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鑑定士とドワーフ その1

「ほぅ……?」


 見慣れない道を進みながら、カミラは感心したように呟いた。


 道とは言いながらも、今まで歩いていたのはほとんどが道なき道という感じの場所だ。

 それに対し、本当にこれであってるのか、などと思ってしまっていたのは、仕方のないことだろう。


 だが視線の先には確かに街の姿があり、本当だったのかと感心したのである。


「なるほど、確かに間違ってたわけじゃないんだな」

「だから言ったであろうに。間違っていない、と」


 不満を感じるような声に視線を向ければ、実際にそこには不満を表した顔があった。

 ジト目を向けてくるソーマに苦笑を浮かべると、肩をすくめる。


「悪かったと思っちゃいるが、あんなところを歩いてきた以上、疑うのは当然だろ?」

「まあ、そう言われてしまうと反論はしづらいのであるが……」


 そんなことを話しながら歩を進めれば、やがて街の様子もはっきりと見えてくる。

 勿論中の詳細までは分からないが――


「ふむ……やっぱりと言うべきか、ここも私達の知ってる街とあんま変わらないみたいだな」

「まだ言ってるのであるか? いい加減慣れてもいい頃だと思うのであるが……」

「頭では分かっちゃいるんだが、常識として教え込まれたことだからな。どうしても先入観っていうか、そういうのが先に来ちまう」

「そういうものであるか?」

「そういうもんだ。ま、それでもさすがに実感出来てきた頃ではあるがな。魔族と私達、そこには何の違いもありはしないんだって、な」


 呟きながら空を見上げれば、そこには蒼い空が広がっている。

 当たり前ではあるが、ラディウスで見上げた時のものと、何一つ変わることのない空だ。


 そして視線を下ろしたところで、それは同じことである。

 特にラディウスは混成国家を謳っていることもあって、他の国と比べると多種多様な種族の姿を見ることが可能だ。

 そこで見られる光景は、多少の文化の違いこそあれ、自分達が普段目にしているものと、大差ないものであった。


 魔族と人類。

 本当にその二つに違いなどはないのだと、知識ではなく実体験として、カミラは理解しつつあった。


 さてしかし、そもそもの話、何故カミラ達がそこに――魔族の領域にいるかと言えば、一応視察ということになっている。

 魔王がラディウスの王都を襲撃してきて、そろそろ丸一年が経つ頃合だ。

 王立学院は今年になってそうそうに再開しているし、王都の復興も少しずつ進められてきている。


 だが元々ラディウスという国は出来たばかりであり、安定しているとは言いがたかった。

 そこでの王都襲撃と、王都の半壊である。

 国がガタガタとなるには、十分な条件が揃っていると言えただろう。


 それでもそうならなかったのは、襲撃を仕掛けてきたのが魔王であるということと、何よりも半壊状態になりながらもそれを撃退出来たという実績があったからだ。

 要するに、この状況で余計な真似をしようとすれば、物理的に潰すぞ、と睨みをきかせることが出来たというわけである。

 内情だけを考えるならば、むしろ以前よりもまともになったと言えるかもしれない。


 しかしかといって、ないものはどうやってもひねり出すことは出来ず、つまりは人手不足だ。

 王都の復興は少しずつ進められているというか、正確には少しずつしか進められないという状況なのである。


 余計なことにかかずらう余裕はなく、内側は何とかなったところで外側はまた別の話だ。

 今何処かから戦争でも仕掛けられたら、戦力的にはともかくとして、国として立ち行かなくなってしまうだろう。


 だからこそ、視察であった。

 特に魔族に関しては、分かっていないことの方が多い。


 この状況で戦争を仕掛けてくる可能性はあるのか。

 あるとして、それはどうにか回避することは出来ないのか。

 それを調べるための視察なのである。


 厳密には、そういうことになっている、と言うべきなのだろうが。


「ふむ……ところで、魔族との戦争を回避するための手段やらは何か見つかったのであるか?」

「さっぱりだが……まあ、何とかなるだろ。というか、私が何もやらなくてもどうせ既に建前は用意されてるんだろうからな。真面目にやるだけ無駄だ」

「一応国からの命令で来てることになってるはずなのであるが、それでいいのであるか?」

「いいんだよ。ちゃんと魔族の様子は伺ってるだろ? それさえ出来てれば十分で、あとのことは所詮建前なんだからな」


 ソーマが魔王城で会った人物のことは、当然カミラ達も聞いている。

 だからこそ、魔族側から戦争を仕掛けてくることはないということも、分かっているのだ。


 というか、むしろ最初から分かっていた、と言うべきだろう。

 姿を消した勇者に、それからしばらくすると侵攻してくることのなくなった魔族。

 それがどういうことを意味するかを推測出来ないほど、ラディウスという国は無能ではない。


 だが確証を得られたわけではなかったし、何よりもそれを公にしてしまえば、ベリタスがどういう態度を取るか予測が付かなかった。

 何せ魔族を積極的に貶めたのがベリタスならば、魔王討伐隊を最初に結成し勇者を送り込もうとしていたのもベリタスだ。


 しかも魔王を倒したと思われる勇者は、そのベリタスが認めた勇者である。

 どう考えてもろくなことにならないのは確実だろう。

 だからその情報は上層部の間だけに留めることになったのだ。


 ベリタスのことはそこまで気にする必要は既にないのかもしれないが、今だからこそ、という可能性もある。

 警戒するに越したことはなかった。


 というのも、復興している最中の今ならばベリタス側から何かちょっかいがあるかとも思ったのだが、特にそういった動きはないのだ。

 それどころか、向こうは向こうで相変わらずゴタゴタが続いているらしく、内乱が起こりそうとか、国が分裂しそうとか、そういった話だけは色々と届いてくる。

 相当混乱の真っ只中にあることだけは、確かだろう。


 しかしそんな状況だからこそ、国をまとめるためにそういった話に飛び掛ってくる可能性がある、ということだ。

 余計な情報を与えるべきではなく、今回の視察も、そういったわけであくまでも対外的なポーズなのである。

 ついでに言えば、内部にいる不穏分子のためのものでもあり、それらには建前の情報だけを与える、というわけだ。


 とはいえ、どうせでっち上げるにしても、実際に何かしなければ怪しまれるだけである。

 それに、実際に魔族の様子を一度は見ておくべきだろうということで、カミラが選ばれた、というわけだ。


 ちなみにカミラが選ばれた理由は、主にそれを可能とするほどの実力者の中で最も暇だったからである。

 今年も無事学院の講師を続けられているカミラではあるが、今は長期休暇なのだ。

 カミラにやるべきことはなく、そのためちょうどいいとなったのである。


 もっとも、最大の決め手は、ソーマとそれなりに親しいから、というものであったが。

 今回の任務はどちらかと言えば、ソーマに同行するついででしかないのだ。


「さて、それにしても、あそこに着けばようやく折り返し地点か。経過した時間の割に、なんか妙に長く感じたな」

「まあ、慣れない場所であったし、一応一通り見て回ったりはしたであるしな。そのせいであろう?」

「いや、お前のせいだってのを、遠回しに言ったんだからな?」

「……む?」


 解せぬ、とばかりの顔をするソーマだが、それはこっちの台詞だった。

 あれだけ色々とやらかしておきながら、その自覚がないとはどういうことなのか。

 話を聞く限りでは、以前旅をした時も今回同様色々なことがあったようだから、そのせいで麻痺しているのか――


「……いや、単にソーマだから、だろうな」

「……何か不当な評価を得た気がするのであるが?」

「生憎と正当な評価だよ。少なくともお前以外の誰もが納得する、な」

「……解せぬ」


 と、そうしているうちに、門の様子をしっかり視認出来るところにまで近付いてきた。


 それなりの数の人影が街に入るための人数待ちをしているようであり、相変わらずその姿は多種多様だ。

 それを一通り眺め、街へと視線を移動させつつ、思わずカミラは目を細めた。


「あの中にお前の剣を打ったやつがいる、か……本当にお前が満足出来るようなやつが出来てるのか?」

「多分出来てると思うであるぞ? まあ、ただの勘であるがな」

「他のやつが言うことならともかく、他ならぬお前の勘だからなぁ。ま、そのせいでこんな場所まで来ることになったわけだが」


 そう、こんな場所までカミラが、そしてソーマが来ることになったのは、それが理由なのであった。

 ソーマが一年前に打ってもらうよう頼んだ剣を受け取る。

 それだけのために、ここまで来たのだ。


 勿論と言うべきか、そうなるまでには紆余曲折あったのだが……それは割愛しよう。

 結論から言ってしまえば、それが必要だと認められたというか、そうすべきだと判断されたからこそ、こうなったのである。


「うーむ……さすがにそれは悪いと思っているのである」

「なーに、言ってみただけだから気にすんなって。実際あいつらがそうすべきだと認めたんだし、私も同感だからな。半分以上が建前とはいえ、ここに来る理由もちゃんとある。それに……お前が認めたっていう鍛冶師のことも、正直気になってるしな」


 普段自分でもあまり意識することはないが、カミラはドワーフであり、ドワーフと鍛冶というものには深い関わりがある。

 ドワーフは基本的に鍛冶系の能力が高く、普通の人類が打ったものよりも強力なものが作り出せると言われているからだ。


 そしてそれは、事実でもある。

 実際カミラの数少ないドワーフの知り合いなどは、全員が鍛冶の道へと進んでいた。


 もっとも、あくまでも基本的には、の話であり、カミラは例外側だ。

 カミラ自身には、そっちの才能はまるでなかったのである。


 とはいえ、特にそれで嫌な思いをしたことはないし、妬んだり恨んだりしたこともない。

 ただ、子供の頃から鍛冶というものが身近なものではあったことに変わりはないので、あのソーマが認めた人物ともなれば、どうしたって気になってしまうのである。


「……そういやあいつら、元気でやってんのかね?」

「うん? どうかしたであるか?」

「ああ、いや、独り言っていうか、こっちの話だ。気にすんな」


 鍛冶に関わることはほとんどないため、つい懐かしくて思い出してしまったものの、どうせ元気でやっていることだろう。

 カミラもそうだが、ドワーフという連中は、種として滅びかけているくせに、妙なところでしぶといのだ。


「ふむ……そうであるか」

「それよか、そろそろ着きそうだが、このまま並んでいいのか?」

「うむ。以前と変わりないのであれば、問題ないはずなのである」

「了解だ。じゃ、行くとするか」


 そうして、カミラはソーマの言葉に頷くと、少しだけこの先にあることを楽しみにしつつ、ソーマと共に街の門の方へと向かっていくのであった。

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