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元最強、見知った者達と再会する

 眼前の光景を眺めながら、ソーマは溜息を吐き出した。

 こちらに来て正解だったようだと、そう思ったからである。


 上空でソフィア達が戦っているのは、見えていた。

 王城に移動したというのも、当然のように把握しているし、援護が必要だということも理解している。


 それどころか、王都が魔物に囲まれているということも、そのうちの幾つかが王都へと侵入してしまったということも、分かっていた。

 そちらにもまた、助けが必要だということも、だ。


 だがその全てを承知の上で、ソーマはここに来たのである。

 ヒルデガルドとリナがここで何者かと戦っていたということは気配から分かっており、ここを最優先としなければならないと、そう感じたからだ。

 それは半ば勘ではあったが――


「ふむ……まだ我輩の勘は衰えてはいないようであるな」

「に、兄様、なのです……? どう、して……」

「ああ、無理に動こうとせんでいいのである。うーむ……傷はそれほど深くなさそうではあるが、一先ず治療しておいた方がよさそうであるな。傷跡が残ったら大変であるし」


 ――剣の理・龍神の加護・一意専心・明鏡止水・虚空の瞳:秘剣 慈愛の太刀。


 動こうとしたリナを制し、近付いていくと、ジッと眺めた後で剣を突き刺す。

 それからゆっくりと引き抜いていけば、傷は跡形もなくなっていた。


「うむ、これで問題ないであろう」

「あ、ありがとうございますなのです……それにしても、剣を突き刺したら傷が治るとか、相変わらず不思議なのです」

「そうであるか? 剣を介して活力を与え活性化させているだけであるから、不思議でも難しくもないのであるが。ところで、ヒルデガルドも治療は必要であるか? 見たところ大きな傷は負っていないようであるが」

「い、いや、我輩は大丈夫なのじゃが……って、そうではないのじゃ! 貴様、何故ここにいるのじゃ!?」

「あ、そ、そうなのです! 何故兄様がここにいるのです!?」

「ふむ、何故と言われても困るのであるが……」


 勘に従って来ただけなので、正直それ以上の理由はない。

 いや、二人のことが心配で来たというのも勿論あるのだが――


「それは嬉しい……って、いや、そういうことではなくてじゃな――」


 ヒルデガルドが何かを口にしようとしたが、その先が言葉になることはなかった。

 それを遮るように、巨大な音がその場に響いたからだ。


 それは地面が爆ぜる音であり、続いた大きな笑い声であった。


「はっ、ははは……! くだらん、つまらん遊びだと思っていたが……付き合っていた甲斐があったようだな……!」


 そんな言葉と共に、土煙の向こう側から姿を見せたのは、先ほどソーマが吹き飛ばした男であった。


 ヒルデガルドがすぐ傍にいたため、あまり威力を込めることは出来なかったのだが、それでも傷一つないように見える。

 だがそこでソーマが目を細めたのは、何処となくその男に見覚えがあるような気がしたからだ。


 ヒルデガルド達の気配を感じ取った時も、何処かで感じたことがあるような気配だと思ったのだが――


「あー……貴様、あれであるか? 確か、邪龍とか呼ばれてた龍であるな?」

「えっ? 邪龍って……あれなのですよね? 確か兄様が倒した……」

「ふむ……そういえば、聞いた覚えがあるのじゃ。まあ、龍人なのじゃから、一度倒されたのは当然のことじゃが、まさかソーマが倒したやつじゃったとは……」

「くっ、すぐに気付くとは、さすがだな。ああ……それでこそだ……そうでなければならない……!」


 何やらぶつぶつと呟いていて、あまり相手をしたい手合いのタイプではないが……そうも言ってはいられまい。

 きちんと借りは返す必要があるし、放っておくわけにもいかなそうだ。


 ただ、一つ気になるのは、あの時戦った邪龍とは少し雰囲気が違っているということだろうか。

 気配から考えると、間違いはないとは思うのだが。


 そんなことを考えながら、傍らのヒルデガルドを見下ろす。


「……? 何じゃ?」

「いや、龍人と一言で言っても色々なタイプがいるというか、龍であった頃から変わるのは貴様らの習性か何かと思っただけである」

「さらっと失礼なこと言ってるような気がするのじゃが、龍であった頃から変わるのは当然じゃろう?」

「当然、なのです?」

「龍には龍に相応しい態度というものがあるものじゃからな。龍が妙に親切だったり、腰が低かったりしたらイメージが崩れるじゃろ? それは即ち、その龍そのものの存在の否定にも繋がる。ま、龍は龍で色々と苦労もあるということなのじゃ」

「ふむ……まあ、何となく分かる話ではあるな」


 要するに、義務と責任、という話だろう。

 力あるものには、相応のそれらが付随してくる。

 それだけの話だ。


 人によってはそれが合っていたり、退屈に思えたりするということでもあり――


「まあ、人も龍も、その根底は大差ないということなのじゃな。人が一人一人違うように、龍もまた一匹一匹違うのじゃ」

「ふむ……ちなみにそれには、背の高さも含まれていたりするのであるか? アレは成人男性程度はあるように見えるのに対して、貴様はどこからどう見ても幼女でしかないのであるが……しかも貴様の方が圧倒的に年上のはずであるよな?」

「この姿は意図的にそうしているだけなのじゃ……! あれじゃぞ、我がその気になればぐらまらすな美女になれるのじゃぞ……!?」

「はいはい、それは凄いのである」

「凄いのですねー」

「貴様ら信じていないのじゃな……!?」


 信じていないのではなく、どうでもいいだけである。

 肩をすくめながら、こちらへとゆっくり歩いてくる元邪龍だった男を眺めながら、さてどうしたものかと思う。


「二人とも、アレと戦ったのであるよな? どうだったのである?」

「……そうですね、強いと思うのです。正直わたし一人だけでしたら、とっくに倒されてたでしょうから。あまり言いたくはないのですが、元邪龍と聞いて納得出来てしまったぐらいなのです」

「それに異論はないのじゃが……貴様なら問題なく倒せるじゃろう? その程度のこと、見れば分かると思うのじゃが……」


 それは事実だ。

 正直なところ、戦ったところで負ける気は微塵もしない。

 過信でも驕りでも何でもない、純粋で客観的な判断である。


 だが。


「貴様もそうなのであるが、龍人というのは、龍からある程度能力を継承した上で、龍人独自の力を持っていたりすることもあるのであろう? つまり端的に言ってしまえば、面倒な上にしぶとい」

「……まあ、身も蓋もない言い方をすればそうなるのじゃが……」

「ああ……なるほどなのです。確かに今の状況では、あまりここで時間をかけるわけにはいかないのですね。ちなみに、兄様は今何が起こっているのか分かっているのです?」

「周囲の気配や見えたものから推測しただけであるが、おそらく大体分かっていると思うのである」


 おそらくは上空でソフィア達が戦っていたのが、今回の元凶だろう。

 アレを倒せば、大体のところは解決するに違いない。


 勿論、目の前の男のように、それだけでは解決しないものもあるだろうが――


「ふんっ、話を聞いていれば……貴様、我に勝てるつもりなのか?」

「お? どうやら多少落ち着いたようであるな……というか、むしろ何故勝てないと思うのである? 龍であった頃に負けたうえ、貴様あの頃と比べればまったく力など出せないであろうに」


 ヒルデガルドが言った通りだ。

 その程度のこと、見れば分かる。


 しかし男は、自信あり気に笑みを浮かべた。


「あの頃の我と同じだと思うなよ。あの頃の我は、ただ世界が憎かった。あの方を壊し否定したこの世界を、人間を、滅ぼしたかった。今もそれは変わっていないが……その前に、まずは貴様だ……! 我の邪魔をした貴様を殺す……そのために、我はこうして蘇ったのだ……! 我が憎しみの果て、その身で味わってみるがいい……!」


 笑みが深まり、殺気となり迸る中、ソーマはふむと頷いた。

 確かにそれなりのものではあるものの――


「あー……なるほど。道理で妙に覇気がなかったはずなのじゃな」


 と、そこで何かに納得したように、ヒルデガルドがそう言うと溜息を吐き出した。

 それからこちらに視線を向けてくると、肩をすくめる。


「これは貴様の責任なのじゃ。きっちりと義務を果たすべきじゃな」

「ふむ……まあ、言われるまでもないのであるが……」


 ソーマに殺され、それを恨みに思ったのか何なのか、こうして復活してきた。

 ならばその相手をするのは、ソーマの義務であり責任である。


「ちと違うのじゃが……ま、戦えば分かるじゃろ」


 何やらヒルデガルドが意味深な言葉を呟いたが、それに関して問いかける暇はなかった。


 ついにすぐそこまでやってきた男が、足を止め、構えたからだ。


「……構えとか、あったのですね」

「確かに我ら相手には見せなかったのじゃが……それだけ本気だということなのじゃろうな。ソーマ、貴様も本気でやるといいのじゃ」

「……まあ、余裕がないであるから、最初からそのつもりではあるが……」


 何処か釈然としないながらも、ソーマも構える。

 それを見た男の口元が歪み、弧を描いた。


 何やらよく分からないことはあるものの、どうやら相手がやる気十分だということは間違いないようであり――それを目にした瞬間、ソーマは地を蹴っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まーソフィアさんとじゃ優先順位に隔絶した差があるよね。先ず嫁と妹。あとはそれからだ
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