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元最強、辟易とする

「うーむ……ここまで順調に来てこれとは、ついてないであるなぁ……いや、或いは、今までの分のツケがここで一気に来た、ということなのであろうか……?」

「無駄口叩いてる暇があったら手を動かしなさいよ!」

「いや、動かしてるであるぞ? まあ無駄口だと言われればその通りなのであるが、そのぐらい言わなければやっていられないというか、ぶっちゃけ我輩そろそろ飽きてきたのである」


 ――剣の理・神殺し・龍殺し・龍神の加護・絶対切断・疾風迅雷・明鏡止水・乱舞:百花繚乱。


 溜息と共に腕を振るった瞬間、眼前にいたそれらが纏めて消し飛んだ。

 数にすれば大体二百ぐらいだろうか。

 一瞬にして目の前の空間が開け、だが即座に埋まる。


 先と同等、或いはそれ以上の魔物によって、だ。


「飽きたって……あんたさすがにちょっとぶっちゃけすぎじゃないの!?」

「だってかれこれ二時間ぐらいであろうか? ずっとこんなことを続けているのであるぞ? さすがの我輩も飽きるというものである」


 再度溜息を吐き腕を振るうも、同じことが繰り返されるだけだ。

 魔物が消し飛びすぐに補充され、また消し飛ばす。


 こんなことをソーマ達は、二時間ほど前からずっと続けているのであった。


「まったく、こういう時はいつもよりもさらに魔法が使えるなら、って思うであるなぁ。魔法が使えるならもっと多くの魔物を一度に消し飛ばせるであろうに」

「それは一度にあんた以下の魔物しか消し飛ばせてないあたしに喧嘩売ってるの……?」

「うん? いや、別にそういうわけではないのであるが……そもそもそういうのは、向き不向きの問題であろう? まあそれを言うならば、確かに我輩が魔法を使えるようになったところで、大規模殲滅系の魔法が使えるとは限らんわけではあるが……」

「向き不向きなら、むしろあたしは向いてる方でしょうが……! そもそもあんたは、色々な意味で基準がおかしいのよ!」

「そうであるか……?」


 確かにソーマの基準は母であるソフィアとなるが、それを抜きにしてもやはり向き不向きの問題であると思う。

 アイナは自分が戦闘系に偏った魔導士だからそう言ったのだろうが、攻撃を得意にするからといって、必ずしも広域殲滅系が使えるわけではないのだ。


 むしろアイナが得意とするのは、狭域高火力系――限定条件下での、単体との戦闘だ。

 根本的に方向が違うのである。


 勿論どちらが優れているというわけではなく……ただ、この状況で必要とされるのが前者であるのは確かだ。

 ちなみに言うまでもなくソフィアはこっちであり、いてくれればとうに戦闘は終わっていたかもしれないが、言っても詮無きことである。


「……というか、ソーマもアイナも贅沢」

「うん?」

「え、何が?」

「……私は、そもそも二人みたいに一度に敵を複数倒す事が出来ない」

「ふむ……それはその通りではあるが、それで何の問題もないであろう?」


 確かにシーラの戦闘スタイルは、アイナよりもさらに限定的だ。

 アイナは一応ある程度の広域魔法も使えるが、シーラは完全に一対一を想定したものである。


 目の前の敵へと集中し、これを確実に屠る。

 そういう戦闘スタイルだ。


 ただ、複数と戦えないというわけでもない。

 身のこなしによって複数と同時に戦うことなく、一対一を複数回繰り返すそれは、見事だと言えるだろう。


 そもそも刀を扱っている時点で、複数の敵と一度に戦おうとするのは間違いなのだ。

 合理的で無駄のなく、何の問題もない動きだと思うのだが――


「フォローのつもりなんだろうけど、シーラが言いたいのはそういうことじゃないと思うわよ?」

「……ん、違う。……別にいいけど」

「うーむ……フォローというか、ただの本音なのであるが……」

「っていうか、だから無駄口!」

「いや、ちゃんと手も動かしてるであろう?」


 ――剣の理・神殺し・龍殺し・龍神の加護・絶対切断・疾風迅雷・明鏡止水・乱舞:百花繚乱。


 言っている間も消し飛ばすが、作り出した空間はやはりすぐさま魔物によって埋められてしまう。

 最早溜息すらも吐き飽きたと思えるぐらい、ずっと繰り返し続けている光景である。


「と言いますか、アイナさんも十分無駄口を叩いているような……? まあ、ソーマさんにつられた形ですから、ソーマさんの責任と言えばそうですが」

「それはさすがに理不尽だと思うのであるが?」

「あっ……その、ごめんなさい」

「あ、いえ、わたしの方こそ、無駄口を叩いてしまってすみません。つい気になってしまったと言いますか……これはただの言い訳ですね。わたしなんて、何一つ役に立てていないというのに……」

「いや、それは仕方ないであろう。そもそもそんなこと皆承知の上であったであるしな」

「……ん、問題ない」


 それは気を使ったわけではなく、ただの事実でしかないのだが、フェリシアはそうは思わなかったようだ。

 一層顔を曇らせると、俯いてしまう。


「……すみません。せめて近くに森があれば、役に立てたのですが……」

「まあ、周囲に広がっているのは草原のみで、見える範囲の中には森などないようであるしな」

「……ん、仕方ない」

「というか、森がないってのはそうなんだけど……草原って言っていいのかしらね、これ……?」

「いや、一応言っていいのではないであるか? 魔物で敷き詰められているとはいえ、それを地形には含めないであろうし」


 その言葉の意味するところは、そのままだ。

 文字通りの意味で、地面には魔物が敷き詰められ、地面の一部すら見ることは出来ない。


 それが、今ソーマ達の目の前に広がっている光景なのであった。


 先に口にした通り、ここまでソーマ達は順調そのものと言える速度で進んでこれていた。

 王都のあるラウテルンへと向かうための最後の街を後にし、ラウテルンへと足を踏み入れ……それから三十分もしないうちに、この魔物の集団に襲われたのだ。


 一面どころか、地面も先もまったく見えないほどのそれを見てさすがに驚いたものの、放っておけるものではない。

 ラウテルンに入るや否やこんなものを見かけるなど、ソーマの感じている嫌な予感に関係があるのかもしれない、などと思いつつも殲滅を始め……おかしいということに気付くのに、そう時間は必要としなかった。


 何せ倒しても倒しても、魔物が減っている気がしないのである。

 先が見えないため、ちゃんと減っているのかもしれないが、明らかな異常だ。


 だが異常であるならば、尚更放ってはおけない。

 そのまま殲滅を続け……二時間が経った今も、それは終わっていないのであった。


 しかしソーマにとって問題だったのは、実はそれそのものではない。

 これもまた、先ほど口にした通りだ。


 即ち――いい加減飽きたのである。


「せめてもう少しマシな魔物が相手なのであればまた別なのであるが……」

「……ん、確かに正直、そろそろ飽きてきた」

「シーラまで……! まあ、言いたいことは分からなくもないけど……」


 ソーマの口にしたことは、完全に本音だ。

 少なくとも、もう少しまともな相手であったならば、さすがに飽きるということなどは言い出さなかっただろう。


 だが、これは無理だった。

 何せ……今相手してるのは、角うさぎなどを始めとした、所謂下級に位置する魔物ばかりだからである。


 一匹だけであれば、戦闘系の下級スキルを持たないような者達でも、数人集まれば倒せるようなものばかりだ。

 だからこそ、まとめてであろうとも楽に倒せ過ぎてしまい、結果こうして飽きが来てしまっているのである。


「稀にでいいから、強敵が混ざってたするとかなり違うのであるがなぁ……」

「あんたはそれでいいかもしれないけど、こっちはそんなことされたら大変なだけよ……!」

「……でも、気持ちは分かる」

「シーラはまたそんなことを……ソーマさん、妹に変な影響を与えるのはやめてくださいと言っているではありませんか」

「それ我輩のせいであるか……?」


 もっとも、ここまで戦い続けることが出来ているのは、そんなのが相手だからでもある。

 何と言っても二時間だ。

 ソーマやシーラはともかく、さすがにアイナはそこまで戦い続けることは出来ていなかっただろう。


 とはいえ、基本的に魔物の数と強さは反比例すると言われている。

 強い魔物が出現するならば数は少なく、弱い魔物が出現するならば数が多く、という具合にだ。


 これがどういった理由により起こっているのかは分からないが、もっと強い魔物がいたのであれば、数も少なく済み、今頃終わっている可能性があったということであり――


「まったく……本当に厄介であるな」

「……ん、これじゃ迂回しようにも出来るか分からない」

「まあそれに、放っておくわけにもいかないものね……」

「……すみません。せめてわたしが何かに気付ければよかったのですが……」

「だから、気にする必要はないと言っているであろう?」


 とはいえ、さて、どうしたものだろうか。

 正直なところ、全力を出せば全てを纏めて吹き飛ばせるような気はするものの……それで終わる気がしないのだ。


 どれだけの数がいるのだとしても、とうに万どころか、もう一つ上の桁程度の数は倒しているだろう。

 ならば少しぐらい減った気がしなければおかしいのに、そんな様子は微塵もないのだ。

 まるでどこかから常に補充されているようなこの状況を正確に見極める事が出来なければ、何をしても無駄に終わりかねない。


 何より、これで終わりではないのだ。

 きっとこの先には、これよりも遥かに厄介な何かが待っている。

 そんな予感があるからこそ、飽きたと言いながらも続けるしかないのだ。


「それにしても、先の街での休憩を最後に王都まで行くつもりであったが……この調子ではまだ休憩取る必要がありそうであるな」

「……そうね。この様子じゃこの先何があるか分からないし、王都まで辿り着けても役立たずで終わりそうだもの」


 おや、と思ったが、何だかんだでアイナにも思うところはあるらしい。

 とはいえ何にせよ、まずはこの状況をどうにかしなければならないが。


「ふむ……このまま続けててもどうやらさらに飽きるだけのようであるし……仕方ない、少しだけやり方を変えてみるであるか」

「やり方を変えるって……何をするつもりなのよ?」

「とりあえずこのまま奥に突き進んでみるのである」

「はあ!?」

「また無茶な真似を……」

「別にその程度無茶には入らんであろう? というか、そうでもせんと何も変わらなそうであるしな」


 実際に今のところ、何も変わっている様子はないのだ。

 その可能性は高いだろう。

 フェリシアがいることもあって、可能ならばこのまま終わるのが一番だったのだが、無理そうな以上他の手段を試すしかあるまい。


 そしてそれをするのに最も向いているのは、言うまでもなくソーマである。


「……ん、分かった。……援護する」

「分かったって……はぁ。まあ、確かにその通りではあるわね。分かったわよ、あたしも援護するわ」

「うむ、二人とも任せたのである」

「……ソーマさん」

「うん?」

「無茶はしないでくださいね?」

「言ったであろう? 別にその程度無茶には入らない、と」


 心配そうな顔を見せるフェリシアを安心させるため、不敵な笑みを見せながら、それまでと同じように眼前の魔物達を消し飛ばす。

 一瞬、目の前の空間に空白が発生し――


 ――剣の理・神殺し・龍殺し・龍神の加護・絶対切断・怪力無双・疾風迅雷:奥義一閃。


 魔物が集まるよりも早くもう一撃を叩き込み、強引にその空間を押し広げた。

 そして。


「じゃ、ちょっくら行ってくるのである」


 魔物の群れに向かって、ソーマは気軽な様子で飛び込んでいったのであった。

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