元最強、人類と魔族について勉強する 前編
以前にも少し述べたことだが、カミラとの授業において、ソーマはほぼ半分を魔法について書かれた研究結果を読むことに費やし、残りの半分は普通に様々なことを教わっている。
その内容は以前までとは比べ物にならない難解さではあるものの、ソーマとしてはようやく歯応えが出てきたなどと思っているぐらいなのでまだまだ余裕だ。
もっとも実はそろそろ高等部の内容まで終わりそうなのでどうしたものか、などとカミラは考えているのだが。
逆にそれを知らされていないソーマとしては、ようやく中等部ぐらいの範囲に入っただろうか、などと考えていたりする。
というのも、ソーマには前世の記憶があるとはいえ、具体的にどういったことをどの年代で覚えるか、などというものは詳しく覚えてはいないのだ。
そもそもそういったことは世界によって異なることもあり、簡単に理解出来るということは小等部の頃に習うものだからなのだろう、などと考えているのである。
まあこれは勉強にかけた時間のことも考えれば、仕方のないことでもあった。
ちなみにソーマが現在の進行度を知らないのは、制限があった頃の名残だ。
どのぐらいまで進んでいるのかを教えてしまうと、教わっていない事があると悟られてしまう可能性を考えて、かつての家庭教師達はそれを教えないようにしていたのである。
とはいえそれが未だに続いているのは、カミラがこのまま続けたらどうなるか面白そうだ、などと考えたからではあるのだが。
そのせいで苦労しているのだから、ある意味自業自得である。
閑話休題。
「さて、んじゃ今日は人類と魔族の話でもするか」
「人類と魔族の話、であるか……?」
そこでソーマが首を傾げたのは、今更過ぎる気がしたからだ。
今までにもそういった話は聞いていたので、当然でもある。
だが。
「ま、疑問に思うのも無理はないが、お前には必要となる知識だからな。とりあえず聞いとけ」
「ふむ……まあ、了解なのである」
そこでソーマが大人しく頷いたのは、カミラにそんなことを言われたのが初めてだったからだ。
必要な知識、などというからには相応の理由があるのだろうと、そう思ったのである。
「じゃ、そういうわけで始めるが……ソーマ、公的に人類という言葉を使った場合、そこにどんな意味が含まれるのかは知ってるな?」
「当然なのである。人類種などの複数の種族を纏めた、総称としての言葉、であろう?」
「そうだ。人類種を筆頭に、亜人種、森霊種、妖魔種、吸血種。この人類起源五種を総称して、公的には人類と呼ぶ。まあ一般的には人類と言ったら人類種を指すもんだがな」
そう、こういった話を聞くまでソーマは知らなかったのだが、実はこの世界には様々な種族が居るらしい。
まあ屋敷に居るのはほとんどが人類種であり、そうでなくとも外見上違いが分からないような者達ばかりなので、分からないのは当たり前なのだが。
ちなみに屋敷に居る者達がどちらかと言えば特殊なのであり、本来は人類種以外の者達は見た目で区別が付くものだ。
その違いは各種で共通しているものが多く、少なくとも知っていれば一目で分かるようなものである。
例えば、亜人種――自らは獣人種と名乗っている者達は、その名の通り身体の一部に獣の特徴を持つ者が多い。
その大半は耳や尻尾程度の小さなものであるが、中には半身がそうである者も存在している。
パッと見で判別するのであれば、最も分かりやすい種族と言えるだろう。
また、妖魔種――デモニスと呼ばれる者達もまた、見た目で分かりやすい。
端的に言って、その姿は魔物と似た特徴を持つ者が多いからだ。
むしろ魔物の一種だと言ってしまう者もいるほどであり、かなり迫害にあいやすい種族でもある。
森霊種――通称エルフも、分かりやすいといえば分かりやすい外見をしているだろう。
何せエルフは何故か美男美女が非常に多いのだ。
そのため美男美女を見かけたら、まずエルフだと疑え、などと言われるほどである。
その他にも特徴的な尖った耳をしているため、じっくりと観察すればまず他の種族と間違うことはない。
ただ、吸血種だけは唯一見た目では分かりにくいと言えるだろう。
多少肌が白く、エルフほどではないが美男美女が多いとされているものの、それも特徴と呼べるほどのものではない。
唯一、口内の犬歯が発達しているため、そこを見れば分かるとされているが……まあ、普通口内まではじっくりと見ないものだ。
そういったことから、最も人類種と間違われやすく、また詐称しやすい種族などとも言われている。
尚、全て基準が人類種となっている理由は、単純だ。
ソーマが人類種だから……というわけでは、ない。
そういったことを決めたのが、人類種だからだ。
そのため公的には、全ての基準が人類種となっているのである。
閑話休題。
「ちなみに、何故この五種が人類と呼ばれるようになったのかは、知ってるか?」
「いや、知らんであるな。というか、気になってたことの一つであるな。外見が理由かとも思ったものであるが、そうなると精霊種が含まれていないのが分からんのである」
様々な種族が居ると言った通り、この世界に存在している種族は五種だけではない。
そのことはソーマも習いはしたのだが、何故かそれらの種族は人類とは数えられていないのだ。
それを聞いた時から、ずっと疑問ではあったのだが――
「まあそれに関しちゃ簡単だな。その種族独自の国を持ってるかどうか、だ。その国の種族だと他の国が認めれば問題はないから、市民に他の種族が混ざってても問題はない」
「ああ……だから精霊種は含まれんのであるか」
「あいつらは国を作らないからな。あとは同じ理由で幻想種も含まれていない。まああいつらに関してはそもそも種として認めていいのか、とかいう話もあるぐらいなんだがな」
「ふむ……ドワーフなどとも同じであるか」
ドワーフ、ノーム、アマゾネスなどと呼ばれてる者達も、この世界には存在している。
ただ、希少な存在であるらしく、見かけたら幸運になる、などとも言われているほどだ。
「いや、そっちに関しては少し事情が違う。ドワーフとかに関しては、既に種として認められていないってだけだ」
「どういうことであるか?」
「単純な話だ。種として成立していない――純血のやつが、ほとんど存在してないんだよ」
「……なるほど」
確かにそれならば、種として認められないとなってもおかしくはない話だ。
まあ異論を出そうと思えば出せるだろうが、今のこの世界ではそうなっている、ということなのだろう。
「ふむ……ということは、先生がこんなとこにいるのもそれが理由なのであるか?」
「は? どういう意味だ?」
「だって先生はドワーフなのであろう? それもおそらくは、純血の」
「――!?」
瞬間、カミラが目を見開いた。
予想だにしていないことを言われた、という顔だ。
とはいえ、ソーマとしてはむしろその反応の方が予想外だったと言える。
ドワーフにも特徴があり、成人になっても人類種の子供程度にまでしか成長しない、というものがあるのだ。
そのため、背丈の低さなどを考えれば、そこに至るのは当然のことだと思うのだが……そうではないのだろうか?
そんなことを考え首を傾げるソーマだが、やがてカミラは苦笑を浮かべた。
「なんていうか、お前は本当にさすがだな……まさか気付かれるとは思わなかった」
「そうであるか? 普通に考えれば分かりそうなものではあるが……」
「希少とは言うが、要は絶滅寸前だってことだしな。まさか目の前に居るとは普通考えないんだよ。ドワーフは他の種の血が混ざるとそっちに引っ張られる特徴もあるし、私も普段は極端に成長が遅いとか言って誤魔化してるしな」
「ふーむ……そんなものであるか」
「ま、それはどうでもいいことだから、話を戻すぞ。で、だな……ところで、そもそもどうして人類なんていう枠組みを作ったと思う?」
「ふむ……?」
それは考えたことのないことであった。
そういうものだと教えられた、ということもあるが――
「必然性があってそれは作られた、ということであるか?」
「まあな」
「ふむ……となると……なるほど。そこに魔族が関わってくる、ということであるか」
そう呟くと、カミラの顔に再び苦笑が浮かんだ。
それを眺め、やはりかとソーマは頷く。
「何で今のだけでそこに辿り着けんだよ……」
「いや、普通気付くであろう。わざわざ今日は人類と魔族の話などと言われたのであるし」
「ああ、そうか……ちっ、私のミスだな」
「いや、別にミスというわけではないと思うであるが……」
むしろ分かりやすい分プラスだろう。
だが驚かせたかったのか何なのか、残念そうに息を吐き出すとカミラは言葉を続けた。
「ま、お前の察した通り、人類なんて呼称が正式に出来たのは、魔族が理由だ。というよりは、魔族ってものを原因にした、ってとこだがな」
ちょっと長く書きすぎたので一旦分割。
続きは今夜中に投稿予定です。
今のところただ設定を垂れ流してるだけですが、そのうち意味が出てくる……はず?




