり声には出さずに思いながら、ソーマは小さく息を吐き出すのであった。

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